脱プラスチックの未来へ、 国内外のプラスチック規制と企業の対応策

脱プラスチックの未来へ、 国内外のプラスチック規制と企業の対応策

2025.06.11

広がるプラスチック汚染に対して、国際的な規制や各国の規制が強化されています。特に、欧州はより厳しい規制を課し、サーキュラーエコノミーに向けた施策を先んじています。これに対して、企業は、脱プラスチックを推進するさまざまな対応策を進めています。本コラムでは、プラスチックごみの「回収」からプラスチック素材の利用「抑制」、さらに廃プラスチックの「利用」という3つのテーマで対応策を紹介します。

1. 国内外のプラスチック規制

(1)国際的な規制と枠組み

規制の背景

プラスチックの大量消費と大量廃棄は、生態系や気候変動に大きな影響を与えています。しかし、パリ協定を遵守するためには、廃プラスチックの大量焼却に依存することもできず、構造的な転換が求められています。また、マイクロプラスチックによる健康被害を考慮すると、プラスチック関連の化学物質を禁止するだけでは不十分であり、生産や消費そのものを抑制する必要があります。

主な国際的な規制と枠組み

①国際プラスチック条約(The Global Plastics Treaty)
プラスチック製品のライフサイクル全体を対象とし、環境への影響を低減するために、2040年までにプラスチック汚染をなくすことを目指す国連主導の国際条約です。2022年に各国政府が大筋合意しましたが、2024年の会議では枠組み合意に至らず、2025年に交渉が再開される予定です。

主なポイント

  • ・各国が使い捨てプラスチックの削減目標を設定
  • ・プラスチックの製造・使用・廃棄の方法を変革し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を推進
  • ・マイクロプラスチックの排出削減に向けた対策の実施

<関連コラム>
サーキュラーエコノミーで実現する資源の循環と新たなビジネスモデル

②バーゼル条約(1989年発効、2019年改正)
有害廃棄物の越境移動を規制する国際条約。2019年の改正により、汚染されたプラスチック廃棄物の輸出入に厳格な規制が適用され、発展途上国への不適切なプラスチックごみ輸出が制限されました。

(2)主要国の規制と枠組み

EU(欧州連合)世界最先端のプラスチック規制

使い捨てプラスチック指令(SUP指令、2021年施行)

SUP指令は、EU経済をプラスチックの再利用・リサイクルを優先する循環経済へ移行させることを目的としています。

主な規制概要

  • ①使い捨てプラスチック製品のEU市場での流通禁止
  • ②プラスチックの消費量削減と持続可能な代替品の導入
  • ③企業の拡大生産者責任(EPR)を義務化(食品容器、飲料容器などのリサイクルコストを企業が負担)

施行後の影響
多くのEU加盟国でストロー、カトラリー、カップの代替品(紙・竹・金属製など)が普及し、使い捨てプラスチック容器の使用が減り、世界的な規制強化の流れが加速しています。

PPWR(包装・包装廃棄物法令、2025年2月発効)

包装廃棄物の削減と持続可能な包装の促進を目的として制定した規則で、EU加盟国に一律に適用され、2026年8月から運用が開始されます。

主な規制概要

  • ・全ての包装はリサイクル可能な設計基準にする
  • ・プラスチック包装に含まれるリサイクル材の最低限の割合
  • ・特定のプラスチック容器の使用禁止
  • ・使用済みの包装材料の最終処分を制限し、リサイクルやエネルギー回収を推奨

その他主要国の規制と取り組み

国・地域 主要政策 主な規制内容 影響
フランス 反廃棄法(2020年施行) 使い捨てプラスチックの段階的禁止、リフィル推進
・2021年から使い捨てプラスチック製品(カップ・皿・ストローなど)を禁止
・2023年から果物・野菜のプラスチック包装を禁止
・紙製・竹製・金属製の代替品を導入
・リサイクル可能な包装や リフィルサービス(詰め替え) の普及が進む
カナダ 使い捨てプラスチック禁止法(2022年施行) 主要な使い捨てプラスチック製品の禁止
・レジ袋・ストロー・カトラリー・食品容器などの販売・輸入を全面禁止(2023年までに完全適用)。
・スーパーや飲食店がリユーザブル容器を導入
・国内のプラスチック製造業が大きな転換を迫られる
イタリア 使い捨てプラスチック製品税 2021年から使い捨てプラスチック製品に課税
2020年からマイクロプラスチックを含有する化粧品の製造禁止
・メーカーが自然素材の研磨剤などマイクロプラスチックに代わる製品を開発
中国 プラスチック規制強化政策(2020年施行) レジ袋・ストロー禁止、リサイクル推進 ・バイオプラスチックやリサイクル素材への投資が活発化

(3)国内の規制と枠組み

日本でも、プラスチック廃棄物の削減と資源循環を促進するために、さまざまな法律や制度が整備されています。しかし、企業の自主努力に依存する部分が多く、罰則規定がないため実効性が課題となっています。今後は先行するEUのSUP指令や国連のプラスチック条約に適応する法整備が求められます。

プラスチック資源循環促進法(2022年施行)

  • ・事業者に対して 使い捨てプラスチックの削減義務を課す(カトラリー、ストロー、マドラーなど)。
  • ・企業に対し リサイクルしやすい製品設計を促す。
  • ・一定量以上のプラスチック廃棄物を出す事業者には、分別回収・リサイクルの義務化を課す。

レジ袋の有料化(2020年7月施行)

海洋プラスチックごみ対策推進法(2019年施行)
海洋プラスチックごみの削減を目的とし、使い捨てプラスチック削減や清掃活動の推進を義務付けています。

2. 脱プラスチックに向けた国内外の取り組み

(1)抑制

代替素材・新素材の開発や利用

プラスチックに代わる代替品を利用してプラスチックの使用を抑制します。代替品は環境負荷が低くリサイクルや生分解が可能な素材が求められ、「生分解性」「リサイクル性」「再利用性」の3つの観点から開発が進められています。

プラスチックに代わる代替品

カテゴリ 代表的な代替品 原料 主な特徴・使用例
バイオプラスチック ポリ乳酸(PLA) トウモロコシ、サトウキビ 熱で生分解。食品容器、ストロー、ごみ袋など
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA) 植物由来の糖類や油脂、食品廃棄物、廃水・排水を微生物が食べて回収 生分解性マイクロビーズ、マルチフィルム、縫合糸、食品容器・カトラリー
バイオポリエチレン(Bio-PE)・バイオポリプロピレン(Bio-PP) サトウキビ、トウモロコシ 植物由来のプラスチックボトル、包装材
紙・セルロース製品 強化紙 木材パルプ 紙ストロー、紙カップ、食品包装
セルロースフィルム 木材パルプ 透明フィルムの代替、レジ袋
木材・竹 竹・木製カトラリー 竹、木材 使い捨てプラスチックの代替 竹製ストロー、木製スプーン、フォーク
天然素材 キノコ由来のパッケージ キノコ菌糸体(マイセリウム)+ 植物繊維(おがくずなど) 発泡スチロール代替の梱包材・緩衝材
海藻由来の包装材 海藻エキス 食べられる包装、食品包装
リユース可能品 ステンレス・アルミ・ガラス製品 ステンレス・アルミ・ガラス 繰り返し使える食品、飲料容器

マイクロビーズ規制による代替品の開発

マイクロビーズの規制により、企業は 生分解性のある天然素材やバイオプラスチックを使用する方向へシフトしています。特に、セルロース・デンプン・クルミの殻・生分解性プラスチック・シリカなどは、多くのブランドで採用が進んでいます。

容器などの軽量化・詰め替え対応

多くの企業がプラスチック使用量を削減するため、容器の軽量化に取り組んでいます。
また、詰め替え製品の普及も進んでいます。

容器軽量化による削減効果と軽量化率の推移

(2)回収

海洋ごみの発生を防ぐため、さまざまな回収や分解技術が開発されています。しかし、その効果は限定的で、基本的なプラスチックごみの抑制が急がれます。

テーマ 技術名・企業 特徴・仕組み
海洋ゴミ回収 The Ocean Cleanup(オーシャンクリーンアップ) ・オランダの非営利団体が開発した海洋ごみ回収装置。浮遊式のスクリーンを設置し、自然の海流を利用してごみを集める
・2021年以降、毎年数千トンのプラスチックを除去
SeaBin(シービン) ・小型の 海上ゴミ回収装置。マリーナや港に設置され、プラスチックごみや油を回収
・世界50か国以上に導入
陸上でのプラスチックごみ回収 ペットボトル回収 ・消費者がペットボトルを投入すると、ポイントがもらえる仕組み
・セブンイレブンなどが導入
マイクロプラスチックの回収 MicroplasticTraps(マイクロプラスチック回収フィルター) ・洗濯機や排水口に設置することで 洗濯時に発生するマイクロプラスチックを捕集
・フランスでは洗濯機にフィルター装着を義務化

(3)利用

国内でのプラスチックリサイクル

国内のプラスチックリサイクルは、「便利さの代償、拡がるプラスチック汚染と環境への影響」で示したように、焼却して熱利用する「サーマルリサイクル」が5割を超え、「マテリアルリサイクル(※1)」(23%)、「ケミカルリサイクル(※2)」(4.4%)と続きますが、サーマルリサイクルは国際的にはリサイクルとみなされていません。

※1 マテリアルリサイクル:プラスチックごみを再利用して、別のプラスチック製品を作ること
※2 ケミカルリサイクル:化学的にプラスチックごみを分解し、化学原料として再生すること

EUでは新車に必要なプラの25%以上を再生プラスチックにする規則案が制定され、31年から規制が導入される可能性があります。こうした動きに対応し、日本政府も大量のプラスチックを使用する製造業に対し、再生材の使用量の目標設定や使用実績の報告を義務化する方針を打ち出しています。

企業の廃プラスチック利用例

企業では、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの観点から海洋プラスチックごみを利用した製品開発、再生プラスチックの利用などが進んでいます。特にペットボトルのリサイクルでは「ボトルtoボトル」の技術が確立され、その比率が大きく伸びています。

取り組み 企業例 主な施策
海洋プラスチックごみの活用 アディダス、パタゴニア、P&G 廃プラスチックを再利用した製品やボトルの開発
再生プラスチックの活用 再生プラスチック(廃棄プラスチックをマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルで再利用) トヨタ、日産、P&G、ソニー、リコー、パナソニック、三菱電機、ネスレ、ユニクロ、ナイキ 再生プラスチックの利用、再生ポリエステルの利用
ボトルtoボトル(使用済みのペットボトルを原料として、ペットボトルに再生) サントリー、コカ・コーラボトラーズ、アサヒ飲料、キリンビバレッジ、セブン&アイ・ホールディングス 使用済みのペットボトルを回収・リサイクルし、新しいペットボトルに再生

(参照)
アディダス、海のプラゴミから作るシューズを販売開始(Sustainable Brands Japan)
対馬・オーシャン・プラスチック・100・ディスク(パタゴニア)
漁網をリサイクルしたネットプラス(パタゴニア)
P&Gジャパン海洋プラスチック再生ボトルプロジェクト『JOY Ocean Plastic(ジョイ オーシャン プラスチック)』11月上旬新発売(P&G)
トヨタはペットボトル、ホンダはバンパーに着目 再生プラ確保へ総力戦(日経ビジネス)
資源循環(トヨタ)
クルマでの取り組み(日産)
環境(ソニー)
人と地球にやさしいリコー複合機(リコー)
洗濯機の再生プラスチック使用量を40%に。プロジェクトメンバーが語る、その難しさと意義(パナソニック)
プラスチックリサイクル(三菱電機)
プラスチックごみに対するネスレの取り組みについて(ネスレ)
リサイクル素材から生まれた服(ユニクロ)
ナイキのサステナビリティへの取り組み(ナイキ)
Recycle:「ボトルtoボトル」水平リサイクルの推進(サントリー)
容器&リサイクル(循環型社会)(コカ・コーラボトラーズ)
ボトルtoボトル(アサヒ飲料)
きれいなペットボトルは資源です!正しい分別で、ボトルtoボトル(キリンビバレッジ)
世界初の「完全循環型ペットボトル」(ボトルtoボトル)を実現(2019年10月)(セブン&アイホールディングス)

3. まとめ

脱プラスチックを推進するために、代替素材の開発や容器の軽量化が進められています。さらに、廃プラスチックのリサイクル技術も進化しており、再生材の使用が義務づけられるケースも増えています。特に、プラスチック規制が先行しているEUでは、サーキュラーエコノミーの観点から再生プラスチックの利用が不可欠とされています。
また、今年中の批准が予定されている「国際プラスチック条約」によって、今後さらに国際的な規制が強化される可能性もあります。こうした動向を見据えながら、「回収」「抑制」「利用」の3つの側面から、可能な限り脱プラスチックを進めていきましょう。

箕輪 弥生(みのわ やよい)箕輪 弥生(みのわ やよい)
環境ライター・ジャーナリスト
NPO法人「そらべあ基金」理事

環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年〜2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。

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