2024.11.01
世界で生産された食品のうち約5分の1(※)が食べられることなく廃棄されていると言われています。食品の廃棄は、生産や加工、梱包、輸送に使われた資源やエネルギーが無駄になるだけでなく、焼却処分にも多くのエネルギーを使い、CO₂を排出します。そのため、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)では、2030年までに食品廃棄量を半減させることを掲げています。最近では廃棄物の活用方法も広がっていますが、まずはフードロスを含む食品廃棄物を減らすReduceが重要です。国内外の食品廃棄についての現状やその対策について見ていきましょう。
目次
フードロスと廃棄は世界の年間温室効果ガス排出量の8~10%(※)を占めると言われています。これは航空部門の排出量の約5倍に値します。生産や加工、輸送に使われたエネルギーだけでなく、焼却処分や埋め立てによる二酸化炭素(以下CO₂)排出も深刻です。つまり、フードロスと廃棄を減らすことは脱炭素に直結すると言えるでしょう。
【日本】
国内の食品産業からの食品廃棄量は、農林水産省によると年間1524万トン(2023年)にのぼり、そのうち86%が食品製造業から発生し、外食産業、食品小売業がそれぞれ6%と、製造業からの廃棄量が非常に多いことがわかります。廃棄食品のうち75%は何らかの形で再生利用されています。(グラフ1参照)
このうち、農水省が「まだ食べられるにもかかわらず、なんらかの理由で廃棄される食品」と定義する「フードロス」は、年々減少傾向にあるものの、年間470万トン(2022年)を超えています。これには家庭からと事業系からが半々の排出です。食品廃棄物にはフードロスだけでなく、野菜の芯や魚の骨、傷んだ食品など可食できない部位も含みます。
【世界】
世界でも食品廃棄は深刻な問題です。国連環境計画(UNEP)は、世界の約3分の1の人が食料不足に直面している中、10億食分に相当する食料が毎日廃棄されていることを報告しています(食品廃棄指標報告2024)。その量は約10億5000万トンで、消費者が利用できる食品全体のほぼ5分の1に相当します。
食料廃棄は、飢餓や貧困などの問題につながるだけでなく、世界の温室効果ガス排出量の約1割を占めており、食料廃棄に伴う排出量の問題も見過ごせません。
【日本】
国内では、事業系食品廃棄物を削減するための法律として、「食品リサイクル法」「食品ロス削減推進法」があります。
・「食品リサイクル法」
食品循環資源の再生利用を促進するための法律です。再生利用の優先順位は、まず食品廃棄物そのものの「発生を抑制」し、次に再資源化できるものは飼料や肥料、メタン化などへの「再生利用」を行い、再生利用が難しい場合は「熱回収」を行うことが推奨されています。食品廃棄物を年間100トン以上排出している事業者に対して、再生利用の実施率や発生量、再生利用量などの報告が義務付けられています。
・「食品ロス削減推進法」
2019年に施行された法律ですが、更なるフードロスの削減をはかるべく、政府は2024年度内の改定を進めています。これまでと大きく変わりそうなのは以下の3つのポイントです。
どう変わる?「食品ロス削減推進法」
ポイント1)「3分の1ルール」の見直し
フードロス発生の商習慣とされてきた賞味期間の3分の1以内を小売店舗への納品期限とする「3分の1ルール」の緩和。
ポイント2)フードバンク団体などへの寄付の促進
企業などが貧困や災害に遭った人々などに余剰の食品を再配分する「フードバンク」への寄付を促すために、食中毒などの事故が発生した場合でも、事業者の責任が免除される仕組みを導入。
ポイント3)食べ残しの持ち帰りの促進
外食時に、食べ残しの食品を持ち帰る場合、消費者自らの責任において持ち帰るというルールを明確化。万が一食中毒などが発生しても、事業者側の責任は問われない免責条件を設定。
【海外】
・SDGs
国際的には2019年に策定されたSDGs目標のひとつとして「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させよう」(12:つくる責任・つかう責任)があります。
・フランス・イタリア
SDGsに先駆けて、食の国でもあるフランス、イタリアでは2016年に「食品廃棄禁止法」が制定されました。賞味期限切れ食品や賞味期限が近付いている食品の廃棄を禁止したもので、フランスでは罰則が規定としてありますが、イタリアはありません。これらの食品は慈善団体やボランティア組織などへ寄付するよう義務付けられています。
・米国
フードバンクの発祥国でもあり、食品寄附に関わる免責制度や税制優遇といった施策によってフードバンクへの食品の寄附を強力に推奨しています。そのため、フードロス全体の約10%をフードバンクが回収しています。("Feeding America", 2023)
1)拡大するフードロス・食品廃棄物のアップサイクル
本来は廃棄される予定だった食品廃棄物に、新たなデザインや技術を施して付加価値をつけ、新しい製品に作り替える「アップサイクル」のマーケットが拡大しています。ある食品宅配サービスでは、ここ3年間の間に約121トンのフードロスを削減しています。食品廃棄量を減らすだけでなく、新たな製品として消費者にも受け入れられ、売り上げも好調です。
■アップサイクルの種類
・食品廃棄物から食品へのアップサイクル
不揃いな野菜や規格外品などをスナック菓子や加工品、ペットフード、お酒などに作り替え、別の新しい製品を生み出します。
・食品廃棄物から非食品へのアップサイクル
廃棄される予定の食品廃棄物を使って工業製品などを作り出す事例。特に、パイナップル、りんご、きのこ、バナナの廃棄部分などを使って作られるヴィーガンレザー(動物由来の原料を使用しないで 作られた人工レザー)は、ファッション業界のサステナブルトレンドの高まりもあり、大手ブランドで使われるなど注目が集まっています。
■食品廃棄物のアップサイクル事例
業種例 | 商品例 | |
---|---|---|
食品廃棄物から食品への アップサイクル |
食品宅配サービス | 白海老の殻を使ったチップス、ブロッコリーの茎や大根の皮を使ったチップス、バナナの皮入りジャムなどを製造 |
カフェの運営企業 | フードロスとなってしまったパンからクラフトビールを製造 | |
酒類製造企業 | 日本酒づくりの際に出る酒かすからクラフトジンを製造 | |
食品廃棄物から非食品への アップサイクル |
菓子メーカー | カカオ豆の外皮から染料を抽出して染めた絹糸を使用したネクタイを製造販売 |
アパレルメーカー | パイナップルの葉を原料に作られたヴィーガンレザーを使った各種製品を販売 |
2)ICTやAIを利用した食品廃棄物の削減
「気象データ×出荷量・販売量データ」を、AIなど最新技術を用いて解析することで需要を予測し、欠品と廃棄のバランスを考慮して推奨発注量を提供するなどして、フードロスを減らす試みが効果をあげています。
・イオンアグリ創造さまと大阪ガスとの収穫量予測に関する実証実験
大阪ガスが開発した、日射量・CO₂濃度・湿度等から光合成量を算出する「光合成モデル」と、光合成量・樹齢等から収穫量を予測する「AIモデル」を組み合わせた農作物の収穫量予測により、農作物などの収穫量を予測し、出荷量を想定します。両社は2021年から研究を開始し、2023年実証実験を開始しています。これにより各種の農作物出荷量の最適化や流通の安定性、フードロスの削減や効率的な作業人員の配置を実現します。
・大手回転寿司企業
レーンを流れるすべてのすし皿にICタグをつけ、売上状況のデータを蓄積するとともに、店舗の込み具合や個々の利用客の滞在時間などを加味することで、1分後と15分後の需要を予測して、鮮度管理を行い、廃棄量を減らしています。
3)社会課題解決にフードロスを活用
食品ロス削減推進法改正でも強化される「フードバンク」へのフードロスの寄付を通じて、こども食堂、福祉施設、生活困窮者への食品の支援などを行うことができます。農水省では、食品事業者と団体のマッチングや効率的な配送システムに関する情報提供やサポートを行っています。
4)商習慣の見直しでフードロスを削減
・「3分の1ルール」の見直し
「食品ロス削減推進法」の改定でも検討されている商習慣「3分の1ルール」がフードロスを生む原因となっているとして、飲料や賞味期間180日以上の菓子については「2分の1ルール」を適用するなど、すでに納品期限の緩和が実施されています。
・賞味期限の表示変更
すでに納品されている商品より賞味期限が古いものを新たに納品できないことを防ぐため、大手メーカーなどで、賞味期限の長い加工食品について、「年月日」表示から、日付を表記しない「年月」表示に切り替える動きが広まっています。
5)フードロスになりそうな食品を流通させる仕組み
フードロスになりそうな食品を割引価格で消費者に提供するサービスが国内外で広がっています。
エリア | サービス | 仕組み |
---|---|---|
日本 | フードシェアリングプラットフォーム | フードロスを削減したいメーカーや生産者から協賛価格で提供を受けた商品を割引価格で消費者に販売し、その売り上げの一部を社会貢献活動団体へと寄付するショッピングサイト。 |
フードシェアリングアプリ | ホテルや飲食店、スーパーなどでフードロスになりそうな食べ物をユーザーとマッチングするアプリ。クリスマスケーキなど催事商品のレスキューにも活用。 | |
海外 | フードロス専門食品スーパー(デンマーク) | 賞味期限近くの商品など廃棄予定の商品を販売、利益はすべて世界の飢餓対策を行うNGOに寄付。 |
フードシェアリングアプリ(欧州、アメリカなど) | 飲食店やスーパーで売れ残りそうな商品をお得な価格で予約販売するアプリ。 |
食品廃棄物を減らすだけでなく、再生可能エネルギーを創出する資源として活用している事例もあります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年~2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。
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