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グローバルな視点から

2019年秋以降におけるエネルギー情勢を考えるうえで、グローバルとローカルの2つの視点に分けてみる。
まずグローバルな視点の第1は、中東における地政学リスクの強まりが挙げられる。米国とイランとの対立が激化し、アメリカはイランとの核合意を離脱し、イランに対する制裁を強化した。一方イランは、ホルムズ海峡を航行する石油タンカーの拿捕、海峡封鎖等で対抗しようとしている。日本の原油輸入の8割以上、LNGの2割はホルムズ海峡を通過している。イランの海峡封鎖は、日本にとって悪夢のような危機につながる。両国の対立は続いている。お互いに全面戦争に躊躇しているものの、ちょっとした相手の動きへの読み違いが本格的な戦争となる可能性も懸念される。
また、今年7月に、サウジアラビアをはじめとしたOPEC加盟国とロシアなど非OPEC加盟国が提携する「OPECプラス」を恒久化することが決められた。「OPECプラス」は、世界全体の原油生産量の5割超を保有する。さらに、イランとサウジアラビアの覇権争い、シリア紛争、アメリカとロシアの思惑…など、中東が抱える地政学リスクは極めて複雑となっている。
第2に米中の貿易戦争である。両国は関税引き上げの果てしない報復合戦を続けており、世界経済の成長率鈍化の可能性が強まっている。民主化をめぐり、大規模な抗議活動が続く香港情勢も注意する必要がある。中国政府の軍事介入を招くような状況となれば、欧米諸国による中国への制裁が米中貿易戦争と相まって世界経済の下押し圧力となる。そうなれば、石油需要は大幅に減少し原油価格低下の要因となる。
第3に2019年6月に開催されたG20大阪サミットである。関係閣僚会合において、持続可能なエネルギーの利用が議論され、クリーンな化石燃料の利用、天然ガスの利用促進、水素の活用等が掲げられた。経済成長と地球環境保護の両立が求められていることから、石油・石炭需要の縮小、天然ガスの需要増加の流れが、各エネルギーの価格変動を左右する可能性がでてきている。
「よもやま話」で詳述したように、アジア諸国を中心にLNG需要が急増。需要が供給を追い越す状況になっている。さらに英国のEU離脱の迷走が招いた欧州諸国の経済成長率低下などさまざまな要因が、世界のエネルギー情勢、石油やLPGの価格形成に影響を与えている。

ローカルな視点から

国内に視点を移すと、第1に人口減少と少子高齢化による市場の縮小が止まらない。第2にESG(環境・社会・企業統治)投資への取り組みから、電気自動車が普及。脱化石燃料への動きが明白になり、石油の消費が減少し続けている。石油消費量は現在の400万b/dから、2040年には200万b/dに減少することが見込まれている。ガソリン・スタンド数も激減している。ガソリン販売量の減少と後継者難は、ガソリン・スタンド経営に打撃を与えている。
一方、地球環境に優しいエネルギーとして、LNGへの期待が一段と高まっている。堅調な電力需要により、LNG火力発電の新設計画等が相次いでいる。
船舶燃料も2020年から始まる環境規制の強化から、ディーゼル・エンジンを改良し、LNGを船舶燃料として供給する方向に向かっている。既に北欧諸国、シンガポール等に、船舶燃料用のLNG供給拠点が設けられ、東京湾等にもLNG供給設備が設置されるなど、船舶燃料としての新たな需要が期待されている。
以上述べてきた世界と日本のエネルギー情勢を考えると、現時点においては中東の地政学リスクよりも、米中貿易戦争による世界経済低迷に伴う石油需要減少の懸念が上回り、石油価格上昇の上値が抑えられている。しかし、万が一イランがホルムズ海峡を封鎖した場合どうなるか。市場は実際のエネルギー需給関係を超えて、過敏に反応し、原油価格、LNG価格が上昇するリスクがあることも頭に入れておく必要があるのである。

エネルギー
よもやま話

インフラ輸出の商機となるか

■LNG需要が急増するアジア
今年は日本が米国アラスカからLNG輸入を開始して50年の節目にあたる。世界に先駆けLNGの輸入に踏み切った日本は、今では世界最大の輸入国、LNG市場のリーダーとなっている。
20世紀までLNG市場は、輸出国、輸入国ともに限定された市場となっていた。しかし、21世紀になると輸入国が拡大。中国、インドなどにタイ、マレーシア、シンガポール等のアジア諸国が加わり、2018年のバングラデシュを合わせると40数ヵ国に至っている。2020年以降には、インドネシア、ベトナム、フィリピン、ミャンマー等も、LNG輸入計画を構想している。
アジアはもともと石炭がエネルギーの主役だが、温暖化対策などでこれ以上は石炭を利用することができない状況に直面している。しかも、かつてはLNG輸出大国であったマレーシア、インドネシアが、急増する国内の天然ガス需要と自国の天然ガス生産量の伸び悩みから、輸入国に転じるなど需要は拡大している。こういった情勢を踏まえ、エネルギー専門機関はLNG輸入が2018年に3億1,380万トン、2030年には5億トン近くに増加し、その8割以上はアジア諸国が占めると予測している。

■アジアで加速するLNGプロジェクト
LNG輸入には、調達〜受入基地建設に係わる高度なノウハウと巨額の初期投資が必要となる。期待されているのが日本企業である。
日本のプラントメーカー、海運会社、都市ガス、電力企業は、FSRU(浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備)という、船上でLNGを受け入れ、海水等により再気化したLNGを都市ガスの原料、火力発電の燃料として供給する技術をはじめ、豊富な経験と実績を持っている。中小規模の受入基地なら、中古のLNG輸送船を改造する方法もある。これなら、小額な初期投資と短い納期で建設できる。
日本政府も日本企業が参画するLNGプロジェクトに対して、国際協力銀行、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、日本貿易保険による低利融資、保険料の割引など優遇措置が受けられるよう支援。30兆円のインフラ輸出を目指している。1プロジェクトで数千億円〜数億円に達するLNGプロジェクトは、日本が持つノウハウを活かしたインフラ輸出の重要な目玉となる。
大阪ガス、東京ガスをはじめとした都市ガス企業は、海外事業の拡大を経営の大きな柱とし、インドネシア、タイ等において産業用ボイラーの天然ガス利用促進、ベトナムのLNG受入基地建設等を始めている。三菱商事はバングラデシュ、三井物産はパキスタンのLNG受入基地へ参画する。
シェール・ガスを原料とした米国のLNGは仕向け地条項がなく、転売も自由にできることから、日本国内のLNG需要動向に応じて、機動的にアジア諸国にLNGを販売できる。アジア市場全体の需給均衡を実現できるうえに、米国産LNG輸出を支援することにより、米国の貿易赤字の改善にも貢献できる。
中国のLNG輸入が2020年代に日本を抜く可能性があるなか、東南アジア諸国のLNG輸入プロジェクトに参画することは、日本の強みを活かしてインフラ輸出の商機を作り出すことである。同時に、アジアのLNG需給の安定化、透明なLNG価格形成に貢献するものである。東南アジア各国のLNG対策、日本企業による海外LNGプロジェクトへの参画から目が離せない。