
目次
1. AI(人工知能)の普及は新たなエネルギー需要を創造する
AIと石炭火力発電に、いったいどんな関係があるのかと思われる読者も多いことと思われる。AIの開発は、人類の生活をより快適なものとし、経済を成長させるものと期待されている。しかし、AIは、人間の脳と同じような働きをするために、膨大なデータを処理し、複雑な計算を行うために、通常のブラウザ検索と比較して、10倍程度の電力を消費するとされている。IEA(国際エネルギー機関)は、AIに係わるデータ・センターの電力需要は、2030年には現在の3倍にも達すると予測している。世界の電力消費量は、今後も大幅に増加することが見込まれている(図表1)。
(図表1)世界の電力需要見通し(単位:兆キロワット時)
IEA公表政策シナリオ2025年11月12日

出所:IEA世界エネルギー見通し2025年11月
AIは、複雑な計算のロジックを用いるため、電力の消費量が多く、半導体が熱を出すために、その冷却用の電力消費も増加する。以前は、省エネルギー技術の進化により、電力消費量は伸び悩むとされていた。しかし、AIの普及、データ・センターの新設、半導体工場の増設等により、電力消費は大きく伸びるという見方に変化している。人口が増加し、経済成長が著しいアジアにおいても、エネルギー消費の抑制政策が現状のままの、「カレント・ポリシー・シナリオ」においては、電力消費量は2050年には2010年と比較して4倍に達する(図表2)。
(図表2)アジア大洋州の電力需要見通し(単位:兆キロワット時)
IEAカレント・ポリシー・シナリオ2025年11月12日

出所:IEA世界エネルギー見通し2025年11月
2. 世界の石炭消費量は増加している
長期的な脱炭素への流れは変わらないものの、「地球温暖化の元凶」とされている石炭の消費量は、2024年、2025年と過去最高を記録している。石炭は、天然ガスと比較して、単位熱量当たりの炭酸ガス排出量が2倍もあり、地球環境保護に熱心な欧州諸国においては、石炭の消費量は減少している。しかし、単位熱量当たりの価格が原油の5分の1程度であり、資源量も豊富な石炭は、アジア、アフリカをはじめとした途上国において、消費量が増加している。米国においても、脱炭素に後ろ向きなトランプ政権の誕生により、石炭産業の育成、石炭労働者の雇用の創出、石炭火力発電の促進という政策をとり、石炭の消費量は増加傾向にある。
AIによる電力需要の増加に対して、太陽光発電、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーは、季節、天候、時間によって出力が変動する欠点をもっている。そのため、24時間安定して電力を供給できる石炭火力発電への注目が、米国、途上国において強まっている。トランプ大統領は、2025年4月に米国国内の石炭採掘、利用を促進する措置に署名し、2025年9月には石炭火力発電を促すために、連邦保有地を石炭採掘向けに開放することを表明した。トランプ政権は、石油業界に向けて、Drill Baby Drill(掘って、掘って、掘りまくれ)と演説し、トランプ支持者を熱狂させたように、Mine Baby Mine(石炭採掘について、掘って、掘って、掘りまくれ)と宣言し、石炭をBeautiful Clean Coal(美しい、環境に優しい、石炭)と形容し、石炭産業の支持を得ている。こうした石炭への追い風のもと、中国をはじめとして、世界の石炭消費量は増加を続けている(図表3)。
(図表3)世界の石炭消費量(単位:石油換算百万トン石油換算)

出所:世界エネルギー統計レビュー2025年6月
3. AI時代に石炭火力発電が増加する理由
脱炭素の流れにおいて、世界はいかに炭酸ガス排出量を減少させるかに努力している。しかし、現実には石炭火力発電は増強され、石炭の消費量は増加している。その理由としては、第1に電力の供給安定性が挙げられる。データ・センターは、昼夜を問わず、24時間稼働する必要がある。石炭火力発電はベース・ロード電源(基幹電源)として、24時間の安定供給が可能である。第2に地政学リスクが小さい。石油は、埋蔵量の3分の2が政治的、宗教的に不安定な中東に集中しているのに対して、石炭の輸出国は、インドネシア、豪州、南アフリカ、米国等と、地政学リスクが小さい。加えて、ホルムズ海峡等の封鎖リスクがあるチョーク・ポイントを通過する必要がない。第3に石炭の価格が極めて安価なことが挙げられる。石炭は、輸出国では露天掘りの場合が多く、生産コストが極めて安い。火力発電の場合、熱エネルギーによって、高温の水蒸気を発生させ、蒸気タービンを回して、発電を行う原理は、石炭火力発電も、石油火力発電も、原子力発電も同じである。単位熱量当たりの価格を比較すると、石炭はもっとも安価なエネルギーとなる(図表4)。
(図表4)炭化水素別価格比較(単位:円/千キロカロリー)

出所:財務省統計
資金が十分にない途上国においては、AIによる電力需要増、経済成長のためには、炭酸ガスの多さに目をつぶっても、石炭火力発電を使おうという動きになる。現在の環境保護政策に改善を加えない、IEAによるカレント・ポリシー・シナリオにおいては、アジアの石炭火力発電量は、2035年に向けて、さらに増加する(図表5)。
(図表5)アジア大洋州の石炭火力発電量見通し
2025年11月12日IEA統計(単位:テラワット時)
カレント・ポリシー・シナリオ

出所:IEA世界エネルギー見通し2025年11月
4. 環境に優しいエネルギーの開発に取り組む日本
脱炭素に否定的なトランプ政権、欧州諸国の保守政党の台頭により、地球温暖化対策への機運が低下し、IEAも、さらなる地球温暖化対策を施さない現状の政策を続けた場合のカレント・ポリシー・シナリオを2025年に復活させた。こうした脱炭素を見直す動きにより、IEAは、世界の石炭需要は、2050年に向けて、一定量の消費が続くものと見通しを改定している(図表6)。
(図表6)世界の石炭需要見通し(単位:メトリック百万トン)
IEA見通し2025年11月12日カレント・ポリシー・シナリオ

出所:IEA世界エネルギー見通し2025年11月
しかし、こうした現状を放置しておくと、パリ協定による地球の気温上昇を産業革命期から1.5度以内に抑えるという目標を実現できない。既に、2024年には、世界の平均気温は、産業革命期から1.6度上昇している。日本は、2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目指し、2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画において、非効率な石炭火力発電のフェード・アウトを決めている。
日本の石炭火力発電は、2025年時点において世界最高の発電効率を実現しているだけではなく、さらに燃焼しても炭酸ガスを排出しないアンモニア(NH₃)を石炭に混ぜて、炭酸ガスの排出量の削減をはかっている(図表7)。アンモニアは燃焼速度が遅く、同じく燃焼速度が遅い石炭火力発電の炭酸ガス排出削減の有力な脱炭素エネルギーとなる。既に、東京電力ホールディングスと中部電力が出資するJERAは、愛知県の碧南石炭火力発電所において、2024年に20%のアンモニアの石炭との混焼試験に成功し、既存の石炭火力発電設備の簡単な改良によって、炭酸ガスの排出削減を実現している。その他にも、間伐材、輸入材等のバイオマスを石炭に混ぜることによって、石炭火力発電の炭酸ガス排出量を削減するプロジェクトも行われている。
(図表7)アンモニア発電の動き2024年
| 企業名 | 概要 |
|---|---|
| JERA | 愛知県の碧南石炭火力発電でアンモニア20%を混焼 |
| JERA | 2040年代にアンモニア専焼 |
| Jパワー | 2023年度にアンモニアの混焼試験予定 |
| Jパワー | 豪州とグリーン・アンモニア共同検討 |
| 大手電力会社の動き | 2017年にアンモニア混焼0.8%試験 |
| 2050年に向けてアンモニアの混焼 | |
| 2023年にアンモニアの混焼開始 |
出所:各種新聞報道
さらに、石炭火力発電とCCS(炭酸ガス回収・地下貯留)の技術を組み合わせて、石炭の燃焼から排出された炭酸ガスを回収して、地下の炭酸ガス貯留層に注入して、より炭酸ガス排出量を削減した石炭火力発電の磨き上げを行っている。中国電力と電源開発が共同で行っている、「大崎クールジェン」のプロジェクトにおいては、粉末の石炭に空気を吹き込み、高圧のガスによりガス・タービンを回し、廃熱により水蒸気タービンを回す、IGCC(石炭ガス化複合発電)を行い、発電効率を引き上げたうえに、石炭にバイオマスを混ぜて、燃焼時の炭酸ガス排出量を減らしている。さらに燃焼時の炭酸ガスを回収して、地下に貯留して、実質的に炭酸ガス排出ゼロを目指している。日本は、高効率の石炭火力発電技術とアンモニア、バイオマスを燃料に混ぜる技術、さらには排出された炭酸ガスをもとに、グリーン水素と反応させて、合成メタン(eメタン)を生成する技術開発を行っている。原理的には、安価なCCS技術が開発されるならば、石炭火力発電に係わる炭酸ガスの大量排出という課題は解決する。しかし、現状においては、CCSによる炭酸ガス回収コストは、炭酸ガス1トン当たり8,000円〜10,000円と極めて高く、さらに大気中の希薄な炭酸ガスを回収して、地下貯留し、地球の大気中の炭酸ガス濃度を減少させる、「カーボン・ネガティブ」の技術は、炭酸ガス1トン当たり10万円を超えるコストがかかり、実用化には時間がかる。
5. 日本にとって現実的な石炭から天然ガスへの切り替え政策
脱炭素政策に否定的なトランプ政権、資金力のない途上国は、石炭火力発電の増強に向かっている現実があるものの、欧州の先進国をはじめとして、大きな流れとして、炭酸ガス排出削減への動きに変化はない。英国は、G7(先進7ヵ国)のなかで最初に、2024年9月末に石炭火力発電所を、すべて廃止している。日本の場合も、先進国の一員として、2050年のカーボンニュートラルを目指して、効率の悪い石炭火力発電を廃止し、JERAは、電力需要が減少する春と秋に、石炭火力発電所の稼働を停止する方針を示している。日本は、石炭火力発電の縮小を行っており、石炭消費量は減少基調にある(図表8)。
(図表8)日本の石炭消費量(単位:百万トン石油換算)

出所:世界エネルギー統計レビュー2025年6月
日本は、地球温暖化対策を主導する先進国として、アンモニア、水素の利用、炭酸ガスからの合成メタンの生成等、様々な炭酸ガス排出削減技術の開発を行っている。AIの発達による電力需要の増加に対しては、太陽光発電、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーのさらなる活用と、出力変動を補う意味で天然ガス火力発電の強化をはかっている。天然ガスは、単位熱量当たりの炭酸ガス排出量が石炭の半分程度であり、硫黄酸化物、窒素酸化物の排出も少ない(図表9)。ボイラー、石炭火力発電の燃料を、石炭から天然ガスに切り替えることが、一番現実的な地球温暖化対策となる。例えば、 Daigasグループは、2025年2月に発表した「エネルギートランジション2050」のもと、再生可能エネルギーの普及拡大やトランジション期において重要性を増す天然ガスの利用拡大・高度利用を推進しており、火力発電ではe-methane・水素などの利用による電源のゼロエミッション化を目指すことで、脱炭素社会の実現に貢献をめざしている。
(図表9)化石燃料別排出比較(石炭を100とする)

出所:経済産業省資料
「再生可能エネルギーと天然ガス火力発電の組み合わせ」は、地球温暖化対策を重視する国々の常識となってきている。天然ガス・タービンにおいて、世界シェア第1位の三菱重工業は、60%を超える発電効率を誇る、天然ガスの燃焼によるガス・タービンと、廃熱による水蒸気タービンを組み合わせた、天然ガス・コンバインド・サイクル発電を得意とし、日本をはじめとして、世界的な天然ガス火力発電の増加により、タービンの受注残高が積み上がっている。IEAも、2025年11月における最新の見通しにおいて、世界の天然ガス消費量は、現状の環境政策が続く、カレント・ポリシー・シナリオにおいて、大きく増加すると予測している(図表10)。
(図表10)世界の天然ガス需要見通し(単位:10億立方メートル)
IEA2025年11月12日見通しカレント・ポリシー・シナリオ

出所:IEA世界エネルギー見通し2025年11月
欧州諸国を除いて、途上国が思い切った脱炭素政策に踏み込まない限り、経済成長とAIによる電力需要の増加に対し、再生可能エネルギーだけでは不足する。電力需給調整用の蓄電池のコストも割高である。炭酸ガス排出削減と発電量の増加の両立をはかるために、天然ガス火力発電を現実的な解として、天然ガス消費量は2050年まで伸び続けると見通されている。天然ガス火力発電量も、2050年まで増加する(図表11)。
(図表11)世界の天然ガス火力発電量見通し(単位:テラワット時)
IEA2025年11月12日見通しカレント・ポリシー・シナリオ

出所:IEA世界エネルギー見通し2025年11月
脱炭素への長期的な流れは変わらないものの、米国のトランプ政権の誕生、世界各国における脱炭素政策に反対する保守政党の台頭、想定を超えたAIの登場による電力需要の増加により、電力の世紀は、激動の時代に入っている。これまでの、「地球温暖化対策=太陽光発電、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの普及」という考え方の見直しが迫られている。いかに地球環境に優しく、電力の安定供給を保証し、電力価格を安価なものとし、より炭酸ガスの排出削減を実現できるのか。石炭火力発電の増加と、天然ガス火力発電増強のせめぎ合いのなか、火力発電と環境との調和が求められている。

東京大学工学部非常勤講師(金融工学、資源開発プロジェクト・ファイナンス論)
三菱UFJリサーチ・コンサルティング客員主任研究員
石油技術協会資源経済委員会委員長
- 【略歴】
- 1981年東京大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、東京銀行本店営業第2部部長代理(エネルギー融資、経済産業省担当)、東京三菱銀行本店産業調査部部長代理(エネルギー調査担当)
出向:石油公団企画調査部:現在は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト)
出向:日本格付研究所(チーフ・アナリスト:ソブリン、資源エネルギー担当)
2003年から現職
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