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トランプ・タワー訪問

8月下旬に、ニューヨークを訪問し米国経済の現地調査を行った。米国での定点観測を15年近く続けているが、今年は5番街の中心にそびえるトランプ・タワーの主が大統領となったことから、5番街周辺に大きな変化がないかに注目した。訪問してみると、日本の新聞やテレビ等の報道とは異なり、拍子抜けするほど変化はなかった。トランプ・タワーは、セキュリティーが多少厳重となったものの、ビルの中は今までと変わらずノンキな雰囲気のままであった。また、大統領の移民排斥、人種差別的な過激な発言とは異なり、街中では多様な人種の人々が働き、観光を楽しんでいた。ニューヨークはもともと民主党の地盤であり、世界中から移民が集まる場所であることから、大統領の発言とは無縁の状況にあるようだ。

パリ協定離脱に対する国内の反応

ウォールストリートのエコノミストの話によると、トランプ大統領による規制緩和、大型減税への期待から、株価は史上最高水準にある。企業の業績も順調で雇用情勢も良好なことから、2017年第2四半期の実質GDPは年率2.6%と好調な状況となっている。大統領が具体的にインフラストラクチャー投資、大型減税等の政策を実施せずとも、ビジネス寄りの共和党政権への期待感から米国経済は自律的な成長軌道にあるという。その一方で、大統領の過激な言動、思いつきともとれる発言が環境、外交、資源エネルギーをはじめとした米国の政策に対するリスクとして残っていることへの警戒感が感じられた。
2017年6月、トランプ大統領は地球温暖化対策の世界的な枠組みであるパリ協定離脱を表明し世界を驚愕させたが、米国国内の企業、国民の大多数は米国がパリ協定を離脱することは事実上不可能であると考えている。理由は3つある。1つは、米国大統領の権限が大きいといっても、主に軍事、外交、国際貿易に関する事項に限られており、環境規制等の法律については個々の州の権限が強いこと。2つ目は、米国の大多数の企業が低炭素社会を見据えたグローバルな事業展開、地球環境に優しい研究開発に巨額の投資を行っていること。3つ目は、大統領が保護の立場をとっている石炭産業は中心的産業ではなく、過度な保護が電気自動車等の成長産業の発展を阻害することである。大統領の発言とは関係なく、米国企業と国民は地球温暖化対策への舵を切るという考え方が一般的となっている。

北朝鮮への対応とエネルギー政策

北朝鮮政策については、軍事専門家・外交専門家の危機感は強いものの、当初一般の米国国民の関心は低かった。しかし9月3日の北朝鮮の水爆実験により警戒感が一気に強まっている。国連安全保障理事会は北朝鮮への部分的石油禁輸を決議したが、北朝鮮が今後も弾道ミサイル発射等の挑発行為を続ければ、米国は北朝鮮への全面石油禁輸へ踏み込むことも視野に入れている。とはいえ、米国の軍事介入の可能性に対しては、慎重論の方が根強いようである。
エネルギー政策については環境規制の緩和で、シェール・ガス、シェール・オイル開発が一段と活発化し、石油・天然ガス業界からは歓迎されている。一方、ガソリン車に対する環境規制を緩和する反面、電気自動車に関する研究投資を削減している状況に対し、米国の地球環境保護への技術革新を遅らせると、環境保護団体・ベンチャー企業からの批判が強い。世界最大の石油企業エクソンモービルの元CEOであるティラーソン国務長官も、「地球温暖化対策はエネルギー業界の責務で、電気自動車をはじめとした環境技術は米国に雇用をもたらす」と述べるなど、過度に石油・天然ガスを重視することは、原子力発電の軽視、環境関連技術開発の停滞等、米国のエネルギー安全保障、地球環境保護の技術革新に影響を与え、中国に主導権を奪われてしまうという批判が多い。
ウォールストリートは大統領の規制緩和政策が米国経済の成長を促していると評価するが、民主党・共和党を含めて米国国民の7割以上はパリ協定を支持し、トランプ政権による過度な石油・天然ガス振興策、ガソリン車優遇に反対している。こういったジレンマをどう克服する。トランプ政権の今後の対応が注目される。

エネルギー
よもやま話

中国が石炭を使わなくなる日

21世紀に入ってからの資源エネルギー、なかでも石炭爆買いの主役は中国である。石炭の消費は、火力発電用の一般炭と粗鋼生産用の原料炭に分かれる。中国の電力消費量は2015年に1990年時の9倍に達しているが、発電の8割を占めるのが石炭火力である。粗鋼生産量も2002年に年間1億8,000万トンだったものが2014年には8億トンを超えている。
石炭というと産業革命時代の古びたエネルギーと感じるかもしれない。しかし、21世紀の今も世界のエネルギー消費量の28.1%は石炭が占め、発電の4割を石炭火力が担っている。なぜ石炭が現在も利用されているかというと、第1に圧倒的に安価なこと。第2に石油のように中東地域に偏在せず、世界中に存在する資源エネルギーであるため、地政学リスクが極めて小さいこと。第3に資源量が石油の2倍以上(推定)あり、可採年数が石油の50年程度対して200年近いことなどである。
とはいえ、地球温暖化の元凶といわれる炭酸ガス及び大気汚染、酸性雨の原因となる硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量が多く、環境の世紀といわれる21世紀には厄介なエネルギーでもある。現に石炭の大量消費により世界最大の炭酸ガス排出国となった中国では、北京、上海をはじめとした大都市での大気汚染、スモッグが深刻となっている。
そのため、中国は数年前からLNG、原子力をはじめとしたエネルギー源の多様化路線に舵を切り、2014年以降石炭消費量が減少するなど徐々に成果をあげている。アメリカが離脱を表明したパリ協定の遵守にも前向きで、国内の石炭生産者に操業日数の制限を課し、新規の石炭火力発電所建設を抑制している。さらに、フランス、英国に追随して2017年9月にはガソリン車、ディーゼル車の販売禁止を検討し始めるなど、脱石炭、炭酸ガス排出削減に本気で乗り出していると見てとれる。
つい数年前までは、中国の石炭特需で、豪州をはじめとした石炭産出国は大いに沸いていた。中国は将来的にも、限りなく石炭の消費を増加させると考えられていた。環境政策に対する中国の変貌を見ると、中国が再生可能エネルギー、LNG、原子力の依存度を強め、石炭を使わなくなる日もあながち絵空事とはいえない。