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2023.12.25

脱炭素エネルギーとしてのバイオマスへの更なる期待

脱炭素エネルギーとしてのバイオマスへの更なる期待

1. 脱炭素におけるバイオマスの意味

 2023年の夏は、世界的にも観測史上もっとも気温が高く、地球温暖化対策としての脱炭素は待ったなしの状況にある。炭酸ガスの排出削減の方法として期待されているもののひとつがバイオマスエネルギーである。バイオマスとは、エネルギーの面から見れば、エネルギーとして利用できる生物の量であり、植物体、農産廃棄物、林産廃棄物、畜産廃棄物、産業廃棄物、都市廃棄物等の幅広い資源が対象となる(図表1)。

(図表1)バイオマス資源の分類例

森林資源 天然林、人工林
栽培植物 サトウキビ、石油植物(アオサンゴ)、油脂植物(アブラヤシ)、藻
産業廃棄物 製紙廃液、建設廃棄物
農産廃棄物 わら
林産廃棄物 製材廃棄物
都市ゴミ 都市廃棄物、食品廃棄物、畜産廃棄物、下水処理

出所:各種新聞報道

 バイオマスは、文字通り生物体であり、育成時に炭酸ガスを光合成により吸収することから、燃焼して炭酸ガスを排出しても、ライフサイクルで見て、大気中の炭酸ガス濃度を上昇させないカーボンニュートラル(炭素中立的)なエネルギーとなる。再生可能エネルギーの一つとして見た場合のバイオマスのメリットとしては、①生物体の資源の総量は莫大である。世界の森林面積は陸地面積の3割に達し、植林可能な未利用耕作地の森林資源だけでも、人類の1年間のエネルギー消費量に相当する。②産業廃棄物、食品廃棄物等を含めて、資源が広く分布し、偏在していない。すぐ手元のところにもバイオマスは存在する。③太陽光発電、風力発電が、季節、天候、時間等により出力変動するのに対して、木質チップ、木質ペレット、パームヤシ殻(PKS)を燃料とするバイオマス発電の場合には、24時間エネルギーを安定的に取り出せるベース・ロード電源となる。④トウモロコシ、サトウキビ等からバイオガソリン、菜種油、パーム油等からバイオディーゼルを作り出した場合には、従来の自動車、トラック、航空機を、改良することなくそのまま利用して、炭酸ガス排出削減を実現できる。等が挙げられる。

2. 多様なバイオマスの利用法

 バイオマスは、生物体を起源とし、育成時に炭酸ガスを吸収することから、生物資源の多様な利用法が開発されている。
 第1に木質チップ、木質ペレット、パームヤシ殻(PKS)、パーム油等を、石炭火力発電に混焼させて、炭酸ガスの排出量を削減したり、木質チップだけを燃料として発電するバイオマス専焼発電が挙げられる。上述のように、木質チップを燃焼させて炭酸ガスを排出するとしても、木が育つときに炭酸ガスを吸収しているので、炭素中立的で、炭酸ガス濃度を上昇させない。こうしたバイオマス発電は、つくられた電力を政策的に高値で買い取る固定価格買取制度の対象となっており、2021年度の日本における発電電力量1兆327億キロワット時の3.2%に相当する332億キロワット時を占めるまでに成長している。バイオマス発電は、買取価格が優遇されているうえに、木質チップ、木質ペレット等の調達が容易であるならば、新規参入しやすく、再生可能エネルギーとしては、太陽光発電、風力発電に次ぐ導入量となっている(図表2)。

(図表2)日本の再生可能エネルギー導入・認定量(単位:万キロワット)

種類
固定価格
買取制度前
運転開始済み
2022年3月末
設備認定量
2022年3月末
住宅太陽光発電 470 853.4 889.6
非住宅太陽光発電 90 5,200.2 6,816.0
風力 260 226.8 1,320.4
マイクロ水力 960 82.5 241.5
バイオマス 230 332.7 829.8
地熱 50 9.3 21.6
合計 2,060 6,704.8 10,118.8

出所:資源エネルギー庁統計

 世界的にも、石炭火力発電の炭酸ガス排出削減策として、石炭に木質チップを混ぜたり、木質ペレットだけを燃焼させるバイオマス発電は期待をかけられており、今後もバイオマス発電の伸びが見込まれている(図表3)。

(図表3)世界のバイオマス発電能力見通し(単位:百万キロワット)

(図表3)世界のバイオマス発電能力見通し(単位:百万キロワット)

出所:国際エネルギー機関(IEA)「世界エネルギー見通し2023」

 ただし、課題としては、木質チップ、パームヤシ殻等を海外輸入に依存し、日本のエネルギー自給率の向上につながらないことと、海外におけるバイオマス発電の普及との競合関係にあり、木質チップの争奪戦により価格が高騰し、発電コストが上昇することが挙げられる。特に、最近の円安によって、海外の木質チップ、パームヤシ殻等の円建て価格が上昇していることも、バイオマス発電のコストを押し上げている。
 第2にサトウキビ、トウモロコシ等からバイオエタノールを生産し、バイオガソリンとして利用することが挙げられる。既に、地球環境に優しいガソリンとして、米国のトウモロコシ、ブラジルのサトウキビを原料としたバイオガソリンは普及しており、農家保護、余剰農産物対策としても、米国においては、バイオガソリン用のトウモロコシを、飼料用と比較して高値で買い取っている。米国の農家は、積極的にバイオガソリン用のトウモロコシを栽培している。また、欧州諸国においては菜種油からバイオディーゼルを生産し、トラック等の運行にあたり、炭酸ガス排出削減に寄与している。こうしたバイオガソリン、バイオディーゼルのメリットは、通常の乗用車、トラック、バス等を特別に改良することなく、そのまま利用することによって、炭酸ガス排出削減ができることである。他方、トウモロコシ、小麦等は人間の食料や家畜の飼料としても重要であり、食料とエネルギー利用がバッティングし、穀物価格の高騰が、貧しい国々の国民生活に打撃を与えるという懸念が挙げられる。
 第3に廃食用油、小麦等からジェット燃料をつくりだし、航空機の運行の脱炭素化をはかるSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)としての利用が近年注目されている。ICAO(国際民間航空機関)は、2050年までに国際線の炭酸ガス排出量を実質ゼロとする目標を掲げている。調理等で利用された天ぷら油、小麦、藻、間伐材等からジェット燃料をつくりだすと、石油から生産されるジェット燃料と比較して、炭酸ガス排出量を8割程度削減できる。SAFは、現時点において、もっとも有力な航空機の脱炭素の方法として、日本企業もSAF事業への取り組みを始めている(図表4)。

(図表4)日本企業のSAF事業の動き

企業名 概要
日揮 三菱地所と東京駅周辺の廃食油を回収
日揮 コスモ石油と2024年度にSAFを年間3万kl生産
JAL、ANA フィンランドのネステと調達契約
JAL シェルからSAFを2025年度から調達
三井物産、コスモ石油 バイオエタノールを輸入し、2027年度までに国内生産
出光興産 2027年度に千葉事業所でSAF生産、年間30万klを目標
東芝 低い反応温度によるSAF生産を2026年度に実用化
IHI 藻からSAFを生産、2021年にANAが試験飛行
ユーグレナ 廃食油と微細藻類からSAFを生産

出所:各種新聞報道

 第4に生ゴミ、未利用森林資源、農業残渣等を原料として、バイオガスを生産し、再生可能エネルギーによる電力によって水を電気分解して水素をつくりだし、CO₂と反応させて、都市ガスの原料となるメタンCH₄を生成するメタネーションという合成メタン(e-メタン)を生産する技術も注目されている。都市で生じる生ゴミ、農業残渣等は、食料とバッティングすることはなく、穀物価格の高騰も招かない。本来捨てられるだけの廃棄物を有用な都市ガスの原料、天然ガス火力発電の燃料として利用し、炭酸ガス排出削減に貢献できる。水素と炭酸ガスを反応させてメタンをつくりだすメタネーションのプロセスは、微生物によるメタネーションのバイオメタネーションと、サバティエ反応によるメタネーションの触媒によるメタネーションがある。サバティエ反応は

CO₂+4H₂→CH₄(メタン)+2H₂O

という化学式で示され、炭酸ガスと水素を高温高圧で反応させ、ニッケル、ルテニウム等を触媒として、メタンと水を生成する。こうして生産されたメタンは、通常の都市ガス原料のメタンと変わることはなく、従来の都市ガス導管、ガス機器を利用することが可能であり、社会的なインフラストラクチャー投資コストを抑制して、脱炭素を実現できる。
 バイオガスは、都市の生ゴミ、下水汚泥、森林の間伐材等からつくりだすことができ、通常は60%が都市ガスの原料となるメタンであり、40%が炭酸ガスから構成されている。この40%の炭酸ガスを再生可能エネルギーの電力による水素と反応させるメタネーションにより、メタンの生産量を増加させる。理論的には、メタネーションの技術を用いて、炭酸ガスと水素を反応させて、炭素と水素の化合物CmHnである多様な石油製品も生産が可能である。

3. 大阪・関西万博も脱炭素を世界にアピールする機会に

 2021年夏に開催された東京オリンピックにおいては、オリンピック会場において炭酸ガスを排出しない水素で動く燃料電池バスが運行され、脱炭素社会を世界にアピールする場となった。2025年に開催される大阪・関西万博においても、燃料電池バス、燃料電池船の利用等が計画されており、大阪シティバス(大阪市)は燃料電池車(FCV)の運行を、岩谷産業は、中之島ゲートから大阪・関西万博の会場となる夢洲をつなぐ航路で水素燃料電池船の旅客運航を行う計画がある。大阪ガスも、万博会場において、太陽光発電、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーによる電力によって水を電気分解してつくりだす水素と、会場内において生じる生ゴミ由来のバイオガスからメタンを生産し、万博会場内の熱供給設備、都市ガスによる調理のエネルギーとして利用する。万博会場という、エネルギーを必要とする場所でエネルギーをつくりだす、エネルギーの地産地消と脱炭素を同時達成することを計画している。さらに、万博期間中は、大気中の炭酸ガスを直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術を利用し、回収した炭酸ガスを原料としたメタネーションを行う。DACは、大気中の0.04%程度という薄い濃度の炭酸ガスを、アミン溶液等により吸収したり、膜により分離することにより、直接回収し、地下に貯留して閉じ込め、さらには水素と反応させてメタンを生産する技術といえる。カーボンニュートラルのように、これ以上炭酸ガス排出を増やすことなく、現在の炭酸ガス濃度を維持するのみならず、さらに踏み込んで大気中の炭酸ガス濃度そのものを引き下げるカーボンネガティブを目指すものであり、欧米諸国においても実証プロジェクトが建設されている。この技術が経済的に成功し、現在420ppmという炭酸ガス濃度を18世紀後半の産業革命前の280ppmまで引き下げることができれば、人類の気候変動問題は解決への糸口が見えてくる。

4. 現実味をもった脱炭素エネルギーとしてのバイオマス

 バイオマスは、生ゴミ、廃天ぷら油、下水汚泥をはじめとした都市廃棄物、間伐材、未利用農作物等の農林廃棄物等、資源が豊富にあり、さらにバイオマス資源は普遍的に存在する。しかもカーボンニュートラルという特性をもっており、この利用技術を進化させれば、人類の経済活動による炭酸ガス排出削減に大きく貢献する。ただし、現時点ではもともとの生物体から有用なSAF、合成メタン(e-メタン)を生成するための触媒技術、微生物等の発酵技術が開発途上にあり、生産コストが割高という課題もある。今後は、都市廃棄物、農産廃棄物等の安定的かつ経済的な回収と、安価な触媒、反応プロセスの開発に期待がもたれる。
 バイオマスによりつくりだされるエネルギーは、通常の火力発電所、ジェット機、自動車、都市ガスの貯蔵施設・パイプライン・ガス器具をそのまま利用でき、社会的な負担を最小化できる。こうした意味から、現実味をもった脱炭素エネルギーとしてバイオマスは大きな期待がかけられている。

岩間 剛一 Kouichi Iwama
岩間 剛一Kouichi Iwama
和光大学経済経営学部教授(資源エネルギー論、マクロ経済学、ミクロ経済学)
東京大学工学部非常勤講師(金融工学、資源開発プロジェクト・ファイナンス論)
三菱UFJリサーチ・コンサルティング客員主任研究員
石油技術協会資源経済委員会委員長
【略歴】
1981年東京大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、東京銀行本店営業第2部部長代理(エネルギー融資、経済産業省担当)、東京三菱銀行本店産業調査部部長代理(エネルギー調査担当)
出向:石油公団企画調査部:現在は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト)
出向:日本格付研究所(チーフ・アナリスト:ソブリン、資源エネルギー担当)
2003年から現職

ENERGY BUSINESS PRESSのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。(2017年2月より掲載しています)

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