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2024.12.23

2024年度中に策定されるエネルギー基本計画とカーボンニュートラルの実現

2024年度中に策定されるエネルギー基本計画とカーボンニュートラルの実現

1. 炭酸ガス排出削減は喫緊の課題

 地球温暖化はないと主張し、気候変動に関する国際的な枠組みパリ協定からの再離脱を表明しているトランプ米国大統領の誕生にもかかわらず、世界各国において、2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を実現する長期的な流れに変化はない。2024年の夏も世界各国に猛暑が来襲し、2024年における世界の平均気温は欧州のコペルニクス気候変動サービスによると過去最高に達し、18世紀後半の産業革命期からの気温上昇を1.5度以内とするパリ協定の目標を超えた1.55度の上昇となっており、炭酸ガス排出削減は、喫緊の課題となっている。日本も2050年にカーボンニュートラル実現、2030年度に2013年度比46%削減を公約している。脱炭素実現に向けて日本としてのエネルギー需要の見通し、それぞれのエネルギー源の比率、エネルギー政策のあり方について、3年ごとに見直しを行っており、2024年度中に新たな第7次エネルギー基本計画が策定される。前回の第6次エネルギー基本計画は、2021年度に策定され、再生可能エネルギーを主力電源として最大限の導入に取り組むと同時に、天然ガス火力発電をはじめとした火力発電についても、重要な電源として適切なポートフォリオを実現するとしている(図表1)。

(図表1)第6次エネルギー基本計画の概要
エネルギー基本計画2021年10月22日

エネルギー源 概要
原子力 国民の懸念の解消、安全優先の再稼働
原子力 安全を最優先し、人材・知見の集約、技術力維持向上
原子力 従来の電源構成の20%~22%を維持
石炭火力 非効率な石炭火力発電のフェードアウト
石炭火力 脱炭素型のアンモニアの混焼
天然ガス火力 適切な火力のポートフォリオを維持
石油火力 ピーク電源として一定の機能
LPガス火力 ミドル電源として活用可能
一般水力 ベース・ロード電源
再生可能エネルギー 主力電源化を徹底
再生可能エネルギー 最優先の原則のもと最大限の導入に取り組む
水素・アンモニア 新たな資源として位置づけ、社会実装を加速
水素・アンモニア 天然ガス火力の30%水素混焼、石炭火力への20%アンモニア混焼

出所:資源エネルギー庁資料

2. 意欲的な目標を求められる第7次エネルギー基本計画

 これまでの第6次エネルギー基本計画においては、2030年度の電源構成の目標を、再生可能エネルギーを36%~38%、原子力発電を20%~22%、天然ガス火力発電を20%、石炭火力発電を19%、石油火力発電を2%、水素・アンモニア火力発電を1%としていた。しかし、現実には2023年度においても発電量の7割近くを火力発電に依存している(図表2)。

(図表2)日本の電源構成2023年度(%)
発電電力量9,854億キロワット時METI統計

(図表2)日本の電源構成2023年度(%)発電電力量9,854億キロワット時METI統計

出所:資源エネルギー庁統計

 特に、炭酸ガス排出量が多い石炭火力発電に代わるものとして、天然ガス火力発電は発電量の3割以上を占める最大の電源となっている。
 国連の専門機関IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球の気温上昇が産業革命期から1.5度以上上昇すると、人類を含む生態系に甚大な気候変動による被害が生じるとして、気温上昇を1.5度以内に抑えるために、世界全体の温室効果ガス排出量を2019年比2035年に60%削減し、2050年には100%削減することが必要であるとしている。こうした理由から、日本政府も、国連の目標を達成するために、2013年度比2030年度に46%、2035年度に60%削減することを検討している(図表3)。

(図表3)日本の温室効果ガス排出削減目標(%)
2013年度比

(図表3)日本の温室効果ガス排出削減目標(%)2013年度比

出所:経済産業省、環境省案

 こうした意欲的な目標を達成するために、パリ協定にもとづき、締約国は2025年2月までに新たな2035年までの目標を国連に提出することが義務付けられている。日本も、新たな第7次エネルギー基本計画においては、2013年度比60%の温室効果ガス排出削減を前提として、実現可能性、経済成長との両立をはかりつつ、エネルギー需要、エネルギー源別の構成比を決定する極めて重要な計画策定を行う必要がある。

3. 数々の難問が待ち構えるエネルギー基本計画の策定

 脱炭素の実現に向けて、日本としてのエネルギー基本計画を立案するといっても、ことはそう簡単な話ではない。第1にパリ協定を離脱する構えを見せるトランプ政権の誕生により、パリ協定の枠組みが実質的に形骸化する可能性が考えられる。米国は、世界第2位の炭酸ガス排出国となっている(図表4)。

(図表4)国別炭酸ガス排出割合(%)
2023年世界合計351,29億トン

(図表4)国別炭酸ガス排出割合(%)2023年世界合計351,29億トン

出所:世界エネルギー統計レビュー2024年

 少なくともトランプ政権の4年間は、世界的に脱炭素への機運が低下する。その中で、日本として、どのように意欲的な脱炭素への取り組みを続けられるのかが問われる。第2に国際的な取り決めは2019年を基準年としているのに対して、日本のエネルギー基本計画は2013年度を基準年としている。日本は2013年度から2019年度にかけて温室効果ガスの排出量を14%も削減している。それに加えて、60%の削減を目指すことは、乾いたタオルを絞るという、極めて達成が難しい目標となる。第3に2021年のエネルギー基本計画は、2030年度の電力需要が減少するという前提により組み立てられていた。従来は、日本の場合、人口減少、日本企業の工場の海外展開、省エネルギー等により、2030年度の電力需要は減少すると見込まれていた。つまり分母を減らして、分子に当たる脱炭素に寄与する再生可能エネルギーの割合をかさ上げするという工夫をしていた。しかし、AI(人工知能)の驚異的な発達、大量のデータ・センターの建設により電力需要は増加するという見通しに大きく変貌した。生成AIによる半導体は、通常の検索を目的とした半導体の10倍に達する電力を消費する。日本においては、千葉県の印西市にデータ・センターが集積し、九州、北海道にも半導体工場が建設されている。そのため、電力企業は大型変電所を新設する。世界的にも、途上国をはじめとして、エアコン等の家電製品が普及し、電気自動車の販売も増加し、人口も増加する。21世紀は、環境の世紀とともに電力の世紀とも呼ばれ、そのため、IEA(国際エネルギー機関)の見通しによれば、世界の発電量見通しは、2022年の29兆キロワット時から、2030年に35兆キロワット時に増加する(図表5)。さらに、2050年には50兆キロワット時を超える。

(図表5)世界の発電量見通し(単位:テラワット時)IEA2023年10月公表政策シナリオ

2010年 2021年 2022年 2030年 2040年 2050年
石炭 8,669 10,247 10,427 8,333 6,145 4,949
天然ガス 4,847 6,526 6,500 6,611 6,067 6,150
石油 963 683 709 462 356 274
原子力 2,756 2,810 2,682 3,351 3,886 4,353
水力 3,456 4,299 4,378 4,981 5,554 6,531
太陽光 32 1,023 1,291 5,405 11,961 17,220
風力 342 1,865 2,125 5,229 9,275 11,801
再生可能エネルギー小計 4,209 7,964 8,599 16,915 28,721 37,973
アンモニア・水素 0 0 0 22 82 91
合計 21,533 28,346 29,033 35,802 45,418 53,985

出所:IEA世界エネルギー見通し2023年10月

 日本の発電量も1兆キロワット時を割り込んでいたものが、再び1兆キロワット時を超える状況となる。分母の電力需要が大きくなると、分子にあたる再生可能エネルギーの発電量も引き上げなければならない。しかし、近年は中心となって増加していた太陽光発電をはじめとして、陸上風力発電等も、国土の狭い日本においては適地が少なくなり、伸び率が鈍化している(図表6)。

(図表6)日本の太陽光発電伸び率(%)

(図表6)日本の太陽光発電伸び率(%)

出所:資源エネルギー庁統計

4. 第7次エネルギー基本計画に向けてのあらゆるエネルギーの総動員

 これまでのエネルギー基本計画は、炭酸ガス排出削減の数値目標という結果から逆算して、必ずしも現実的とはいえない、再生可能エネルギー、原子力発電の割合を掲げていた面が強い。第6次エネルギー基本計画をみても、2030年度の再生可能エネルギーの36%~38%目標も、2023年度時点において22.9%にとどまり、現状の太陽光発電、風力発電の伸び率の鈍化を考えると、目標達成は難しい。地熱発電も、日本は世界第3位の地熱資源を誇っているものの、地質構造調査の難航、地元の温泉事業者との交渉等に時間がかかり、この数年は小幅の伸びにとどまっている。原子力発電も20%~22%の目標を設定しているものの、2023年度時点において8.5%しかなく、2割の目標達成のためには27基の原子力発電が稼働している必要があるのに対して、現状は13基の稼働にとどまり、今後の安全審査、地元の同意の必要性を考えると、2030年度の27基稼働は事実上難しい。さらに、2030年度から5年後に60%の炭酸ガス排出削減目標を達成するとなると、現状の考え方の延長線では、再生可能エネルギーが40%以上、原子力発電が30%と、かなり現実的ではない目標となる。それに加えて、上述のように、電力需要が減少し、分母が小さくなるという前提から、電力需要が増加し、分母が大きくなるというパラダイムの変化により、再生可能エネルギー、原子力発電の発電量をさらに引き上げる必要があり、さらに目標実現が難しくなる。
 そこで、2035年度に60%削減、2050年にカーボンニュートラル実現のためには、あらゆるエネルギーと知恵を総動員することが求められる。第1に事実上実現が難しい再生可能エネルギーの比率を引き上げて、火力発電の割合を引き下げるのではなく、石炭火力発電から天然ガス火力発電への切り替えをさらに促進し、現実的に炭酸ガス排出量を徐々に削減していく。それだけでも炭酸ガス排出削減に寄与する。その場合に、火力発電にCCS(炭酸ガス回収・地下貯留)技術を組み合わせて、炭酸ガス排出削減対策を講じた火力発電を活かしていく。
 第2に電力の時代といわれても、最終エネルギー消費に占める電力消費の割合という電力化率は、日本の場合で4割、世界全体においても3割程度であり、6割から7割のエネルギーは、工業用の熱エネルギー、航空機等の輸送用エネルギーであり、電気だけでは、すべての分野の解決は難しい。そのため、環境に優しい天然ガスをまず利用し、さらには燃焼しても炭酸ガスを排出しないアンモニア、水素の利用拡大も視野に入れる必要がある。これまでも、電源構成において2030年度に1%のアンモニア、水素の利用が目標とされており、すでに石炭火力発電へのアンモニアの混焼の実証が始まっている。水素を燃料とした航空機の開発、船舶用のアンモニア・エンジンの研究も行われている。さらに、従来の石炭を蒸し焼きにしたコークスと鉄鉱石を反応させる製鉄法の方式から、水素を還元剤として利用する水素還元製鉄への技術革新も求められる。日本製鉄等は、2050年の水素還元製鉄の実現を目指している。
 第3に天然ガスそのものを、再生可能エネルギーによるグリーン水素と炭酸ガスを反応させてつくりだす、メタネーションの技術も重要となってくる。大阪ガスも大阪・関西万博において、水素と生ゴミのバイオガスを反応させて、メタンをつくりだすメタネーションにより、厨房等に合成メタンを供給する。原理的には、再生可能エネルギーの電力により水を電気分解して水素をつくり、炭酸ガスと反応させて合成メタン(e-メタン)を経済的に生成できれば、天然ガス火力発電の燃料、都市ガスの原料、工業用の熱源、直接還元鉄等の分野において、脱炭素を実現できる。e-メタンは通常の天然ガスと成分が同じであり、従来のLNGの液化・輸送・貯蔵の設備、都市ガスの導管をはじめとした供給インフラストラクチャー、消費者のガス器具、バーナーを改良することなくそのまま利用して、脱炭素を実現することができる。日本ガス協会は、e-メタンを2030年に1%、2050年に90%、従来の天然ガスに置き換える目標を掲げている。
 第4に適地が限られ、設備建設への環境規制があり、伸び率が鈍化する再生可能エネルギーについては、①塗る太陽電池とされるペロブスカイトの技術開発が求められる。ペロブスカイトとは、薄く、折り曲げられる太陽電池であり、広い土地を必要とせず、ビルの壁面、窓ガラスに設置することが可能であるため、太陽光発電の設置場所が一挙に拡大することが期待される。2023年12月末における太陽光発電の導入量は7,300万キロワット、発電量は9.8%であるものの、政府は2040年度に2,000万キロワットのペロブスカイトを導入する目標をたてている。②日本は国土が狭いものの、四方を海に囲まれ、447万平方キロメートルに達する世界第6位のEEZ(排他的経済水域)を誇っている。この広大な海域に洋上風力発電を設置すれば、陸上のような景観破壊、騒音等の問題を解決することができる。日本は、遠浅の海域が少なく、基礎を海底に固定する着床式の洋上風力発電のみならず、基礎を海底に固定しない浮体式の洋上風力発電の技術開発も行われている。政府も、洋上風力発電に力を入れており、2030年に1,000万キロワット、2040年に4,500万キロワットの導入目標を掲げ、洋上風力発電を促進する海域を設定し、数回にわたる公募入札を実施している。
 脱炭素への道のりは長く、単純に再生可能エネルギーの比率を4割以上に引き上げて、石油・天然ガスをはじめとした化石燃料の比率を引き下げれば問題は解決するといったものではない。天然ガスの利用拡大、LNG(液化天然ガス)の安定調達をはじめとした現在ある確実な技術による炭酸ガス排出削減と、アンモニア、水素の利用、メタネーションの技術開発、台風にも耐えられる浮体式洋上風力発電の開発等、今後の進歩が期待される技術を巧みに組み合わせながら、着実な2050年カーボンニュートラルの実現が求められる。

岩間 剛一 Kouichi Iwama
岩間 剛一Kouichi Iwama
和光大学経済経営学部教授(資源エネルギー論、マクロ経済学、ミクロ経済学)
東京大学工学部非常勤講師(金融工学、資源開発プロジェクト・ファイナンス論)
三菱UFJリサーチ・コンサルティング客員主任研究員
石油技術協会資源経済委員会委員長
【略歴】
1981年東京大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、東京銀行本店営業第2部部長代理(エネルギー融資、経済産業省担当)、東京三菱銀行本店産業調査部部長代理(エネルギー調査担当)
出向:石油公団企画調査部:現在は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト)
出向:日本格付研究所(チーフ・アナリスト:ソブリン、資源エネルギー担当)
2003年から現職

ENERGY BUSINESS PRESSのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。(2017年2月より掲載しています)

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