コラム

2026.08.03

排水の生物処理とは?自然の浄化作用から新たな価値の創造に向けて

排水の生物処理とは?自然の浄化作用から新たな価値の創造に向けて

排水の生物処理技術では、様々な種類の生物が活用されています。排水を浄化するだけでなく、新たに有価物を生成する技術も開発されつつあります。本コラムでは、排水処理に関わる生物の種類、活用方法、今後の新たな展開などを紹介します。

1. 生物処理とは?

排水処理には様々な方式があり、大きく物理処理、化学処理、生物処理に分けられます。生物処理の代表としては微生物を活用する活性汚泥法が挙げられ、微生物以外にも種々の生物を活用する技術が開発されています。
河川中に放流された汚濁物質濃度が流下するに従い減少する現象は、自浄作用と呼ばれています。その主な原理に、河川中に存在する微生物の働きによる汚濁物質成分の分解が挙げられます。ただし、汚濁物質濃度が増加しすぎると、自浄作用による分解能力を超えてしまいます。生物処理は、同じ原理を活用しつつ、より高濃度の微生物を反応槽内に保持する方法ともいえます。

(参照)
自然の力が水を浄化する(環境省)

微生物による反応は我々の身近な存在です。発酵食品であるヨーグルトや漬物などは微生物による物質変換を利用して作られています。食品を放置すると微生物による分解が進み腐敗します。発酵と腐敗は人間にとって役に立つか立たないかの違いで、微生物にとっては同じような反応です。微生物は、常温常圧のマイルドな環境で反応を進めることができます。例えば肥料として重要なアンモニアを窒素ガスから工業的に生産するためには高温高圧条件が必要となるハーバー・ボッシュ法が使われていますが、窒素固定能力を有する微生物は常温常圧下で窒素ガスをアンモニアに変換しています。生物処理では、微生物の物質変換能力などがうまく活用されています。

2. 生物処理での有機汚濁物質の評価方法

排水や自然水中に含まれる汚濁物質には様々な種類があり、物質の種類毎に濃度を測定するのは現実的ではありません。有機物量を把握する指標として、例えば生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand; BOD)が用いられます。有機物の量を、それを酸化分解するために必要な酸素量として表しています。20℃にて5日間で微生物により消費される酸素量として測定します。ちなみに、この条件は、イギリスのテムズ川でロンドンから海までの流下時間が5日程度であることなどから決められたとされています。
酸化剤により酸化される有機物量として、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand; COD)も使われます。酸化剤として、日本では過マンガン酸カリウムが用いられています(CODMn)。しかし、有機物によっては酸化率が低い場合もあるのが欠点です。有機物の挙動を正確に把握するためには、重クロム酸カリウムを用いる方法(CODCr)で測定されます。研究目的や海外との情報交換においてはCODCrが必要ですが、日本の現場ではCODMnで基準が定められているので、CODMnを測定することも少なくありません。CODの計算は、高校化学で酸化還元を習う際に登場することもあります。

3. 生物の活動様式

我々人間は、ご飯(有機物)を食べて、呼吸により空気中の酸素を取り込み、ご飯を酸化してエネルギーを得るとともに、食べたご飯の一部を体の合成に用いて、活動しています。排水処理に関わる生物は、その活動様式により分類されます。例えば我々人間は、ご飯(有機物)を食べて、呼吸により空気中の酸素を取り込み、有機物を酸化してエネルギーを得るとともに、食べたご飯の一部を体の合成に用いて、活動しています。排水処理では、エネルギーの獲得方法や体の合成方法が人間と似ている生物だけでなく、異なる方法を用いる生物も活躍しています。
活動するためのエネルギーを、「光エネルギー」から得る場合と「化学エネルギー」から得る場合があります。「有機物」を酸化してエネルギーを得る生物もいれば、「無機物」を酸化してエネルギーを得る生物もいます。増殖時の炭素源として、有機物を用いる場合は「従属栄養性」、無機物を用いる場合は「独立栄養性」に分類されます。ご飯を酸素で酸化する場合、ご飯に含まれている電子が酸素に取り込まれることになります。エネルギーを得る酸化還元反応の電子受容体として酸素を用いる場合は「好気性」に、酸素を用いず有機物などを用いる場合は「嫌気性」に分類されます。それぞれの生物には、生育に最適なpHや温度条件があります。排水処理では、このような生物の活動様式にあわせた環境を整えています。

4. 活性汚泥の微生物

微生物を活用する生物処理の代表例として、活性汚泥法が挙げられます。活性汚泥には様々な微生物が含まれており、活性汚泥を顕微鏡で観察すると、たくさんの種類の活性汚泥微生物を見ることができます。

(参照)
活性汚泥微生物の紹介(池田市上下水道部)

効率的な生物処理のためには、反応槽内に微生物を高濃度に維持する必要があります。標準的な活性汚泥法では、処理後の沈殿槽にて活性汚泥を沈めて、上澄みを処理水として、沈殿する汚泥を反応槽に戻すことで微生物濃度を維持します。しかし、活性汚泥が沈殿槽で沈みにくくなることもあり、その場合、放流水に微生物が流出してしまいます。その結果として、反応槽内の微生物濃度の維持が難しくなります。
微生物を反応槽内に確実に保持する工夫として、微生物をスポンジなどの担体に固定化する方法が開発されています。台所の流しにぬめりができることがありますが、これは微生物の集合体であるバイオフィルムができているからです。歯の周りや、川底の石など、身の回りでも様々な微生物によるバイオフィルムが見られます。バイオフィルムが形成されやすい環境を担体投入により構築することで、反応槽内の微生物濃度を高めることができます。ただし、その材料の費用などが必要になります。
また、膜分離活性汚泥法(MBR法)は、反応に関わる微生物を膜分離により反応槽内に保持する方法です。活性汚泥の沈降性が悪くなっても、MBR法の場合は、汚泥を安定して分離することができます。ただし、膜の目詰まりなどの課題があり、それを防ぐ工夫が考えられています。

5. 藻類も微生物

藻類も微生物の一種として、排水処理に用いる研究開発が進められています。藻類は光合成により酸素を生成します。活性汚泥法の欠点として、好気条件を維持するために酸素を供給する必要があり、そのために必要な電力量が多いことが挙げられます。太陽光を受けた藻類が酸素を供給すれば、その分の電力量が削減できます。生物処理として、活性汚泥および藻類を一緒に反応槽内で活用する技術が研究されています。日本で導入する場合、雨天時や冬場の日射量で対応できるのかといった課題があるかもしれませんが、東南アジアなどでは古くから藻類を活用した排水処理が使われています。
顕微鏡で見るような微細な藻類に限らず、ウキクサ、ヨシなど植物による水質浄化作用も観察されています。こうした自然界の水質変換機構を活用する排水処理技術も開発が進められています。

(参照)
ヨシによる浄化の例:植生浄化方式(国土交通省近畿地方整備局)

6. 生物による有価物生産

藻類による光合成反応では二酸化炭素を吸収して有機物が生成されるため、排水処理としては汚泥の生成量が増加することになります。汚泥処理という視点では処理費用の増加が気になるかもしれませんが、増殖した藻類バイオマスに含まれている化学物質を回収したり、エネルギー源として活用したりすることで得られる利点も考えられます。例えば藻類による燃料生産の研究も広く行われています。排水処理で藻類を培養する場合、含油率の高い藻類種を優占させるような運転は難しいかもしれませんが、新たなバイオマス資源の生産につながります。
琵琶湖や大阪湾・瀬戸内海など閉鎖性の水域では、水環境保全のために、放流される排水処理水に含まれる窒素やリンなどの栄養塩類が、藻類の異常増殖の原因とならないように注意されてきました。藻類の種類によっては、有毒物質を生産することもあり、藻類バイオマスが腐敗すると悪臭を放つといったことを含めて、水環境に対する悪い影響が問題になってきました。一方排水処理では藻類バイオマスをいかに増殖させるかが重要になります。これまで研究されてきた藻類増殖抑制に関する知見も、逆に増殖が促進される条件を考える上で役に立つかもしれません。
太陽光を浴びて育つのは緑色の藻類だけではありません。光エネルギーを利用する茶色や赤色の光合成微生物による排水処理も検討されています。酸素は生成しませんが、カロテノイドなどの有用化学物質が生産され、肥料や飼料としての活用も期待されています。光合成を行わない微生物でも種々の有用物質生産が試みられています。例えば、排水に含まれる有機物および活性汚泥に含まれる微生物を活用して、バイオプラスチック原料であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生産する技術が研究されています。
エネルギー回収としては、嫌気性の微生物による排水中の有機汚濁物質からのメタンガス回収技術が実用化されています。

(関連ソリューション)水処理ソリューションサービス D-Aqua 嫌気処理

電力を直接取り出す発電微生物を活用する微生物燃料電池の研究も進められており、排水処理と電力回収が同時に実現されることが期待されています。
これらのような生物が活躍できる環境を排水処理で整えることで、排水処理施設が資源・エネルギー循環の拠点になります。遺伝子組み換えによる効率を高めた生物を活用する場合、外部環境に漏れないように注意する必要があり、排水処理では難しいかもしれません。それよりも、あくまで自然の環境に存在する生物を活用し、水環境中で起きている反応を応用することで、様々な排水処理技術が開発されています。

日高 平(ひだか たいら)
このコラムの著者

日髙 平(ひだか たいら)

京都大学大学院地球環境学堂 准教授

・専門分野
生物学的廃水処理
嫌気性消化による廃棄物系バイオマスの利活用
閉鎖性水域の水質管理

【略歴】

  • 2002年  4月 - 2011年10月 京都大学大学院工学研究科 助手,助教
  • 2011年11月 - 2015年  3月 独立行政法人土木研究所つくば中央研究所 主任研究員
  • 2015年  4月 - 2016年  6月 京都大学大学院工学研究科 助教
  • 2016年  7月 - 2022年11月 京都大学大学院工学研究科 講師
  • 2022年12月 - 2024年  3月 京都大学大学院工学研究科 准教授
  • 2024年  4月 - 京都大学大学院地球環境学堂 准教授
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