コラム

2026.04.22

電力を「使う側」から「調整する側」へ〜GX時代に再定義されるデマンドレスポンス(DR)〜

電力を「使う側」から「調整する側」へ〜GX時代に再定義されるデマンドレスポンス(DR)〜

これまでデマンドレスポンス(以下DR)は、電力ひっ迫時に自主的に需要を抑制するなど、「電力を使う」局面における取り組みが中心でした。しかし、再生可能エネルギーの拡大に加え、GX関連制度の本格運用の強化を背景に、企業には単なる省エネにとどまらず、市場参加者としてDRを通じて電力を「調整する」役割が求められるようになっています。つまり、DRは企業が自主的に電力使用を抑える取り組みから、電力制度の中に役割として組み込まれ、対価や評価が伴う仕組みへと進化してきたと言えます。本コラムではこういった変化を背景にしたDRの新たな役割、またそれに伴う新しい潮流について解説します。

1. デマンドレスポンス(DR)とは

デマンドレスポンス(DR)とは、電力の供給状況や価格シグナルに応じて、企業が電力需要を意図的に調整する仕組みです。具体的には、電力需要が逼迫する時間帯に使用量を一時的に抑制したり、稼働時間を別の時間帯へシフトしたりすることで、需給バランスの安定化に貢献します。
例えば、生産ラインの稼働時間をピーク時間帯から夜間や余剰電力の多い時間帯に移行することや、生産に直接影響しない空調や照明の出力を制御する、さらに蓄電池や自家発電設備を活用して系統からの電力使用を抑えるといった取り組みなどが挙げられます。
なお、2023年に施行された改正省エネ法でも大規模需要家に対してDRの取り組みが求められています。

2. DRを取り巻く環境の変化

(1)再エネ主力電源化の進展による需給変動の拡大

太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、天候によって出力が変動します。このため、需給の安定化には発電側の調整だけでなく、需要側が時間や使用量を柔軟に調整するDRの重要性が高まっています。
DRは、需給逼迫時に需要を抑制する「下げDR」に加え、再エネ余剰時に需要を創出する「上げDR」も含め、再エネ大量導入時代における不可欠な手段となりつつあります。

(2)電力需要の負荷平準化

気候変動の進行に伴い、夏季の暑さは年々厳しさを増しており、冷房需要の増加によって電力需要のピークが顕著になっています。一方で、電力需要のピーク時間帯は、年間でみるとほんのわずかな時間であり、このピーク需要を満たせるように発電設備は維持されています。このピーク需要を抑制することができれば、燃料費が高い電源の追加稼働(焚き増し)が回避でき、結果として効率的で経済的なエネルギー利用につながります。

(3)容量市場への組み込み

容量市場とは将来の電力需要に対して、十分な供給力(kW)を確保するための仕組みです。そのため、「発電した実績(電力量価値)」ではなく、「必要なときに供給できる能力(容量価値)」に対して対価が支払われます。

容量市場では、火力発電や蓄電池だけでなく、DRも供給力の一部として参加できます。
ここでのDRは、「電力が逼迫した時に、あらかじめ定めた量の需要を確実に削減できる能力」(下げDR)を指します。DRは電力消費を抑制することで需給を支える“ネガワット電源”として位置づけられ、発電設備と同様に供給力として入札・評価対象になります。

(4)需給調整市場へのDR参加拡大

需給調整市場におけるDRの価値は、容量市場のような「将来の供給力(kW価値)」ではなく、 実際にどれだけ正確かつ迅速に需給バランス調整に貢献できるか、という点で評価されます。また、需給調整市場では容量市場と異なり、「下げDR」(需要抑制:需給ひっ迫時の調整)と「上げDR」(需要創出:再エネ余剰時の吸収)の双方に価値が認められています。

発電と異なり、DRは「削減した電力量」を直接測れないため、ベースライン(何も対策を行わなかった場合の需要)との差分によって価値が算定されます。また、その価値は、どの時間軸でどれだけ精度高く応答できるかによって決まります。

なお、需給調整市場でのDR上限価格は2026年3月から、従来の「19.51円/ΔkW・30分」から「15円/ΔkW・30分」へと引き下げられるなど制度の見直しが進められています。

容量市場と需給調整市場におけるDRの価値の違い

項目 容量市場 需給調整市場
制度目的 将来の供給力確保(kW確保) 実需給のバランス調整(リアルタイム運用)
DRの位置づけ 発電と同等の「供給力」 系統運用に貢献する「調整力」
対象となるDR 下げDR(需要抑制)のみ 下げDR+上げDRの両方
評価の時間軸 将来(数年先)の供給力 当日〜リアルタイムの応答
収益の発生タイミング 事前の容量確保契約に基づく固定収入 発動時の実績に応じた変動収入
評価指標 提供可能な最大削減量(kW) 応答速度・追従率・実績量(kW+kWh)
信頼性評価 長期的な供給力の確実性 指令に対する即応性・精度
ペナルティ 未達時にペナルティあり 応答遅延・未達でペナルティ
技術要件 確実に削減できる負荷の確保 高度な制御・データ連携
企業にとっての意味 安定収益源(ストック型) 運用力に応じた収益機会(フロー型)

(5)GX政策おけるDRの役割の拡大

GX戦略は、単なる再生可能エネルギーの導入拡大にとどまらず、需給調整の柔軟性の確保、電力市場の効率化、さらには投資主導型の市場形成を重要な方向性として掲げています。こうした中で、DRの価値は一層高まっています。
2026年以降、企業は電力市場価格(需給に応じて変動)に加え、炭素価格(GX-ETSや将来の炭素賦課金)を意識する必要があります。DRはこの二つを同時にコントロールできる数少ない手段でもあります。
例えば、電力価格が高く、かつ排出係数も高い時間帯需要を抑制し、再エネの供給が多く排出係数の低い時間帯に操業をシフトすることで、電力コストと炭素コストの双方を最適化することが可能になります。
つまりDRは、排出量そのものを減らすだけでなく、炭素価格リスクを含めたエネルギーコスト全体を調整する戦略的な手段として位置づけられるようになっています。

3. DRの再定義〜企業にとってDRの意味はどう変わったか〜

①コスト削減策から「収益・評価の対象」へ

これまでDRは、電力料金の抑制やピークカットによるコスト削減策として位置づけられてきました。しかし現在では、電力市場に供出可能な「調整力」として制度上明確に位置づけられ、その意味合いは大きく変化しています。
企業が持つ「どの時間帯に、どれだけ電力使用量を増減できるか」という柔軟性そのものが、市場価値を持つようになり、DRは単なるコスト抑制手段ではなく、収益機会を生む経営資源へと変化しています。

②非常時対応から「平時の経営戦略」へ

従来DRは需給ひっ迫時や災害時に電力使用を抑える非常時対応策として捉えられてきました。しかし、制度化が進んだことで、DRは平時から設計・運用すべき経営戦略の一部へと位置づけが変わっています。設備運用や生産計画の段階から電力の使い方を最適化し、市場価値を生み出す前提でDRを組み込むことが求められています。

③「束ねる力」による価値の最大化

DRは、個々の企業や工場が単独で実施するだけでは大きな調整力としての価値を発揮しにくい側面があります。そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、分散するエネルギーリソースを連携させ、一つの大きな調整力として活用する仕組みが必要不可欠です。

代表的な仕組みとして、以下が挙げられます。

VPP(仮想発電所 / Virtual Power Plant):分散するエネルギーリソースを、エネルギーマネジメント技術を用いて遠隔から統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みです。小さな調整力を束ねることで、電力市場で取引可能なレベルの大きな調整力を創出することが可能です。

アグリゲーター(Aggregator):多数の需要家と契約を結び、それぞれが保有するエネルギーリソースを束ねてVPPを構築し、その調整力を電力市場や電力会社に提供する事業者です。需要家と電力市場の間に立ち複雑な取引やリソース制御を担うことで、専門知識を持たない企業でもDRに参加し、収益化できる環境を提供します。

4. 重要度の高まる「上げDR」

再生可能エネルギーの拡大に伴い、「電力の余剰」と、それに伴う「出力抑制」という問題が顕在化しています。出力抑制は、需要を上回る発電が生じた際に電力システムの安定を維持するために行われる措置ですが、本来活用できる電力が使われないという非効率を生みます。
実際に、出力抑制は2021年度までは九州電力管内が中心でしたが、2022年度には全国6エリアに拡大し、2024年には年間約16億kWh (資源エネルギー庁)に達するなど、再エネ電力のロスが急速に拡大しています。

(参照)
再生可能エネルギー出力制御の短期見通し等について(資源エネルギー庁)

この課題を解決する手段として注目されているのが「上げDR」です。再生可能エネルギーの発電量が需要を上回る時間帯に、あえて電力消費を増やすことで余剰電力を吸収し、出力抑制の回避につなげる取り組みです。

需要抑制によって価値を生み出す「下げDR」が「ネガワット」と呼ばれるのに対し、上げDRは「ポジワット」と表現されます。例えば、ある工場が余剰電力の発生している時間帯に1,000kWの上げDRを実施した場合、1,000kW分の出力抑制を回避したとみなされ、その価値は「1,000ポジワット」として評価・取引の対象となります。

上げDRは、再エネを無駄なく活用しながら電力システム全体の効率性を高める手段として、今後その重要性が一層高まると考えられます。


需要の創出による再生可能エネルギーの導入拡大(太陽光発電の例)

需要の創出による再生可能エネルギーの導入拡大(太陽光発電の例)

(参照)
VPP・DRの意義(資源エネルギー庁)

5. DR活用の具体例

下げDR事例

冷蔵倉庫の電力制御

物流・冷蔵倉庫において、冷蔵温度設定の最適化や不要照明のオフなどにより負荷制御を行い、需給ひっ迫時の電力使用量を削減します。
たとえば、Daigasエナジーと前川製作所は、冷凍機と、遠隔AI エネルギーマネジメントシステム「Energy Brain」を連携させ、自動でDR制御を行っています。

(参照)
高効率自然冷媒冷凍機と遠隔AIエネルギーマネジメントシステムを連携、冷凍冷蔵倉庫における自動デマンドレスポンスを実証(株式会社 前川製作所)

工場・製造現場でのDR活用

工場では、生産スケジュールの前倒し・後ろ倒し、機械やポンプの稼働抑制、高負荷機器(空調など)の設定見直しにより、ピーク時間帯の電力需要を抑制します。

導入事例:既設設備を活用してデマンドレスポンスサービス D-Responseに参加
コストメリットを生みながら電力系統安定化に貢献

商業ビルでのDR活用

オフィスビルや商業施設、ホテルなどでは、省エネやコスト削減、サステナビリティ対応を背景に、DRの導入が世界的に進んでいます。
国内でも、BEMS(ビル・エネルギー管理システム)(※)を導入したスマートビルではDRの実施が容易になっています。電力供給が逼迫または余剰となる時間帯には、BEMSに対してDR要請が通知され、各ビルのエネルギー使用状況に応じて最適な削減量が自動的に配分されます。環境省によれば、BEMSの普及率は2013年の8%から2025年には37%へと拡大しています。

※ BEMS(ベムス):Building Energy Management System(ビル・エネルギー管理システム)

アグリゲーターの活用

2024年夏の猛暑時には需給がひっ迫し、複数日にわたりDRが発動されました。その結果、容量市場を通じて需要家側で約7GWの電力使用が削減されています。
アグリゲーターが運用するVPPでは、参加需要家に対して電力使用抑制や自家発電の活用を促す信号が送られ、複数の需要家が同時に対応することで、大規模な調整力が実現されています。

(参照)
需給ひっ迫により、容量市場でのデマンドレスポンスで過去最大の供出(エネルエックス・ジャパン株式会社)


上げDR事例

東京製鐵・九州工場

九州では太陽光発電の増加により、春や秋の昼間を中心に電力の余剰が頻発していました。この状況に対し、東京製鐵・九州工場は、従来は夜間に行っていた電炉操業を昼間にも拡大することで上げDRを実施しています。
2018年以降、累計で約1,800万kWhの需要を創出し、同社は安価な電力を活用した増産が可能となる一方、電力会社は出力抑制を回避できるという相互メリットを実現しています。

(参照)
国内最大・6.4MWの自家消費太陽光、東京製鐵の脱炭素戦略(日経BP)
東京製鐵の環境への取り組み 実施成果(東京製鐵)

カゴメ

カゴメ茨城工場では、氷蓄熱式冷却水製造装置(アイスビルダー)を活用し、電力需要の時間シフトを実施しています。従来は夜間に蓄熱していた運用を見直し、稼働時間を柔軟化することで、電力使用量の約12%を日中へ移行し、需要を創出しています。また、富士見工場では大型の蓄電池を導入し、太陽光発電の余剰電力を吸収しています。
これらは、電気エネルギーを熱や蓄電として活用する上げDRの代表例です。

(参照)
太陽光発電で作られた電気の社会全体での利用拡大を目指して「上げ Demand Response」(上げ DR)の開始〜太陽光エネルギー由来の電力需給の安定化への貢献〜(カゴメ)
野菜飲料を製造する富士見工場における蓄電池システムの運用開始〜既存太陽光発電設備の最大稼働と太陽光パネルの新規増設を実現〜(カゴメ)

6. まとめ

これまでDRは、ピークカットや電気料金削減、非常時対応といった「守り」の施策として位置づけられてきました。しかし、GX関連制度の進展により、DRは「市場に供出できる調整力」「収益を生む機能」「企業価値に影響する非財務資産」として、「攻め」の施策へと再定義されつつあります。特に、容量市場や需給調整市場では、「設備を持っているか」よりも「需給状況に応じて柔軟に制御できるか」が問われ、DRへの対応力、柔軟性そのものが企業の競争力になると言えます。また、再生可能エネルギーの拡大に伴い、電力を「減らす力」だけでなく、「余剰電力を柔軟に活用する力」の重要性も高まっています。DRは、脱炭素を進める上でも、エネルギーコストの削減という意味でも、今後さらに企業経営における重要性を増していくと考えられます。

箕輪 弥生(みのわ やよい)
このコラムの著者

箕輪 弥生(みのわ やよい)

環境ライター・ジャーナリスト
NPO法人「そらべあ基金」理事

環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年〜2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。

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