「環境配慮×健康経営」で企業価値を高める建築とは?

「環境配慮×健康経営」で企業価値を高める建築とは?

2025.08.20

エネルギー消費の3割を占める建築分野では、エネルギー効率を高める設計や設備が不可欠になってきました。特に、建築物省エネ法の改正により省エネ基準が上がったことで、更なる断熱などの工夫が必要とされています。最近では、建物の環境配慮が従業員や利用者の健康や快適性(Well-being)にも深く関係していることが認められ、最新の建造物では「環境配慮×健康経営」の同時実現を目指すケースが増えています。こういった建物は認証により不動産価値の向上や企業のESG評価向上などにもつながります。環境性能と健康を両立するこれからのワークプレイスについて、導入手法、法律規制、認証制度を、実例も含め紹介します。

1. 建物のエネルギー効率改善の重要性

脱炭素への貢献

世界全体で消費されるエネルギーの約3割は建物(住宅・オフィス・商業施設など)によるものであり、CO₂排出の大きな要因となっています。特に冷暖房・給湯・照明などの用途が大きな割合を占めています。
そのため、エネルギー効率を高めることで、化石燃料への依存を減らし、温室効果ガスの排出削減に直結します。

光熱費の削減と経済的メリット

エネルギー効率の高い設備や設計は、長期的に見ると運用コストを大幅に削減します。
また、不動産価値も向上させます。

快適性と健康(Well-being)への寄与

断熱やエネルギー効率の高い機器を導入し、室温が安定することにより、冷え・暑さによる熱ストレスを軽減します。また、効率的な換気や自然採光の工夫などにより快適性が向上し、集中力が高まるなど、健康的で快適な居住空間が得られます。

2. 建築物の断熱に関わる国内外の法律規制

断熱に関する法律規制は、国内外ともに省エネ・脱炭素のカギとして強化が進んでいます。日本では2025年から断熱義務化が強化されました。

日本

建築物省エネ法の改正により、2025年4月からは原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられました。等級見直しにより、すべての住宅で「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級4」以上を満たすことが求められます。これまで最高等級だった等級4が最低等級になる大幅な見直しです。

(参照)
建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料(国土交通省)

EU諸国:断熱は“気候政策の柱”に

EU全体の枠組み(EPBD:建築物のエネルギー性能指令)では、2023年改正で「全建物を2050年までにゼロエミッション化」する目標を明記しました。既存建物に対しても、段階的な断熱改修の義務化(最低性能基準の設定)が設けられました。

3. 不動産評価にかかわるエネルギー性能

(1)日本でのエネルギー性能と不動産評価

住宅

従来は「立地・築年数・面積」が主要な要素で、省エネ性能は不動産評価に反映されにくい傾向がありましたが、最近は、長期優良住宅やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などが、住宅ローンの金利優遇や補助制度の対象となり、市場での価値が上がりつつあります。

非住宅

  • ・経産省・環境省が推進する「ZEB認証制度」に対応した建物は、空室率が低く、テナントが早期に埋まりやすいという傾向が報告されています。
  • ・大企業・外資系企業ほど、ESG方針に合致するビルを選定する傾向があり、「ZEB Ready」「ZEB Oriented」の認証取得が差別化要素に浮上しています。
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Daigasエナジーは「ZEBプランナー」のコンサルティング登録企業であり、ZEB実現に向けた業務支援を実施しています。DaigasグループにはZEBプランナー登録会社が多数ございます。「ZEBプランナー」についてはこちらも参照ください。

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(2)日本での住宅・建築物の省エネ性能の表示

2024年4月以降、事業者は新築建築物の販売・賃貸の広告などにおいて、省エネ性能の表示ラベルを表示することが努力義務となりました。

(3)海外でのエネルギー性能と不動産評価

EUでは早い時期から建築物の断熱性能を表すことが義務化され、価値基準にもなっています。

ドイツ

家の燃費「エネルギーパス」の提示義務
・エネルギーパスとは、建築物の断熱性能や設備の効率性を評価した「家の燃費」を評価する指標です。
売買・賃貸時に評価・広告にも記載が義務化されています。2008年から導入されている制度で、長年「家の燃費」が住宅の価値基準として重要な判断要素となっています。
・銀行の住宅ローン審査にもエネルギーパスがローンの可否や金利に影響します。

ドイツの住宅のエネルギーパス

ドイツの住宅のエネルギーパス

(参照)
良質な住宅ストックの増大に向けて(国土交通省)

フランス:エネルギー等級が市場価格と賃貸に直結

・DPE(エネルギー性能診断)が義務化され、建物のエネルギー消費量や温室効果ガス排出量を評価し、AからGまでのランクで表示されます。2006年に導入され、物件を売買・賃貸する際にDPEを提示することが義務化されています。
・2025年からは、一定基準以下のGランクの物件の賃貸が禁止されるなど、規制が強化されました。

4. エネルギー効率の良い建築物(オフィスビル、住宅、工場など)
をつくるためには

(1)エネルギー効率を高める建物の設計・設備・運用の手法

手法 内容
建築設計による工夫(パッシブデザイン) 日射遮蔽・庇の設置 夏季に日射を遮り、冷房負荷を軽減
高断熱・高気密 熱の出入りを最小化(外皮の性能向上)
窓の向き・配置の最適化 通風・採光を自然に得られる設計
高性能な設備の導入(アクティブ手法) 高効率空調・高効率で適切な換気 COPの高い空調機器で消費エネルギー削減、全熱交換器などでの効率の良い換気
LED照明+人感・明るさセンサー 照明のムダを減らし、発熱も抑制
DX活用による自動制御 気象データ、CO₂、温度、湿度、混雑度、人の流れなどのデータによる省エネ・快適制御
高効率ボイラー・給湯器 廃熱利用タイプも含め、省エネ化
インバーター制御 モーターなどを最適制御して電力を節約
再生可能エネルギーの活用 太陽光発電(PV) 建物で発電・自家消費
太陽熱利用 給湯や暖房への活用
地中熱ヒートポンプ 地中の安定した温度を利用した空調
エネルギーマネジメントと運用最適化 BEMS(ビルエネルギー管理システム)
HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)
FEMS(工場エネルギー管理システム)
建物内のエネルギー使用を見える化・
最適化
スケジューリング制御 照明・空調を使用時間に応じて自動制御
エネルギー性能の定期診断 継続的な点検・改善で性能維持
素材と構造の工夫 高性能窓(Low-E複層ガラスなど)・二重サッシ 断熱・遮熱性能を高め、快適性も向上
高反射屋根材・外壁材 太陽光の反射で冷房負荷を軽減

Daigasエナジーでは、エネルギーマネジメント・DX・換気等の技術を活用し、快適な環境と省エネ・省CO₂を実現する空調ソリューションサービス「D-Airing」や、自動的に省エネ制御を行ったり、パソコン・スマホ・タブレットを使ってどこからでも機器の運転管理が可能となるサービス「エネフレックスプレミアム」、お客さまの「CO₂排出量削減」と「BCP対策強化」を初期投資ゼロで実現する太陽光発電サービス「D-Solar」などのソリューションを活用してエネルギー効率の向上をサポートしています。

(2)国内でのエネルギー効率を高めたオフィス・工場事例

企業 事例
大和ハウス工業「D’s SMART OFFICE」(ディーズ スマート オフィス)シリーズ 太陽光発電や蓄電池などの省エネ設備「アクティブコントロール」だけでなく、自然の光や風を活かした建物設計を施す「パッシブコントロール」、それらを適正に制御して施設全体のエネルギーマネジメントを行う「スマートマネジメント」という3つのアプローチでエネルギー効率の高いオフィスを提案。
日東工業瀬戸工場(愛知) 高効率機器の導入、断熱性能向上、自然採光を取り込んだ自動調光制御などにより大幅な省エネ化を図ることで、一次エネルギー消費量を54%削減するとともに、太陽光発電などにより賄う再生可能エネルギーがエネルギー消費量を超え、エネルギー削減率約127%を実現。
・「ZEB」「BELS」5つ星を取得

Daigasエナジーのサービス導入事例はこちらも参照ください。

導入事例(大阪ガス・Daigasエナジー)

5. エネルギー効率の高いビルや工場とWell-being(健康・快適性)の
関係について

(1)環境配慮がWell-beingに効果がある理由

ウェルビーイング(Well-being)とは、身体的・精神的・社会的に健やかで満たされた状態を意味する概念です。昨今では、従業員の幸福度を高めるために、快適なオフィスやワークプレイスの環境の整備がより重要視されるようになってきました。

エネルギー効率の高いビルや工場は、単なる「省エネ建物」ではなく、従業員や利用者の健康・快適性=Well-beingにも深く関係しています。近年では、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)やLEED認証に加えて、WELL認証(健康と快適性に焦点を当てた評価)などの指標が注目されており、「健康経営×環境配慮」の同時実現がキーワードになっています。

エネルギー効率の工夫 Well-beingへの効果
高断熱・高気密
適切な換気・CO₂センサー
自然光の最大活用・照明制御
室内の温熱環境最適化
室温が安定→冷え・暑さによるストレス軽減
空気質の向上→集中力・健康改善
目の疲労軽減、体内リズムの安定、生産性向上
不快感の低減、生産性・満足度の向上

(2)エネルギー効率やWell-beingを重視した建築物の認証制度

認証制度 特色・用途 対応領域
LEED
(Leadership in Energy and Environmental Design)
・米国グリーンビルディング協会が運営する国際的認証
・世界で最も普及
エネルギー効率、資源利用、環境負荷低減
BREEAM
(Building Research Establishment Environmental Assessment Method)
・英国発の環境性能認証
・エネルギー、水、材料、廃棄物など多角的に評価
エネルギー、水、材料、廃棄物など多角的に評価
CASBEE
(建築環境総合性能評価
システム)
・日本独自の建築物総合環境性能評価制度
・建物の環境負荷と居住性・快適性を複合評価
建物の環境負荷と居住性・快適性を複合評価
ZEB
(ゼロ・エネルギー・ビル)
・日本政府が推進する省エネ建築の基準
・ZEB Ready、ZEB Oriented、Nearly ZEBなど段階的
年間のエネルギー消費量を「実質ゼロ」にすることを目標とした認証制度
BELS
(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)
・一次エネルギー消費量に基づいて、5段階で評価し、星の数で表示
・一般社団法人住宅性能評価・表示協会が運用
建築物の省エネ性能を評価
する制度
WELL Building Standard ・米国のIWBI(International WELL Building Institute)
が運営
「空気」「水」「光」「運動」「快適性」「精神的健康」など人の健康に関わる項目を体系的に評価

(3)エネルギー効率とWell-beingを考えた実例

グラングリーン大阪

・鉄道物流の拠点であった梅田貨物駅跡地である地区面積約91,000m²のうちおよそ半分を都市公園とし、約320種、1,600本以上の樹木で多様な緑地を形成し、みどりの環境価値を最大限に高め、Well-beingなまちづくりを目指しています。

・また、地域冷暖房、帯水層蓄熱、バイオガス発電・バイオディーゼル発電、下水熱利用・地中熱利用、家庭用燃料電池などの環境負荷低減技術を採用してエネルギー効率を高めています。

※認証:「LEED」のまちづくり部門プラン認証、「ZEB Oriented認証(事務所部分)」「CASBEEスマートウェルネスオフィス認証」などを取得

(参照)
「グラングリーン大阪」都市公園を含む複合開発で日本初となる「LEED-NDプラン認証」「SITES予備認証」を同時取得(三菱地所)

大成建設「ZEB実証オフィス」(技術センター、横浜)

・オフィスとして利用しながら壁面などの太陽光をはじめとした再エネ・省エネ技術を検証することを目的とした建物で、建物単体での年間エネルギー収支ゼロ「ZEB」を達成しています。

・働きやすさと人と環境配慮を両立するため、AI・IoTの導入により多様な働き方をサポートする仕組みを導入。個人の好みなどに適応して色温度を可変にしたLED照明器具、ビル用マルチエアコン、真空・Low-E複層ガラスなどの製品を導入し、エネルギー効率の改善と働きやすさを両立させています。

※認証:「WELL認証・プラチナ(新築/既存建物全体)」、「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)最高ランク(Sランク)、LEED(新築カテゴリー)プラチナ認証

(参照)
ZEB実証棟から「人と空間のラボ」へ(大成建設)

三菱電機ZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」(※)

約360kWの太陽光パネルの全てを建物上に設置し、重力換気や自然換気窓の開放により空調負荷を削減。AIやIoTを活用したZEB運用システムにより、年間のエネルギー収支や快適性に与える影響などをシミュレーションで事前確認し、快適で健康性の高いオフィス空間と徹底した省エネを同時に実現しています。

※認証:WELL認証プラチナ、BELS最高評価、CASBEE ウェルネスオフィス最高評価S ランク、ZEB
※SUSTIE(サスティエ):三菱電機のZEB関連技術の実証施設です。

(参照)
SUSTIE(ZEB関連技術実証棟)(三菱電機)

6. オフィスや工場で環境性能やWell-beingの認証を取得するメリット

①経済的メリット

・賃料や売却価格の上昇
エネルギー効率の高い認証建物は、テナントや買い手から高く評価され、賃料プレミアムや売却価格の向上が期待できます。
(例:LEED認証ビルは賃料4〜8%高くなる)
CBRE(米最大手不動産サービス会社)MIT Real Estate Innovation Labの調査(2020)

・光熱費の削減
省エネ設計や高効率設備により運用コストが削減され、長期的には経済効果が大きくなります。

・補助金・税制優遇の活用
ZEBなど政府が推進する認証では、補助金や税制優遇が受けられます。
(例)脱炭素ビルリノベ事業(業務用建築物の脱炭素改修加速化事業)

(参照)
令和7年度脱炭素ビルリノベ(環境省)

②環境・社会的メリット

・CO₂排出削減・環境負荷軽減
認証取得により、温暖化対策に貢献し企業のESG評価向上につながります。

・ブランドイメージの向上
環境配慮や健康経営に積極的な企業として社会的評価が高まります。

・法規制対応・リスク軽減
将来的な省エネ規制強化やカーボンプライシング(※)などに先手を打てます。

※カーボンプライシング:温室効果ガスの排出に対する経済的な価値付け。2026年度から年間CO₂排出量10万トン以上の規模の企業に排出量取引が義務化

③利用者・従業員の健康・快適性向上

・生産性・集中力の向上
空気質や光環境を改善し従業員の生産性向上を促します。

・健康リスク低減・満足度向上
快適な温熱環境や騒音対策により、ストレス軽減や病気予防に寄与します。

・離職率低下・人材確保
働きやすい環境が、優秀な人材の定着や採用にもプラスに働きます。

④運用・管理面でのメリット

・エネルギー管理の効率化
BEMSや見える化により、運用の最適化がしやすくなります。

・長期的な資産価値維持
先進的な設備・設計で老朽化リスクを抑え、資産価値を守ります。

7. まとめ

エネルギー効率が高く、温熱環境や空気質が整った労働環境は、光熱費の削減などの経済的効果だけではなく、従業員の健康や快適性向上にも直結することがわかってきました。エネルギー効率を高め、Well-beingに配慮した建物を対象にさまざまな認証制度があり、それらを取得すると、ESG評価向上など企業価値の向上にも大きく寄与します。何より、利用者や従業員の働きやすさを改善し、生産性が高まることは、企業へのエンゲージメントを高めます。既存の建物では、省エネ設備の導入や断熱強化など費用対効果が高く、導入しやすい省エネ手法からまずは取り入れていきましょう。

箕輪 弥生(みのわ やよい)箕輪 弥生(みのわ やよい)
環境ライター・ジャーナリスト
NPO法人「そらべあ基金」理事

環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年〜2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。

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