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台頭する中国

1969年に初めて米国のアラスカからLNGの輸入を開始して以来50年にわたり、日本は世界最大のLNG輸入国として国際LNG市場の主導権を握ってきた。しかし、ここ数年、その状況が大きく変化してきている。世界最大のエネルギー消費国の中国が、地球温暖化対策、大気汚染防止策として石炭・重油から天然ガスへと燃料の切り替えを行ったことで、2025年頃には日本を抜いて世界最大のLNG輸入国になると予測されているからである。
中国のエネルギー消費量の1%程度を天然ガスに切り替えると、年間4,000万トン以上のLNG輸入が増加するともいわれ、LNGスポット市場での中国によるLNGの買い漁りで、LNGスポット価格は2017年春の百万Btu(ブリティッシュ熱量単位)当り5ドルから、2018年11月には2倍以上の11ドルになっている。このままの勢いで中国がLNG輸入を増加させると、価格がさらに高騰し、中国が日本に代わって国際LNG市場の最大手としてLNG価格の主導権を握る可能性が出てくる。
一方、日本は、国内市場の縮小、省エネの推進、原子力発電所の再稼働、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及等により、LNGの輸入量が今以上に大幅に増加することは期待できない状況にある。

LNG事業の海外展開に活路

世界のLNG貿易量は2030年頃には現在の2倍近い年間5億トンに達し、増加分の大部分をアジア諸国が占めるともいわれている。日本国内のLNG需要が減少基調にあるなか、日本が今後も国際LNG市場のリーダーとして、その地位を維持するためのLNG戦略の一つとして、官民を挙げたLNG事業の海外展開が挙げられる。
パリ協定の合意のもと、世界が低炭素社会、脱石炭の動きを加速させるなか、これまで石炭火力発電に依存してきた、インドネシア、タイ、ベトナムをはじめとしたアジア諸国におけるLNG需要の伸びが見込まれており、既に、タイ、シンガポールは、LNGの輸入を開始し、日本向けLNG輸出大国であったインドネシアも、国内の天然ガス需要の増加及び天然ガス生産量の伸び悩みから、2019年にはLNG輸入を開始する状況となっている。50年の長きにわたりLNG産業に携わる中で日本の都市ガス・電力企業等が培ってきた世界最先端の技術とノウハウには、単純な価格競争に陥らないだけの優位性が備わっていると考えられ、こうしたLNG需要の増加に対して、LNGの調達、輸送、LNG受入基地建設、都市ガス供給システムの構築、天然ガス火力発電所建設等、さまざまなビジネス・チャンスが期待できる。
既に昨年10月には、JBIC(国際協力銀行)の協調融資を受け、インドネシアにおいて、日本企業が参画するLNGを燃料とする火力発電所建設のプロジェクトファイナンスが締結されている。さらに、経済産業省、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、アジア諸国におけるLNG関連の人材育成に乗り出すとともに、官民合わせて1兆円の資金支援を掲げて、LNG関連のインフラ輸出拡大を後押ししている。 対抗する中国もLNG輸入の増加に伴い、受入基地に関するノウハウ等を蓄積してきている。既に、日本企業から米国のフリーポートLNGの権益を取得したほか、フィリピンのLNG受入基地の建設プロジェクトにも参画しようとしている。
日本企業はこれまでに培ってきたLNG受入、再気化、都市ガス供給、火力発電の安定操業等に関する豊富な実績と安全性という強みに加え、FSRU(浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備)等のコスト低減の技術、都市ガス企業による運営・保守を含めた総合力の優位性を打ち出している。これにより、2019年以降も国際LNG市場の主導権を握るべく、新たなインフラ輸出の商機とLNGビジネスの裾野の拡大を求めていくことができるのである。

エネルギー
よもやま話

今年もトランプ大統領の口先介入に振り回されるのか

トランプ大統領が誕生して2年。過激で予測不可能な発言が、米国のみならず世界経済に混乱を引き起こしている。トランプ氏の政策、理念には、論理的一貫性がなく、想定外の発言が多いといわれているが、筆者が見る限り一つはっきりしていることがある。米国国内の選挙に勝つことだけに焦点を絞っているということである。
なかでも、昨年6月、12月のOPEC総会にあたって、トランプ氏が行った石油政策やツイッター攻撃(口先介入)が、原油価格の乱高下を招いたことは記憶に新しい。クルマ社会の米国では、ガソリン価格が1ガロン当り1セントでも上昇すると、大統領選挙に負けるといわれる。昨年夏以降の原油価格の動きを見ると、米国がイラン原油の禁輸制裁を行ったことから、原油価格は10月に1バレル76ドルという4年ぶりの高値をつけた。その後、11月の中間選挙を前にガソリン価格上昇を防ぐために、日本をはじめとした8ヵ国に対してイラン原油禁輸の適用除外とする政策を打ち出した一方、サウジアラビア、ロシアがイラン原油の供給減少を穴埋めすべく増産したことから、供給過剰感が強まり11月には1バレル50ドルを割り込む事態となった。わずか2ヵ月という短期間での3割もの下落は、トランプ氏の猫の目のような政策に振り回された結果といえる。
また、サウジ人著名記者殺害に関し、国際的非難を浴びるサウジアラビアを擁護する一方で、「サウジアラビア!もっと原油価格を下げよう」という圧力ともとれる駆け引きを展開し、そのたびに、原油先物市場に参加する投機資金も振り回された。サウジアラビア、ロシアをはじめとした主要産油国が、今年1月から合計120万b/dに達する協調減産に合意したため、原油価格は下支えを得て、下落基調から少し上向きつつある。ただ、WTI原油価格が1バレル55〜60ドル程度を超えると、米国国民の支持を得るために、ガソリン価格の高騰を抑制するツイッター攻撃を行う可能性が強い。実際の石油需給とは関係なく、政治的な思惑が原油価格を振り回し、国際原油市場の適正な価格形成をゆがめる厄介な状況が今年も続く可能性が高そうだ。