便利さの代償、拡がるプラスチック汚染と環境への影響

便利さの代償、拡がるプラスチック汚染と環境への影響

2025.06.11

プラスチックは、レジ袋から自動車に至るまで、私たちの日常のあらゆる場面で使用されています。しかし、その多くは石油を原料としており、自然分解が困難なため、環境に深刻な影響を及ぼしています。さらに、近年ではマイクロプラスチックが人体に与える影響も懸念されています。製造から廃棄、リサイクルに至るまで、多くの化石燃料を使用し、CO₂を排出するプラスチック。まずは、その現状と影響について理解を深めましょう。

1. 脱プラスチックの必要性

生態系保護・環境保護

便利で安価なプラスチックですが、自然界で生分解されにくく、その廃棄物が生態系に与える影響は深刻です。さらに生物への影響だけでなく、食物連鎖や生態系サービス(漁業、観光業など)にも悪影響を及ぼしています。


・海洋生物への影響(誤飲・窒息)
海洋プラスチックごみは、魚や海鳥が誤って摂取し、死に至るケースも数多く報告されています。また、漁網が海洋に流出し、海洋生物が絡まり、窒息死する事例も多数発生しています。

たとえば、2019年、フィリピンの海岸に打ち上げられたマッコウクジラの胃の中から約40kgのプラスチック袋が見つかりました。また、ミッドウェー環礁ではアホウドリの親鳥がプラスチック片をひなに与えて大量死しています。


・陸上生態系への影響
海洋だけでなく、陸上でもプラスチックごみを野生動物が誤って食べることで命を落とすことがあります。

気候変動対策

プラスチックは主に石油を原料とするため、その生産・処分の過程で大量のCO₂が排出されます。特に焼却処理では多量のCO₂が発生し、気候変動を加速させる要因となります。

2023年にはプラスチックのライフサイクル全体で27億トン以上のCO₂が排出されており、これは世界の総排出量の約5%に相当するほどです。

(参照)
Five charts:Why a UN plastics treaty matters for climate change(Carbon Brief)

日本では廃プラスチックの約6割が焼却されており、年間約1,600万トンのCO₂が排出されています。このため、プラスチックの生産・使用・廃棄を削減する「脱プラスチック」は、カーボンニュートラルの実現にも大きく貢献します。

日本における廃プラスチックのリサイクルの割合

日本における廃プラスチックのリサイクルの割合

※一般廃プラスチックの排出係数2.77kg-CO₂/kg-廃プラから算出
※マテリアルリサイクル:プラスチックごみを再利用して、別のプラスチック製品を作ること
※ケミカルリサイクル:化学的にプラスチックごみを分解し、化学原料として再生すること
※サーマルリサイクル:焼却して熱利用すること

(参照)
カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)(資源エネルギー庁)

人体への影響

プラスチックが海に流出すると、波や紫外線の影響でマイクロプラスチックとなり、プランクトンや小魚が摂取します。これが食物連鎖を通じて蓄積され、最終的には人間の健康にも悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

資源の保全

プラスチックの原料である石油などの化石燃料は有限な資源です。世界のプラスチック生産量は年間4億トン以上に達し、そのうち2割以上が自然環境に流出しているとされています。脱プラスチックは、貴重な資源の持続的利用にもつながります。

(参照)
Global Plastics Outlook(OECD)

経済的・社会的影響

プラスチックごみの処理には多額のコストがかかります。また、海洋汚染が観光業や漁業に悪影響を及ぼし、経済的損失につながることも指摘されています。

2. プラスチック汚染の現状

(1)プラスチック廃棄物排出量

2050年には250億トンのプラスチックごみ

プラスチックは私たちの生活のあらゆる場面で使用されており、その年間生産量は過去50年間で20倍に増加しました。1950年以降に生産されたプラスチックの累計は83億トンを超えています。

(参照)
The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics(WORLD ECONOMIC FORUM)

現在の生産・消費ペースが続けば、2050年には250億トンのプラスチック廃棄物が発生し、そのうち120億トン以上が埋立または自然投棄されると予測されています。

日本の容器包装プラごみは世界で2番目に多い

プラスチック生産量を産業セクター別に見ると、容器包装のプラスチック生産量が最も多く、全体の36%を占めています。日本は、1人当たりの包装プラスチックごみの発生量が、アメリカに次いで世界で2番目に多いという特徴があります。

(参照)
Single-Use Plastics:A Roadmap for Sustainability(UNEP)

(2)海洋プラスチック汚染の拡大

プラスチックごみの重量が魚より多くなる!

海洋に流出した海洋プラスチックごみが世界的な課題となっています。世界全体では、毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出しており、このままでは2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えると試算されています。

(3)マイクロプラスチック問題

近年、マイクロプラスチック(5mm以下の微細なプラスチック類)が海洋生態系、人体へ与える影響が大きな問題として浮上しています。 北極圏の海氷や深海の生物の体内からもマイクロプラスチックが検出されており、地球全体の生態系に拡散していることが判明しています。

これらは環境中に投機されたレジ袋やペットボトルを含むプラスチック製品で、紫外線劣化などにより破砕されたものが、河川や下水を経て最終的に海洋に集積したものが中心です。タイヤの摩耗、洗濯時の合成繊維(ポリエステル、ナイロン)、人工芝などからも放出されるため、発生源として注意が必要です。

さらに、プラスチックには製造時に化学物質が添加されているほか、海洋漂流中に有害物質を吸着することもあり、その影響も懸念されています。

東アジアと東南アジアで発生した海洋プラスチックごみは黒潮に乗って日本近海に流れ込みます。そのため、日本近海は世界的に見ても海洋プラスチック汚染が著しい海域となっており、表層のマイクロプラスチック濃度は世界平均の約27倍に達しています。

(参照)
日本近海に大量のマイクロプラスチックが降り積もっている!?太平洋から北極海にまで流れ込んでいる、その量を観測データから推定すると(JAMSTEC BASE)

3. まとめ

プラスチック廃棄物と汚染の問題は、気候変動や生物多様性の喪失と並び、地球規模の危機のひとつとなっています。毎年、約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出し、それらは生分解されることなく海中を漂い、海洋生物だけでなく人体にも影響を及ぼしています。さらに、日本では廃プラスチックの多くが焼却処分されており、CO₂排出の一因にもなっています。脱プラスチックは、地球規模の課題であると同時に、脱炭素にも貢献する取り組みであり、国や自治体にとどまらず、企業にとっても積極的に取り組むべき重要なテーマです。後編では、この問題に対する国際的な規制や企業の取り組みについて紹介します。

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箕輪 弥生(みのわ やよい)箕輪 弥生(みのわ やよい)
環境ライター・ジャーナリスト
NPO法人「そらべあ基金」理事

環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年〜2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。

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