2024.11.01
食品廃棄物はこれまで、処理にもエネルギーと費用がかかる“困りもの”でしたが、バイオマスとしてとらえると、バイオガス発電、熱利用など再生可能エネルギーとして利用できる貴重な資源となります。さらに、肥料や飼料などにも使えるため、循環型の事業サイクルである“サーキュラーエコノミー”の構築にも寄与します。食品廃棄物は資源。エネルギーなどに活用することで温室効果ガスの排出を削減し、脱炭素に貢献しましょう。ここでは食品廃棄物をエネルギーに変えるための仕組みや事例を紹介します。
目次
バイオマス系の廃棄物には、食品廃棄物以外にも農業残さ、木質系の廃棄物、家畜ふん尿、下水汚泥などさまざまな種類があり、それぞれにエネルギー利用が進んでいます。この中で食品廃棄物は堆肥化、飼料化、バイオガス化、エタノール化、BDF化などの利用法がありますが、ここでは実用化が進み、発電や熱利用など企業がエネルギーとして活用しやすいバイオガス化について注目します。
バイオマス系廃棄物の利用用途の概要
(環境省「食品廃棄物系バイオマスのエネルギー利用システムについて」より一部改変)
食品廃棄物などを嫌気環境(酸素の無い状態)で微生物によってメタンを生成し、ガスエンジンやボイラーで都市ガスと混合、もしくはそのまま代替利用することで、発電や熱利用ができます。また、発酵残さ(微生物の食べ残し)は、肥料として利用できます。
オンサイトで仕組みを構築する場合は、作られたバイオガスや電気を施設周辺や地域で有効に利用するシステムを構築することが必要ですが、余剰分が多い場合は売電なども可能です。
(参照)
環境省「メタンガス化の技術」
廃棄物をバイオガス化することでさまざまなメリットがあります。
・廃棄物の有効活用
これまで産業廃棄物として処理してきた食品廃棄物がエネルギーやたい肥として活用でき、循環型の事業を構築できます。
・温室効果ガスの排出削減
食品廃棄物を焼却処分したり、埋め立てる場合に比べて、CO₂、メタンなど温室効果ガスの発生を抑えることができます。埋め立てた場合に排出されるメタンガスは二酸化炭素の25~28倍も温室効果があるとされており、埋め立てずにバイオガス化して有効利用することは環境にやさしい取り組みと言えます。国連環境計画(UNEP)によると、食料ロス・廃棄は、世界の温室効果ガス排出量の8~10%を排出していると報告しています。
・廃棄物処理費用の削減
食品廃棄物を産業廃棄物として処理する費用が抑制できます。
・FIT・FIPによる売電収入
食品廃棄物のバイオガス化による発電は再生可能エネルギーとして固定価格買取制度により、2024年、2025年共に35円/kWhでの売電ができます。但し、FIT制度は、1,000kW未満のバイオマス発電であり、自家消費型・地域消費型、地域一体型のものに適用されます(2025年度)。
以下のどれかひとつを満たすことが条件となります。
・発電した電気の3割以上を自家消費する
・5割以上の電気を地域内の電気事業者に提供する
・熱は自家消費し、電気の1割以上を自家消費する
・自治体が出資、もしくは関わる小売電気事業者に供給している
・災害時にバイオガスから発電された電気や熱を活用することを、自治体の防災計画などに位置付けられている
再生可能エネルギー由来の電気を売電する際に、市場価格が変動する卸電力取引市場などで発電事業者が自ら売電する制度。売電収入に加えて一定の補助金(プレミアム)が交付される。
●イオンモール豊川さまでの事例
オンサイト型バイオガス化システム「D-Bioメタン」を導入頂きました。イオンモール施設内のレストランやフードコードで排出された食品廃棄物を発酵させてメタンガスを製造し、コージェネレーション(熱電併給)システムにより、電気と温水を作り施設内で利用しています。D-Bioメタン導入により、飲食・食物販店舗から排出される食品廃棄物を半減するとともに、食品廃棄物から発生したバイオガスを燃料として活用することで省エネ・省CO₂に寄与しています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
「イオンモール豊川さま」のバイオガス発電設備
また、Daigasエナジーでは、バイオマスの有効利用により食品廃棄物の処分量の削減やCO₂排出量の削減を実現するソリューションをご提案しています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
●このほか、さまざまな業種でのオンサイトでのバイオガス発電が行われています。
たとえば、ビール会社では、ビールを製造した後の排水からバイオガスを生成し、都市ガスと混焼して発電し、その排熱を利用するコージェネレーションシステムを全国の工場で導入しているケースもあります。また、ある焼酎製造メーカーでは、製造⼯程から排出される食品残さを利用してメタン発酵によるバイオガスを⽣成。ボイラー燃料として⾃社で利⽤するとともに、余剰分を電力へと変換し、電力会社へ売電。FIT制度を活⽤して売電収⼊を実現しています。
そのほかに食品メーカーでは、異なる商品の製造への切り替え時に配管から排出される食品残さなどを養豚農家で発生する家畜の排泄物と混合し、バイオガスによる発電を行い、工場で利用するなどの工夫をしているケースもあります。
企業内で処理できない場合は、関連会社と連携して行ったり、外部の企業に委託する場合があります。
たとえば、あるバイオガス専門事業者は、県内企業からの食品廃棄物を回収、飼料化、バイオガス化、発電、熱利用、たい肥化と、食品廃棄物の状態に合わせたカスケード利用を構築し、電力は売電し、自治体と連携し災害時の利用も想定しています。
また、地方の温泉街では、飲食店や宿から出る⽣ごみなどからメタン発酵によりバイオガスを製造。バイオガスによる電⼒はFIT制度を活⽤して売電、余剰熱は温室ハウスの加温に利⽤して南国フルーツを栽培しています。
グループ内で連携して食品廃棄物の分別・収集・運搬・バイオガス化・再生可能エネルギーの活用を行うケースもあります。
EUでは、食品廃棄物の削減を重要視しており、食品廃棄物のリサイクルやエネルギー回収に関する政策を推進しています。2015年からサーキュラーエコノミーを政策として打ち出し、2018年には「循環経済パッケージ」が採択され、2030年までに家庭や小売業者から出る食品廃棄物を半減する目標が設定されました。
多くの欧州諸国では、家庭や事業所で出る食品廃棄物は別途回収され、堆肥化やエネルギー利用に回される仕組みが整っています。
・イタリア
都市ごとにバイオ廃棄物専用の回収システムが整備されており、廃棄物は主に堆肥化やバイオガスの生成に利用されています。
・ドイツ
食品廃棄物のリサイクルが強く推進されており、バイオ廃棄物(Bioabfall)専用のコンテナがあり、バイオマスプラントでのエネルギー回収が進められています。作られたバイオガスは発電や暖房、または車両の燃料として利用されます。
・スウェーデン
食品廃棄物をバイオガスに変換する技術で世界をリードしています。多くの都市では、バイオガスを燃料とするバスやごみ収集車が導入されています。
・デンマーク
多くの都市では、バイオガスや廃棄物発電で得られたエネルギーを地域暖房ネットワークに供給しており、家庭や公共施設の暖房に使われています。また、廃棄物を焼却して排出されたCO₂と、風力などの再生可能エネルギー由来の水素を使って、合成燃料を製造する技術が進んでいます。
スウェーデン、ストックホルム市内を走るバスの約15%は、家庭などから集められた生ごみからできるバイオガスを燃料にしている
近年、食品廃棄物から持続可能な航空燃料(SAF)を生産する取り組みが、世界中で注目されています。「SAF」は廃食油、微細藻類、木くず、サトウキビ、古紙などを主な原料として製造され、従来使用されている化石燃料からつくったジェット燃料とくらべ、CO₂を大きく削減します。
・日本
政府は2030年までに燃料使用量の10%をSAF(持続可能な航空燃料)に置き換えるとの目標を掲げ、各社や企業の集合体であるコンソーシアムにより、使用済みの食用油や食品廃棄物からSAFを生産する取り組みが進んでいます。
・EU
燃料供給事業者に対し、域内で供給する航空燃料に一定比率以上のSAFを混合することを義務付けています。このため、各国で食品廃棄物や農業廃棄物など、廃棄物由来の原料を使用してSAFを開発しています。
・米国
2030年までに年間30億ガロンのSAFを生産することを目標に、食品廃棄物からSAFを生産する施設を強化しており、世界最大の工場はネバダ州にあります。
廃棄物の活用方法をご紹介いたしましたが、その前段としては食品廃棄物を減らす営みが重要です。国内外の食品廃棄についての現状やその対策について、別の記事でまとめておりますので合わせてご覧ください。
環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年~2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。
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