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見直される水素社会と燃料電池

世界がカーボンニュートラル(炭酸ガス排出実質ゼロ)に動き出している。20世紀は「石油の世紀」、21世紀は「環境の世紀、電力の世紀」といわれ、発電時に炭酸ガスを排出しない再生可能エネルギーによる電気の利用が注目されている。欧米をはじめとした大手自動車メーカーは、電気自動車(EV)開発に舵を切っている。
一方、日本は世界に先駆け、大阪ガスをはじめとした都市ガス企業等による家庭用燃料電池「エネファーム」、トヨタ自動車による燃料電池車「MIRAI」の実用化を行っている。EVが次世代自動車の主力になれば、日本の燃料電池、水素社会の技術はガラパゴス化すると懸念されていた。しかし、2022年に入って水素社会、燃料電池が再び見直された。その理由としては、エネルギー源であるリチウム・イオン電池の技術革新の難しさとともに、熱エネルギー不足があげられる。再生可能エネルギーの電気では、高温の熱エネルギーを必要とする粗鋼生産、工業用ボイラー、化学工業等のエネルギー源にならないからである。
水素を燃料とした燃料電池車は、EVと比較して優れた長所をもっている。①短いエネルギー充填時間、②長い航続距離、③大きな積載容量、④高いエネルギー密度―である。エネルギー密度は、自動車・航空機等にとっては絶対的な意味をもっている。架線から電気を供給される電車とは異なり、自動車、航空機は限られた車内、機内のスペースにエネルギーを蓄えて、長い距離を動く必要がある。単位体積当たりのエネルギー密度が高ければ、速い速度で、長距離を動くことができる。

水素社会の実現に向かって

水素発電の技術が確立すれば、再生可能エネルギーによる電気からつくられた水素をもとに空気中の窒素と反応させてアンモニアを生成し、空気中の炭酸ガスと反応させて都市ガスの主成分であるメタンを合成することが可能になる。太陽光発電、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーによる電気から、カーボン・フリーな水素をつくり、その水素を工場等から排出される炭酸ガスと反応させれば、燃焼によって発生した炭酸ガスと相殺して、ライフ・サイクルで見てカーボンニュートラルなメタンをつくることができる。
脱炭素の流れのなか、日本を含めた欧米諸国において脱ガソリン車への動きが強まっている。水素エンジンが実用化されれば、従来の内燃機関の技術を活用しつつ脱炭素が可能となる。大阪ガスはトヨタ・グループの豊田自動織機と共同で、炭酸ガスを排出しないアンモニアを燃料とした小型エンジンの技術開発と実証を開始している。これまではEVに力を入れていたドイツ、中国等も、水素利用の重要性に注目したエネルギー戦略を打ち出している。
ここで重要になるのは、いかに水素の生産コストを低減し、量産化することができるかである。現在、安価で、炭酸ガスを排出しない水素を大量に生産する研究が川崎重工業、千代田化工等で行われている。大阪ガスも2030年の実用化を目指し、鉄と水を反応させて効率よく安価な水素生産を行う研究を始めている。水素とともに化学反応で生成される純度が高い炭酸ガスを回収し、炭酸ガス、電気を一緒に販売することで、より安価な水素の供給を目指している。
石炭から改質して水素を生成するとコストは安価であるものの、炭酸ガスを排出する。出力が変動する太陽光発電、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーによる電気分解だと、低コストで純度の高い水素を生成するのが難しい。大量生産、コスト低下の技術も実現していない。課題は山積している。しかし、長期的に見れば水素利用の可能性は無限に広がっているといってよいのではないだろうか。

エネルギー
よもやま話

ウクライナ情勢と
天然ガス価格の今後の見通し

2022年2月24日に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻がエネルギー情勢を震撼させ、各国は原油価格、ガソリン価格の高騰に直面している。欧米諸国、日本はロシアに対する金融制裁、投資撤退、工場の操業停止をはじめとした制裁を強化。米国はロシア産原油に禁輸措置をとり、ドイツをはじめとする欧州諸国、そして日本がこれに追随している。原油輸入の5%程度、LNG(液化天然ガス)輸入の8%程度を、ロシア・サハリンのプロジェクトに依存している日本も無関係ではいられない。制裁強化によるロシア産石油・天然ガスの供給不安は、日本のエネルギー安全保障に打撃を与える可能性があるからである。
なかでもLNGサプライ・チェーンを構築し、天然ガスの45%をロシアに依存する欧州諸国は大きなダメージを受ける。しかし、世界最大のLNG輸出国である米国、LNG輸出能力の増強を行っているカタール、アルジェリア等からの供給で、ロシア産天然ガスの大部分は切り替えられそうである。
ロシア産原油は、ロシア制裁に厳しい態度をとっていない国にも流れている。欧米諸国が禁輸措置したロシア産石油を中国、インド等が安値で購入することで、それまで中国、インド等に供給されていた中東産原油が欧州諸国に回れば、世界全体での石油需給に変化はない。ウクライナ情勢が極度に緊張化しないかぎり、原油価格の高騰が長引く可能性は少ない。
そんななかで、中国がロシアとの間に天然ガス輸送パイプラインの増強を構想している。中国は地球温暖化対策、大気汚染防止策として、炭酸ガス排出量が石炭の半分程度の天然ガス輸入量を増加させていて、2021年には世界最大のLNG輸入国となっている。パイプラインでロシアが欧州諸国に売ることができなくなった天然ガスを中国に供給し、ロシア産天然ガスの輸入を拡大しようというのである。
一方、脱炭素の観点から石炭火力発電廃止の先鋒を切っていたドイツが、石炭火力発電の稼働延長への動きを見せている。国内に豊富な石炭を使って、ロシア産LNGへの依存から脱却しようというのである。石油、天然ガスをはじめとした化石燃料の開発に慎重となっていた米国も、ウクライナ危機にともなう原油、ガソリン価格の高騰に直面したことで、シェール・オイルの新規開発、シェール・ガスを原料としたLNG生産能力の増強に前向きとなっている。世界最大の原油・天然ガス生産国が、長期的な脱炭素の構想を維持しつつも、現在国民生活に必要とされる石油・天然ガスの安定供給に重点を置いたことは、原油価格、天然ガス価格の安定に大きな意味をもっている。
ここで注目してもらいたいのは、ロシアに対する制裁が強化されているといっても、欧州諸国の国民生活にとって重要な石油と天然ガスについては別扱いとなっていて、以前と同じようにロシア産の天然ガス・石油は欧州諸国に供給されていて、欧州諸国は輸入代金を今までと同じように支払っていることである。
そんななか、LNG価格は今後どう変動するのであろうか。長期化する様相を見せているロシアのウクライナ侵略で、欧州諸国は脱ロシアとエネルギー安定調達に動き出している。中国、インド等がロシア産天然ガスの輸入を加速したことで、アジア地域における米国、カタール、豪州等からのLNG輸入を削減。欧州のみならずアジア地域におけるLNG需給の逼迫は回避され、世界全体のLNG需給はバランスしている。LNGスポット価格も百万Btu当たり2021年7月頃の価格ぐらいに収まるのではないかと予想されている。

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ENERGY BUSINESS PRESS vol38(PDF)