日本では、国内貨物の多くがトラックによって輸送されており、CO₂排出量の観点から大きな課題となっています。また、トラックドライバーの労働時間規制強化に起因する「2024年問題」に代表される、物流業界の深刻な人手不足にも直面しています。
そのような課題のひとつの解決策として、「モーダルシフト」が注目されています。
モーダルシフト(modal shift)とは、貨物の輸送方法を自動車から環境負荷の小さい鉄道や船舶へ転換することを指します。また、電気自動車などの次世代自動車と効果的に組み合わせることにより、更なる脱炭素化を推進することができます。
本記事では、モーダルシフトのメリットと課題、政府の取り組みなどを紹介します。
目次
1. モーダルシフトとは環境負荷の小さい輸送方法へ転換すること
モーダルシフトは元々「輸送方法の移行」を意味します。
特に、環境問題への配慮が重視される現在、モーダルシフトは貨物輸送手段を環境負荷の大きい自動車から、環境負荷がより小さい鉄道や船舶へと切り替えることを指します。
国土交通省の資料によると、2021年の輸送形態ごとの国内貨物の割合は、貨物の重量と輸送距離を掛けたトンキロベースで、自動車が約55%、内航海運が40%、鉄道が約5%です。
輸送モード | 貨物輸送量(十億トンキロ) | 割合 |
---|---|---|
自動車 | 224 | 55% |
内航海運 | 162 | 40% |
鉄道 | 18 | 5% |
合計 | 404 | 100% |
(参照)
貨物輸送の現況について(国土交通省総合政策局物流政策課)より作成
また、国立環境研究所によると、旅客輸送も含んだ運輸部門のCO₂(二酸化炭素)排出量では、貨物自動車による輸送が運輸部門全体の38%と大きな割合を占めています。
このような状況を踏まえて、政府は自動車から鉄道・船舶へのモーダルシフトを推進しています。
2. モーダルシフトのメリット
モーダルシフトが必要とされている理由は、地球温暖化および物流を担う人手不足などの課題に対処する必要があるからです。
日本は、パリ協定のもと2050年までに温室効果ガスの排出を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。
また、トラックドライバー不足によって日本全体の輸送能力の低下も懸念されています。
日本は、早急な温室効果ガスの排出量の削減と、輸送を担う人手の不足という2つの課題に同時に対応しなければなりません。
ここではモーダルシフトのメリット2点を説明していきます。
モーダルシフトのメリット2点
- ・CO₂排出量の削減
- ・トラックドライバーの不足と長時間労働の解消(2024年問題)
(1)CO₂排出量の削減
温室効果ガスにはCO₂のほか、メタン(CH₄)や亜酸化窒素(N₂O)、フロン類などがありますが、CO₂は人為的な活動による排出量が多いため、特に大きな削減が求められています。
自動車から鉄道・船舶にモーダルシフトすることにより、CO₂排出量の削減が可能です。2022年度の試算によると、1トンの貨物を1km運ぶ場合のCO₂排出量は、営業用貨物車(トラック)は208g、鉄道は20g、船舶は43gです。
(参照)
モーダルシフトとは(国土交通省)
つまり、貨物輸送の方法を鉄道に転換することで約90%、船舶への転換では約80%のCO₂排出量を削減が可能です。
このように、物流に関わるCO₂排出量を削減する手段として、モーダルシフトは大変有効です。
(参照)
モーダルシフトとは(国土交通省)
(2)トラックドライバーの不足と長時間労働の解消(2024年問題)
トラックが担ってきた輸送の一部を鉄道や船舶に移すことで、生産年齢人口の減少や労働時間の短縮によって起こるドライバー不足の問題に対処できます。
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働は960時間を上限とする規制が適用されました。これにより、ドライバーの労働時間の短縮によって輸送能力が不足して物流が滞ることが懸念されています。これを「物流の2024年問題」と言います。
経済産業省は、トラックのドライバー不足により、2030年には荷物の約34.1%が輸送できなくなる可能性を指摘しています。
労働力不足とドライバーの労働環境の改善という課題に対し、モーダルシフトは有効な解決手段のひとつとなり得ます。
3. モーダルシフトが進まない理由
2020年度において、海運で輸送された貨物は356.0億トンキロ、鉄道は221.4億トンキロでした。政府は、モーダルシフトにむけた目標値として、2030年度に海運輸送を410.4億トンキロ、鉄道輸送を256.4億トンキロに増加させるとしています。
しかし、輸送方法の転換は容易ではなく、現状のままでは目標達成は難しいと言わざるを得ません。
ここではモーダルシフトが進まない要因となっている下記3点について説明します。
モーダルシフトが進まない理由3点
- ・鉄道や船舶は輸送の柔軟性が低い
- ・既存の物流体制の変更には時間とコストが必要
- ・モーダルシフトを進めにくい地域がある
(1)鉄道や船舶は輸送の柔軟性が低い
鉄道や船舶は運行ダイヤが決まっており、荷主のスケジュールと合わない場合や積載貨物の空きがない場合は利用できません。また、急な輸送先やスケジュール変更への対応は難しいです。
ダイヤによってはトラック輸送よりリードタイムが長くなることもあります。
(2)既存の物流体制の変更には時間とコストが必要
モーダルシフトの更なる推進には、インフラ改修や新たな物流ネットワークの構築が不可欠で、これには時間とコストがかかります。
例えば、鉄道輸送では、トラックとの積み替え作業を効率化するために貨物駅の設備強化が必要です。また、災害時の復旧にも時間を要するため、代替輸送システムの構築が求められています。
(3)モーダルシフトを進めにくい地域がある
鉄道や港湾インフラが整備されていない地域は、モーダルシフトの推進は制限されます。
第4回モーダルシフト推進・標準化分科会によると、モーダルシフト化率には地域差があり、九州は高い一方で、関東や近畿、中部では低い傾向にあります。
今後、モーダルシフトをさらに推進するためには、地域ごとの輸送環境に応じたインフラ整備の強化や、既存の輸送手段の効率的な活用が求められます。
4. 政府によるモーダルシフト等推進事業
政府は「モーダルシフト等推進事業」を通じて、温室効果ガスの削減や物流の効率化を目指しています。
この事業では、事業者のモーダルシフトに要する費用や初年度の運行費の一部が補助されます。省人化・自動化のための設備導入や、荷物の中継輸送を効率化する取り組みも支援の対象です。
また、政府はモーダルシフトを「グリーン成長戦略」における低炭素化の施策の一環と位置付け、物流の持続可能性を高める取り組みを進めています。
5. モーダルシフトと電気自動車(EV)の組み合わせ
今後、モーダルシフトが今よりも普及したとしても、自動車輸送が完全になくなることはありません。自動車輸送は鉄道・船舶輸送よりも柔軟性に優れ、今後も重要な輸送方法であり続けます。
自動車輸送であっても、輸送に使用される自動車を次世代型自動車に置き換えることでCO₂排出量を削減することは可能です。
次世代型自動車とは、従来のガソリンやディーゼルエンジンを使用する自動車に代わり、環境負荷の低減やエネルギー効率の向上を目的として開発された自動車のことです。
電気自動車(EV:Electric Vehicle)をはじめ、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、天然ガス自動車(NGV:Natural Gas Vehicle)および燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)などがあります。
特に電気自動車(EV)は、再生可能エネルギー由来の電力を充電に活用することで、走行時のCO₂排出をゼロにすることが可能であり、大型車への導入も進んでいます。ただし、充電設備など初期投資が課題となるため、国や自治体は補助金制度で導入を支援しています。天然ガス自動車(NGV)もガソリン・軽油などの燃料に対して単位発熱量あたりのCO₂排出量が約25%少なく、石油の急激な価格変動への備えにもなります。導入に際し、国やトラック協会などの燃料補助制度・優遇税制を活用することができます。
(参照)
電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!(経済産業省資源エネルギー庁)
天然ガス自動車(NGV)(業務用・産業用/大阪ガス・Daigasエナジー)
6. EVの導入ならD-Charge:初期投資ゼロで充電器設置とエネルギーマネジメント
EVを導入する際の課題のひとつに充電施設の整備があります。大規模な物流拠点や長距離輸送を行う事業者にとって、十分な充電設備の確保や充電インフラの整備は不可欠です。しかし、充電器設備の設置には高額な初期投資が必要です。
Daigasエナジーは、EV充電器の設置とエネルギーマネジメントを組み合わせたEV充電ソリューション(D-Charge)を初期投資ゼロでご提供します。
まとめ
モーダルシフトは、環境負荷の低減と物流の効率化を実現する重要な取り組みです。
しかし、既存の物流体制を変更するには、インフラ整備や新たなシステムの構築に時間とコストがかかります。モーダルシフトを進める一方で、まずはEVなどの次世代型自動車導入もCO₂排出量の削減の有効な手段です。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、環境に配慮した輸送手段への転換を進めることが、今後の持続可能な物流の鍵となるでしょう。
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