工場や商業施設からの排水だけではなく、我々の日々の生活からも排水が発生しており、適正な処理が不可欠です。生活排水処理には、下水道や浄化槽など、様々な技術が開発されており、排水処理の位置付けも時代に応じて変わりつつあります。本コラムでは、生活排水の発生や処理の状況、都市部での生活排水処理を担う下水道の今後の展望などを紹介します。
1. 生活排水とは
我々の日々の生活で水道水を使用することで、トイレやお風呂、台所からの生活排水が発生しています。皆さんは、毎日どの位の生活排水を排出しているでしょうか? 例えば1人1日あたり250L程度、その内3割程度がトイレからと報告されています。排水量には個人差もありますし、国や地域によっても大きく異なります。水道料金の明細から使用量が分かりますので、毎日どの位を排出しているのかを見積もれます。
生活排水には様々な物質が含まれています。例えば、有機性汚濁物質、窒素やリンなどの無機物質、病原性微生物などが挙げられます。有機性物質がそのまま水域に放流されると、腐敗して悪臭を放つなど、水環境が悪くなります。窒素やリンが水域に放流されると、富栄養化として、それらを栄養として取り込むプランクトンの異常増殖などの原因になります。プランクトンによってはカビ臭や有毒物質を生成することもあります。病原性微生物としては、大腸菌、サルモネラ菌、コレラ菌などの細菌、ノロウイルス、コロナウイルスなどのウイルス、クリプトスポリジウム、ジアルジアなどの原虫が挙げられます。生活排水を適切に処理しないと、これらが環境中に放出されることになります。工場排水には重金属が含まれているイメージが以前はあったかもしれませんが、近年は工場での管理がなされており、ほとんど問題にはなっていません。
2. 生活排水の処理
都市部で発生する生活排水は、下水道により集められ、下水処理場にて浄化されています。下水道で集められるのは、生活排水や工場排水などの汚水だけでなく、雨水も含まれます。汚水と雨水をあわせて下水と呼ばれています。下水道の普及が始まった当初は、雨水と汚水を同じ管路で集める合流式で建設されました。しかし大雨の時に汚水の処理が適切になされないといった問題が生じるので、それぞれ別の管路で集める分流式が基本になりました。市町村が単独で管理する公共下水道、複数の市町村にまたがる流域下水道など、地域の実情に合わせた下水道が整備されています。
下水道が整備されていない地域では、生活排水の処理に合併処理浄化槽などが活用されています。個人が家庭に設置する場合もあれば、市町村が設置する場合もあります。住宅団地に設置されるコミュニティ・プラントなども、浄化槽の一種です。農村(漁村)地域では、生活排水を処理する農業(漁業)集落排水施設が整備されています。法律上は、これらも浄化槽に含まれます。
生活排水処理の所管省庁
| 所管 | 設備 |
|---|---|
| 国土交通省 | 下水道 |
| 農林水産省 | 農業集落排水施設、漁業集落排水施設 |
| 環境省 | 合併処理浄化槽、コミュニティ・プラント |
下水道の整備状況を表す下水処理人口普及率は、下水道利用人口/総人口で算出されます。下水道の普及にともない、令和6年度末の下水処理人口普及率は81.8%です。行政人口に対し、公共下水道、集落排水、コミュニティ・プラント、合併処理浄化槽などの生活排水処理施設を利用できる人口の割合で算出される汚水処理人口普及率が、国土交通省、農林水産省、環境省の3省合同で調査されています。令和6年度末には、汚水処理人口普及率が93.7%に達しています。大都市(100万人以上)ではほぼ100%が下水道で処理されています。

人口5万人未満の市町村では下水処理人口普及率が55.3%に留まり、浄化槽(21.8%)などが重要な役割を担っており、汚水処理人口普及率は84.5%です。汚水処理の普及により、トイレの水洗化率が向上し、公衆衛生が確保されるとともに、公共用水域の水質も改善されてきました。持続的な汚水処理システム構築に向けて、地域の状況に応じた整備が進められています。

(注)1. 総市町村数1,791の内訳は、市793、町743、村183(東京都区部は市数に1市として含む)
2. 総人口、処理人口は1万人未満を四捨五入した。
3. 都市規模別の各汚水処理施設の普及率が0.5%未満の数値は表記していないため、合計値と内訳が一致しないことがある。
(参照)
上下水道:下水道整備の推進(国土交通省)
3. 下水処理場での活性汚泥法
下水処理場では、沈砂池、最初沈殿池を経た下水を、主として活性汚泥法で処理しています。空気を吹き込むことで微生物を活性化させ、有機物を二酸化炭素にまで分解する方法です。100年以上の歴史を誇る技術で、今でも広く活用されています。ただし、空気を吹き込むための電力が必要になることが課題です。水深のある曝気槽の底部に空気を吹き込むためには、水深に相当する圧力がかかります。必要空気量を減らしたり、空気を効率的に吹き込んだりする技術などの開発が進められています。
活性汚泥法の前後で発生する下水汚泥についても、更なる処理が必要です。汚泥処理の元の目的は、減量化、安定化であり、そのために、濃縮、消化、脱水、焼却などの処理がなされています。
4. 下水道の役割
下水処理場の名称は、△△下水処理場、○○終末処理場、□□浄化センターなどと名付けられています。近年は地域によって様々なバリエーションの名称や愛称がつけられています。例えば、大阪府では「水みらいセンター」、京都市では「水環境保全センター」、東京都、大津市、吹田市、堺市などでは「水再生センター」、札幌市では「水再生プラザ」、北広島市では「アクア・バイオマスセンター」、広島市では「水資源再生センター」、沖縄県では「みずクリン」など、様々です。下水を処理・浄化するだけでなく、下水を水資源として捉えて循環利用するといった目的の変化を示しており、市民への親しみやすさのアピールになっています。
宇宙ステーションでは水資源が貴重であり、高度な処理技術により生活排水が飲み水になっています。シンガポールのNEWater(※)など、世界各国で水を繰り返し利用する技術が開発されています。水の循環利用は特別なものではなく、我々の身近なところでもなされています。日本では、都市部のビルでトイレの洗浄水に再生水が使われたり、公園のせせらぎに利用されたりしています。琵琶湖・淀川流域では、上流地域の生活排水が下水処理場を経て淀川に放流され、下流域の水道水源になっており、水が循環利用されています。このような自然の中での循環でも、飲み水として基準を満たす水質が確保されています。
下水は雨水と汚水からなるということで、下水道は都市の雨水の管理も担っています。大雨が降ったときに適切に河川へ放流したり、河川の氾濫を防いだりするのも、下水道の重要な役割です。気候変動で降雨の状況も変わりつつあり、適切な対応が求められています。
平常時だけでなく、災害時にも下水道は重要な役割を果たします。例えば、下水道管路にあるマンホールの上に簡易な便座やパネルを設けることで、災害時において迅速にトイレ機能を確保することができます。トイレを我慢することは難しく、災害時にすぐに必要な設備となります。
※ NEWater:下水を一度浄化処理した後、さらに高度な処理を施して再利用する方法

5. 下水道からの資源・エネルギー回収への期待
水資源だけでなく、生活排水に含まれる様々な物質・エネルギーの活用も考えられています。
窒素やリンはそのまま水域に放流されると水環境の悪化につながるとされて来ました。ただし、窒素やリンは重要な肥料物質でもあります。生活排水由来の窒素やリンをうまく回収することで、肥料を作ることができます。瀬戸内海周辺の下水処理場では、従来窒素やリンをなるべく除去して放流していました。しかし、その結果海水中の栄養が少なくなり、ノリが育たなくなったということから、近年は下水処理場での窒素やリンの除去を調整する取り組みが始められています。
有機物は微生物による処理や焼却により二酸化炭素にまで酸化されて大気中に放出されてきました。ここで、酸化されるということはつまりエネルギー源になるということです。メタン発酵によりメタンガスを回収したり、乾燥・炭化することで固形燃料を製造したりと、新たなエネルギー源として活用する技術の開発も進められています。
赤穂下水管理センター消化ガス発電事業に関する基本協定の締結について
生活排水だけでなく、我々は生ごみやプラスチックごみなどの廃棄物も日々排出しています。下水道と廃棄物処理は別かもしれませんが、例えば水分を多く含む生ごみは、焼却するより下水道施設で一緒に扱うのがよいといった提案、取り組みも見られます。今後は、生活排水だけでなく、廃棄物とも連携した議論が重要になるかも知れません。
下水は気温より温度変化を受けにくいという特徴があります。夏場は気温より低温ですし、冬場は家庭での温水使用もあり気温より高温です。この温度差を利用して、冷暖房の熱源や、寒冷地では融雪のための熱源に利用するヒートポンプの技術が開発されています。
2050年のカーボンニュートラル実現、脱炭素・循環型社会への転換に向けて、下水道ができる貢献は少なくないと考えられます。






