医療機関のMCPで取り組みたいライフラインの確保と強化

医療機関のMCPで取り組みたいライフラインの確保と強化

2022.02.01

2022年3月11日で東日本大震災の発生から11年が過ぎます。最近でも、2022年1月にはトンガの火山噴火により津波の影響を受けるなど、日本は数多くの自然災害の脅威にさらされています。あらためて災害対策の重要性が問われる中、いま医療機関に求められているMCP(医療継続計画)の策定について解説します。

1. 頻発する地震・激甚化する台風が病院を脅かす

日本は世界でも有数の地震大国です。気象庁によると、世界では年間平均で14万件以上の地震が発生しており、その約10分の1が日本やその周辺地域で発生しています。

大きな被害が生じた地震だけでも、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震と、短い間隔で発生しています。厚生労働省によると、東日本大震災では岩手県、宮城県、福島県にある380の病院・診療所のうち、10施設が全壊、290施設が一部損壊という被害を受けています。

2022年1月13日には、政府の地震調査委員会が、南海トラフで発生する地震が今後40年間で発生する確率を前年の80〜90%から、90%程度へと引き上げると発表し、巨大地震に対する危機感が高まっています。

さらに地震だけでなく、台風や洪水・土砂災害による被害も目立つようになっています。2019年に発生した、千葉県を中心に広域で停電を発生させた台風15号、北陸新幹線の一部区間が一時運休するなど大きな経済被害をもたらした台風19号は、記憶に新しいところです。

こうした頻発する地震、激甚化する台風や洪水・土砂災害は、医療機関にとっても大きな脅威となっています。そのため、近年、医療機関においてBCP(事業継続計画)の策定が重要になっています。

2. MCP(医療継続計画)で注意したい「ライフラインの途絶」

BCPと一口でいっても、企業など一般の組織が採用しているものと、医療機関に必要なものでは内容が若干異なります。医療機関向けのものは、MCP(医療継続計画、Medical Continuity Plan)とも呼ばれ、東日本大震災や熊本地震など、大規模な自然災害の発生に伴い、注目されているキーワードです。

両者の違いは、対象範囲にあります。BCPは災害時に事業への影響を最小限に止めるとともに、事業が停止した際にはできる限り短い時間で操業を開始すること目的とした計画です。一方MCPは、BCPの内容に加え「災害で発生した負傷者を継続的に診療する」という視点も含まれ、より対象範囲が広くなっているのです。

MCPを策定する際には、まずロケーションリスクを把握します。たとえば関西地方の医療機関であれば、南海トラフ地震の影響、川沿いにあれば洪水の影響について調査。そのうえで、各リスクが発生した際、事業にどのような影響があるのかを分析します。

医療機関が被災すると、指揮命令系統の混乱、建物の損壊、ライフラインの断絶、人員・医療資器材の不足、通信手段の断絶、帰宅困難者の発生といった、さまざまなリスクが発生します。

数あるリスクの中で注意したいのが、ライフラインの断絶です。エネルギーや水が使えなくなると、手術や治療、患者の健康維持に支障をきたす恐れがあります。実際に、北海道全域で停電が発生した北海道胆振東部地震では、診療に影響が発生したという報告があります。

フェーズフリーで平常時も病院の価値が高まる

ライフラインの対策について考える際に、特に重要になるのが災害時の停電対策と断水対策です。厚生労働省の「病院におけるBCPの考え方に基づいた災害対策マニュアル」によると、エネルギーと水の確保に関して主に以下のようなポイントが挙げられています。

□自家発電設備の有無
□停電訓練実施の有無
□自家発電のための3日分の燃料備蓄
□電源が遮断されても水が供給できる設備
□上水道の供給が得られない場合に備えた井戸等の有無
など

こうした対策以外にも、MCPを強化する方法はまだあります。

たとえば自家発電装置を導入していても、それだけで医療機関内にある医療機器、空調、電灯など全ての機器に電力を供給できるものではありません。そこで、コージェネレーションシステム(CGS)と組み合わせている病院もあります。

CGSは、石油やガスなどを燃料に発電するとともに、排熱を回収して冷暖房・給湯などに利用できるシステムです。CGSで冷暖房・電灯・給水ポンプに電力を供給し、自家発電装置でカバーできる医療機器等を増やすことで、病院機能の維持にもつながります。電力の確保については、太陽光発電といった再生可能エネルギーの活用も有効です。

省電力設備を導入しておくことも、災害対策として役立ちます。たとえば電力消費の極めて少ないガス空調を導入すれば、災害時の限られた電源を広範囲に有効活用することが可能です。

さらに、CGSや井戸水といった設備の導入は、災害時の安心だけでなく通常時のコスト削減や環境負荷低減を実現する「フェーズフリー」という考え方にもつながります。こうした工夫をしながら、災害時に備えてライフラインを強化することで、病院の事業継続性は高まります。

設備の導入や更新は耐用年数などの関係もあり、すぐに手がつけられるというものではないかもしれません。しかも、MCPは一回策定したら終わりというものではなく、環境の変化や社会情勢の変化に合わせて見直しが必要です。設備の導入状況やご要望に合わせて、設備をエネルギー事業者等が持ち込み、導入の初期コストを大幅に削減するエネルギーサービスも展開されています。巨大地震や台風という脅威に備え、今のうちから、MCPの見直しを前提に、コージェネレーションシステムや太陽光発電、井戸水などの設備の導入や更新計画について検討してみてはいかがでしょうか。

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