第4次エネルギー政策の目標と現状
日本のエネルギー政策の根幹を決めるエネルギー基本計画の第4次計画が、2014年に策定された。本基本計画は、2002年のエネルギー政策基本法により、3年ごとに見直しの議論が行われている。
現行の第4次計画では、原子力発電、石炭火力発電、地熱発電が発電の経済性及び安定性の観点から「重要なベースロード電源」と位置づけられる一方、天然ガス火力発電も温室効果ガス排出削減効果のある重要なエネルギー源と明記されている。
また、安全が確認された原子力発電所を着実に動かしていく方針のもと、2030年の電源構成をLNG(液化天然ガス)火力27%、石炭火力26%、石油火力3%、原子力20〜22%、再生可能エネルギー22〜24%としている。ただ、福島第一原子力発電所の事故による慎重論がある中、原子力発電所の新増設については明記されておらず、現時点において合計5基の原子力発電所が稼動し、今後2020年までに累計10基程度が再稼動する予定のみとなっている。
しかしながら、現行計画が示す通り2030年に20〜22%の電源を原子力発電が担おうとすると、30基程度の原子力発電所の稼動が必要で、現状の原子力発電所だけでは目標が達成できない。また、エネルギー自給率が6%しかない資源エネルギー小国日本のエネルギーの安定供給、原子力産業を重要な輸出戦略とする政府の成長政策、温室効果ガスの長期的な排出削減等、さまざまな観点から、原子力発電所の新増設に関する議論は避けて通れない状況となってきている。
パリ協定と日本の今後のエネルギー
昨年11月4日、196の国と地域が一つとなって、地球温暖化対策として、温室効果ガス排出削減に取り組むパリ協定が発効した。その中で日本は、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減する目標を掲げた。
今年6月1日、世界第2位の炭酸ガス排出国である米国のトランプ大統領が、パリ協定からの離脱を表明したことで、協定の空洞化が懸念されたが、日本をはじめ参加国がパリ協定の履行を表明したことで、世界をあげて地球温暖化対策に取り組む体制がかろうじて維持されている。
パリ協定の目標達成のためには、単位熱量当たりの炭酸ガス排出量が石炭の6割程度と化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少ない天然ガスのさらなる利用促進が求められる。シェール・ガス革命に沸く米国では、天然ガス火力発電の割合が石炭火力発電を上回ったことから、経済成長の伸びに反して炭酸ガス排出量は減少しており、地球温暖化対策の切り札として天然ガスが有効であると考えられる。現行の第4次基本計画においても、天然ガスは、その役割を拡大していく重要なエネルギー源であると位置付けられており、その位置付けは次期基本計画においても変わることはないと見込まれている。
第5次計画策定に向けて
現在、わが国は第5次計画の策定を進めている。主要なポイントとして、①原子力発電への依存を可能な限り低減する方針を維持しつつ、原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置づけ、②将来の原子力発電の新増設・建て替えの必要性を明記し、③パリ協定に基づく温室効果ガス排出削減に注力する、等が挙げられる。
上述の通り、現時点における原子力発電所の再稼動の状況では、2030年の数値目標の達成は難しい。これまでに再稼動が行われているのは関西電力をはじめとした加圧水型(PWR)の原子力発電所だけであり、東京電力他が採用している沸騰水型(BWR)は厳しい安全基準を未だ合格していない。原則40年を経過した原子力発電所の廃炉等を考えると、電源のベスト・ミックス、エネルギー安全保障上の一定割合の電源分散化、発電コスト低減のためにも、化石燃料の輸入削減に寄与する原子力発電所の新増設、建て替えの検討は避けて通れないものになっている。
とはいえ、原子力発電に対する国民の合意形成は完全にできているとは言えず、現状の原子力発電に対する国内世論の動向、エネルギー安全保障の向上、温室効果ガス排出削減、割高な再生可能エネルギーの技術革新という複雑なパラメーター(変数)を解くエネルギー政策が、第5次基本計画で問われている。
現実的な答えとしては、安全が確認された原子力発電所の再稼動と新設を認めると同時に、原子力発電の不足分については、化石燃料の中で地球環境に最も優しい天然ガスを重要なエネルギーと位置づける計画が策定される可能性が高いと考えられる。
よもやま話
サウジアラビアによるカタールとの国交断絶、
いち早い解決を!
今年6月5日に、突如として、サウジアラビア、エジプト、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーンがカタールとの国交断絶を発表した。カタールがイランと親密な関係にあり、イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」をはじめとしたテロ組織を支援しているという理由からである。カタールは「テロ組織への支援は事実無根」と反論しているが、サウジアラビアをはじめとしたペルシャ湾岸諸国は、カタールとの陸路、空路、海路を封鎖し、カタールとの貿易決済に必要な信用状(L/C)の発行も取り止めるなど、ヒト、モノ、カネの兵糧攻めを行っている。
カタールは、サウジアラビア、UAE、バーレーン、クウェート、オマーンとともに、穏健なイスラム教スンニー派の湾岸協力会議(GCC)の一員として親米的な政策をとり、国内に中東地域の安全保障に重要な米軍基地もあるだけに、今回の国交断絶は世界に衝撃を与えた。
カタールは年間7,700万トンという世界最大のLNG輸出能力をもち、日本にとってはLNG及び原油輸入量第3位、LPガス輸入量第1位という極めて重要なエネルギー調達国である。1990年代にLNGプラントの建設・LNG輸入などに、商社をはじめとした日本企業が参画するなど、歴史的なつながりも深い。
現時点ではカタールからの原油、LNG、LPガスの輸出に影響はなく、原油価格上昇、LNG価格高騰という状況を引き起こしてはいないが、国交断絶が長期化し、サウジアラビア、エジプトなどがさらに経済制裁を強めると、原油・LNG価格の上昇による、電気・都市ガス料金値上げの要因となる可能性もある。
中立的なクウェート、トルコが仲介に乗り出しているものの、トランプ大統領がツイッター上でサウジアラビアを擁護して、中東産油国の混迷を深めるなど不安感は広がっている。それだけに、米国国務省を含めて、中東産油国の盟主であるサウジアラビアとカタールとの大人同士による平和的な話し合いによって、一刻も早い仲直りをしてもらいたいものである。