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石油メジャーが社名変更

世界が21世紀半ばに向けて、カーボンニュートラルへ動き出すなか、先進国、産油国の大手石油企業は、燃焼時に炭酸ガスを排出する「石油」という文字を会社名称から外している。18世紀後半の産業革命期からの石炭、石油、天然ガスという化石燃料の大量消費による経済発展は、脱炭素の流れのなか見直されつつある。再生可能なエネルギー分野にドメインを拡大し、アンモニア、水素も扱う、地球環境に優しい総合エネルギー企業を目指した名称変更である。
再生可能エネルギーを普及するにあたって、日本のネックは国土が狭いうえに平地面積が小さいことである。陸上に設置する太陽光・風力等の再生可能エネルギーの利用だけでは、限界が見えている。そこで、期待がかけられているのが洋上風力発電である。国土面積は第61位にとどまるものの、四方を海に囲まれた日本の排他的経済水域は世界第6位の面積を持っている。

洋上風力発電への期待

①風が強く、24時間を通じて安定した風況が得られる。②風車の騒音・低周波の被害が少ない。③直径200メートル以上の大型の風車建設が可能で発電効率が向上する等、洋上風力発電のメリットは大きい。しかし、デメリットもある。野鳥の衝突等、環境被害が発生する可能性があること。遠浅の海域が少なく、水深50メートルを超える海域が多いため、欧州で主流の着床式風力発電を設置する場所が限定されること等である。
そこで着目したのが、浮体式の風力発電である。すでに長崎県五島市沖合で浮体式洋上風力発電が稼働。2021年に大阪ガス、戸田建設、ENEOS等をはじめとした企業連合が事業者として選定され、2024年には計8基の洋上風力発電所が稼働する予定である。また、2022年には大阪ガスが三井物産、秋田大学等と洋上風力発電を中心とした再生可能エネルギー分野の連携協定を締結して、男鹿市沖合等を有望な設置区域に指定。東京ガス、東邦ガス、西部ガス、四国電力、九州電力が事業者選定を受ける等、産官民を挙げた浮体式洋上風力発電の取り組みが進められている。
洋上風力発電の促進で、日本は2030年に1,000万キロワット、2040年に3,000万〜4,500万キロワットの設置目標を掲げている。

5億キロワット超のポテンシャリティー

課題もある。水深が深い海域における浮体式洋上風力発電の歴史は短く、台風の来襲、地震の発生という過酷な自然条件において建設のノウハウを磨き上げる必要性があること。環境影響評価に複雑な手続きが必要となること。現時点における発電コストが、LNG火力発電と比べて割高であること等である。
しかし、洋上風力発電事業は風車、軸受、変速機、発電機をはじめとした2万〜3万点の部品を必要するモノづくりの集積で、大規模な海洋土木工事等を要するため、地方経済の活性化、高度な技術の蓄積、雇用の創出を生み出す。
日本の海域には、5億キロワットを超える洋上風力発電のポテンシャリティーがあると推計されている。電気のみならず、電力を使った水の電気分解による水素の生産、水素と炭素を反応させてクリーンなメタン(天然ガスの主成分)を作り出すメタネーションの技術開発等、無限の可能性が開けている。メタネーションの技術を進化させて、水素と炭素からメタノールを作り出し、水素と窒素を反応させてアンモニアを合成すれば、自動車、船舶の燃料エネルギーとすることができる。
欧米の石油企業のみならず、日本の都市ガス企業は洋上風力発電のプロジェクトに参画して、LNGだけに依存しない総合エネルギー企業への動きを加速している。都市ガス企業が自動車のエネルギーを供給する、そんな時代も遠い話ではない。

エネルギー
よもやま話

無限の可能性!
バイオマスの今後

2050年のカーボンニュートラルを目指して、バイオマス(Biomass)の活用が日本および世界で注目されている。バイオマスとは、エネルギーに変換できる生物資源の総量を意味し、森林資源、栽培植物、製紙廃液・建設廃棄物等の産業廃棄物、農産廃棄物・林産廃棄物・紙くず・食品廃棄物・畜産廃棄物、下水処理の都市ゴミ等が挙げられる。バイオマスは生物育成時に炭酸ガスを光合成によって吸収することから、燃焼して炭酸ガスを排出してもライフ・サイクルでみて地球全体の炭酸ガス濃度を上昇させず、炭素中立的(カーボンニュートラル)と評価される。
バイオマス利用については、第1に間伐材等を利用した木質ペレット、木質チップを燃焼させて発電するバイオマス発電があげられる。政府は2030年度に、800万キロワットのバイオマス発電所を稼働させる計画で、高価で価格変動の激しい海外木材に代わる国内木材を安定的に供給する方針を固めている。それに対応して大阪ガスは、2022年に兵庫県で燃料となるセンダン等の植林を開始。植えてから10年間程度で伐採できる成長が早い樹木で、燃料コストを抑制するとともに国内林業の振興に貢献する。
第2にサトウキビ、トウモロコシ等から自動車用燃料を生産して、炭酸ガス排出削減を行う取り組みである。米国はトウモロコシを高値で買い取り、環境に優しいバイオ・エタノールの生産を強化。バイオ・ガソリンの普及を図っている。
第3は航空機燃料へのバイオマスの利用である。ICAO(国際民間航空機関)は、国際線の炭酸ガス排出量が2019年の実績を超えないことを要求。燃焼しても炭酸ガスを排出しない、SAF(持続可能な航空燃料)の活用が進められている。日本航空、全日空はSAFの利用を部分的に始めている。SAFの主流は廃食油等を原料とした燃料で、石油と比較して80%程度の炭酸ガス排出量を削減する。また、IHIは藻を原料としたバイオ・ジェット燃料の開発を行っている。
第4に食品廃棄物、家畜の排泄物、下水汚泥を原料として発酵メタンを生成するバイオガスの利用である。日本政府は2030年度までに、毎年1万2,000キロワットの発酵バイオマス発電所の新設を計画している。都市部の生活から廃棄されるバイオマスは、地域に根付いた再生可能エネルギーといえる。
大阪ガスの100%子会社のDaigasエナジーは2021年秋に、食品廃棄物を処理してバイオガスを生産する、オンサイト型バイオガス化システム「D-Bioメタン」を開発。1日当たり1〜3トン程度の食品廃棄物が発生する食品工場、大型商業施設での利用を図っている。麦茶を生産するときの茶カスから蒸気を生成する技術も開発。従来は捨てられていた食品廃棄物を、環境に優しいエネルギーとして再利用する道を開いている。
バイオマス発電所は出力変動がない、安定したエネルギーとして期待されている。既存の発電所、ガソリン・スタンド、航空機というインフラストラクチャーをそのまま使えるため、発電、自動車用燃料、航空機燃料、蒸気としての期待が大きい。地産地消のエネルギーで、エネルギー自給率の向上につながるとともに、地域経済の振興、雇用の創出にもつながる。日本政府が進める2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、必要不可欠なエネルギーとして期待されている。
しかし現状は、バイオマス発電の燃料の8割以上を海外からの輸入に依存。国際木材価格の上昇、エネルギー自給率の低下、海外からの輸送による炭酸ガス排出等の課題を抱えている。日本国内の木材、間伐材、食品廃棄物、産業廃棄物等の国内資源をいかに活かすか。活かしきれればエネルギー自給率向上、脱炭素につながるだけではなく、少子高齢化に悩む日本にとって、地域経済の活性化、地域の強靭化、人材育成等にもつながっていく。

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ENERGY BUSINESS PRESS vol39(PDF)