今年4月に米国が行ったシリアへの巡航ミサイル攻撃、4月以降頻繁に繰り返されている北朝鮮の弾道ミサイル発射により、中東・東アジア情勢が緊迫化している。日本のエネルギー施策、安全保障にとって看過できない2国を取巻く世界情勢について、現状と展望を考えてみた。
緊迫化する中東情勢
アサド政権による独裁体制が敷かれたシリアでは、2011年1月の中東・アフリカ諸国の民主化運動「アラブの春」をきっかけに、国民の7割を占めるイスラム教スンニー派による反政府運動が広がった。これに対しアサド政権が強権的な弾圧を行ったことから、スンニー派のサウジアラビア、トルコが反体制派に資金と武器の支援を行い、ロシアとシーア派のイランがアサド政権を支持したため内戦が勃発した。2014年6月には独立を目指すクルド人が反政府運動を展開し、国内の混乱の隙を突く形でスンニー派原理主義組織のイスラム国(IS)が北部ラッカで国家樹立を宣言した。シーア派、スンニー派、クルド人、ISが入り乱れた泥沼の状況は現在も続いている。
米国トランプ政権は、当初ロシアと協力してIS掃討を行う方針で、アサド政権を容認する姿勢を見せていた。しかし、アサド政権が化学兵器のサリンを利用したという国際法違反の疑念から、今年4月7日、巡航ミサイルによるシリアの攻撃に踏み切った。米国第一主義を唱え、外国への軍事介入に後ろ向きと考えられていたトランプ政権が一転して、国際法に背いた国には断固として武力攻撃を行うという外交政策メッセージを発したともとれるこの行動により、中東情勢は一段と緊迫化し、アサド政権を支持するロシアとの対立が先鋭化した。支持率低迷に悩むトランプ政権が「強い米国」を国民にアピールするため、今後も軍事力行使に打って出る可能性も否定できず、そうなればシリア情勢は混乱の度を深め、欧州諸国へのさらなる難民の流入とテロの誘発を招くリスクが高まると考えられる。
予断を許さない北朝鮮問題
北朝鮮情勢も深刻さを増している。トランプ政権は北朝鮮による自主的な核開発放棄を待つオバマ政権の穏健外交から、軍事的な圧力強化を視野に入れた強硬姿勢へと転換し、4月に朝鮮半島で米日韓の大規模な共同軍事演習を行った。しかし、核・ミサイル開発を米国からの譲歩を引き出すための交渉カードとして瀬戸際外交を続けてきた北朝鮮の姿勢に変化はなく、現時点でその効果は現れていない。
一方、これまで北朝鮮をかばい続けてきた中国が態度を一変し、「再び核実験を行えば原油供給を中断せざるをえない」と圧力をかけた。それに対して、ロシアは5月8日から北朝鮮〜ウラジオストク間に万景峰(マンギョンボン)号による定期航路を開設し、北朝鮮の羅津港(ラジンコウ)埠頭の長期使用権を獲得。さらに電力などのエネルギー輸出や、北朝鮮の鉱山開発の取り組みを進めるなど支援体制を強めた。
ただ、現時点においては、中国も、北朝鮮の体制崩壊を恐れており、北朝鮮への圧力は、十分に有効とは言えない。さらに、北朝鮮は、イランへ弾道ミサイル技術の供与を行い、以前から国際社会に非難されており、ロシア、イラン、北朝鮮との関係に、米国も危機感を強めている。4月以降も、北朝鮮の新型弾道ミサイルは、数度にわたって、日本の排他的経済水域に落下している。
注視したい米、ロ、中の動き
シリア、北朝鮮の背後では、米国、ロシア、中国の3大強国による駆け引きが行われている。なかでも、北朝鮮を巡る3国間の関係は政治的、経済的な思惑をはらみ一層複雑化している。
トランプ政権は発足前後から中国との貿易不均衡を問題視し、高い関税などの手段で中国製品を米国市場から締め出そうとしている。そうなれば、輸出依存型の中国経済は深刻な打撃をこうむる。今回の中国の北朝鮮への圧力は、トランプ政権が目論んでいる為替や通商面での中国への強硬姿勢を和らげる効果を持っていると言える。
一方でロシアの定期便運航や北朝鮮への経済支援の背後には、中国に代わって北朝鮮への影響力を増大させたいという思惑が見え隠れする。関係が悪化しているアメリカに対抗して、国際社会のキーパーソンとしてのロシアの存在感を強調したいという意味も含まれていると考えられる。
この先半年聞は、平和に慣れた私たち日本人にとっても、シリア、北朝鮮の両国とそれを取巻く米国、ロシア、中国の駆け引きをはじめとした国際情勢から目が離せない状況が続く。
よもやま話
21世紀の自動車は電気、それとも天然ガス?
燃料電池車、電気自動車(EV)、プラグ・イン・ハイブリッド車など、地球環境に優しい環境対応車の開発が世界中の自動車企業によって競われている中、現時点で先行しているのはEVといわれている。しかし、”地球環境に一番優しい車は EV” と簡単に考えて良いのだろうか。自動車本体だけを見れば炭酸ガスも硫黄酸化物も排出しないが、ライフ・サイクルで見た炭酸ガスの排出量から見た場合はどうだろう。
電気は二次エネルギーである。石炭、天然ガスを燃料として発電を行った場合、発電時に大量の炭酸ガスを排出する。石炭火力発電の場合、電気エネルギーとなるのは石炭が元来持っているエネルギーの40%程度で、送電ロスが5%程度あるため、消費段階では35%程度となる。
また、EVはレアメタルのリチウム、マンガンを大量に使った蓄電池で走行する。1回の充電の走行距離100〜200キロメートル程度で、車としての実用性を満たしていないことから、さらに大容量の蓄電池開発が必須である。そのためには膨大な資金が必要になる。しかも、EVが数百万台単位で普及すれば、レアメタル資源の枯渇問題が生じることとなる。
一方、天然ガス自動車(NGV)はどうか。ガソリン・エンジンと比較して、炭酸ガスは約30%、窒素酸化物は約70%、硫黄酸化物は100%、それぞれ排出量を削減できる。エンジン構造がガソリン車と同じで、燃料噴射装置の簡単な改造で生産できる。シェール・ガス革命により天然ガス価格が低位安定している米国では、LNG(液化天然ガス)を燃料としたトラックは運行コストがディーゼルと比較して30%程度安価となるなど、優位な点を備えている。
NGVは既に技術が確立し、莫大な研究開発費を投入せずに、炭酸ガスをはじめとした琲ガスの削減を実現できる。30年、50年先の人類を考えて研究開発を行うことは重要であるが、同時に地に足のついた、地道な技術を利用することも大切である。走行時の炭酸ガス排出量だけの議論に惑わされることなく、ライフ・サイクル全体、技術的可能性、資源枯渇などを総合的に考えて、21世紀の地球環境に優しい自動車とは何かを考える必要があるのではないだろうか。