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地球沸騰化が止まらない!気候変動対策にビジネスチャンスを探る

2024.12.18

地球沸騰化が止まらない!
気候変動対策にビジネスチャンスを探る

連日のように国内外で「観測史上初」、「過去に経験したことがない」極端な気象現象が報告され、地球が悲鳴をあげています。国連総長はこれを「地球沸騰の時代」と表現しています。地球環境システムが限界点を迎えるのも間近と予想される今、私たちは何ができるのでしょうか。地球沸騰化の現状やその影響、国際的な取り組みなどを再確認し、気候変動に対して、マイナスをプラスに変えるビジネスを探ってみましょう。

1. 地球沸騰化とは

(1)地球沸騰化とは

「地球沸騰化」(global boiling)とは、地球温暖化が進行し、気候変動による影響が危機的な状況であることを伝えるために、国連のグテーレス事務総長が2023年7月の記者会見で表現した言葉です。この時期、世界では各地域で40℃を超え、山火事なども相次ぎ、平均気温も観測史上最高を記録する見通しになりました。

グテーレス事務総長は、7月の会見で以下のように地球沸騰化の理由を述べています。
「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来しました。すべての主要指標で、警鐘が鳴っています。昨年には、記録的な暑さ、海面水位、海面水温が観測されました。氷河の融解は、過去最大だったと見られます。いくつかの指標では、単に記録が塗り替えられただけでなく、桁違いです。しかも、その変化が加速しています。」

Climate Stripes「気候ストライプ」1863年以降の東京の気温の変化
その年の年間平均気温が平年より低ければ青色、平年より高ければ赤色で表現している。

Climate Stripes「気候ストライプ」1863年以降の東京の気温の変化

©Ed Hawkins at the University of Reading

(2)地球沸騰化の現状

●世界の気温「2024年世界の気温上昇 ついに1.5℃超えに」

  • ・世界気象機関(WMO)は、2023年の世界平均気温は1850~1900年と比較して、約1.4度上昇し、観測史上もっとも高かったと発表しました。
  • ・EUの気象機関コペルニクス気候変動サービスは、2024年の世界の平均気温は産業革命前に比べて初めて1.5℃を上回ったと発表。「2024年は少なくとも12万年以上の歴史上、最も暑い年になり、私たちは未知の領域に入った」と表現しています。
  • ・世界が最も暑くなった日のトップ10が過去10年に集中しています。

●日本の気温「日本も2023年、2024年は観測史上最も暑い年に」

  • ・日本も、2023年、2024年の平均気温は、地球沸騰化の言葉通り、観測史上最も暑い年になりました。また、日本近海の海水温も2023年は最高値を更新しました。
  • ・2023年7月下旬から8月上旬、2024年7月の日本の記録的な高温や豪雨に対して、イベントアトリビューション(※)により、地球温暖化の影響がなければ起こりえなかったと文部科学省は結論づけています。
    ※イベントアトリビューション:豪雨、猛暑などの極端現象の発生に対して、地球温暖化がどの程度影響を与えていたかをスーパーコンピューターを使って統計的に分析する手法

日本の年平均気温偏差

日本の年平均気温偏差

出典:気象庁

・大阪、東京共に、1年の約4分の1が真夏日(日最高気温30℃以上の日)に、熱帯夜(日最低気温が25℃以上の日数)の日数もここ10年で顕著に増加しています。

真夏日 熱帯夜
2023年 2024年 2023年 2024年
大阪 92日 95日 54日 59日
東京 90日 82日 57日 47日
出典:気象庁

気候変動が限界を超えるのはいつ?

気候システムがある限界点に達し、後戻りできない不可逆的な変化が起こり始める状況をティッピングポイントと言います。地球の気温上昇が産業革命以前と比べて1.5℃または2℃を超えると、地球の生態系や人間社会に回復困難な影響が及ぶと科学者は警告しています。

引き金となる現象として、グリーンランドと南極の氷床や永久凍土の融解、熱帯のサンゴ礁の死滅、アマゾン熱帯雨林の破壊、海洋の流れである大西洋南北熱塩循環(AMOC)の停止があげられています。今のままだとまもなくティッピングポイントを迎えるのではないかという研究結果が報告されています。

(3)地球沸騰化の原因

●基本的な地球温暖化の原因

太陽から地球に降り注ぐ光が地面を暖め、その地表から放射される熱を温室効果ガスが吸収し大気を暖めています。しかし産業活動が活発になり、CO₂、メタンなどの温室効果ガスが大量に排出されて大気中の濃度が高まることによって、まさに温室のように熱がこもり、地球の気温が上昇していています。

温室効果ガスの多くを占めるCO₂の濃度は、産業革命前1750年の280ppmから2023年には420ppmを記録し、1.5倍に増加しています。

●2023年、2024年の日本の高温(地球沸騰化)の原因

2023年、2024年の日本の猛暑や豪雨の原因は、地球温暖化に加えて、偏西風の蛇行、エルニーニョ現象、太平洋高気圧の強まり、など、さまざまな要因が重なったことが考えられます。

偏西風は、北極と中緯度地域の温度差が縮小すると、ジェット気流が弱まり、蛇行しやすくなります。この蛇行により、太平洋高気圧が日本周辺に長期間とどまるブロッキング現象がおこり、長期間高温が続きました。

また、太平洋赤道域の東側(南米沿岸)で海水温が平年より異常に高くなるエルニーニョ現象により、空気中に多くの水蒸気を供給し、上昇気流を作り出すことで、豪雨、線状降水帯などの異常気象も起こりやすくなりました。

2. 地球沸騰化の影響

(1)地球への影響

●異常気象の増加

地球温暖化が進むと、異常気象の頻度や強さが増えることが予想されています。異常気象の例としては、熱波、大雨、干ばつ、海面上昇、台風の巨大化などがあり、温暖化が進むほどにその頻度が増えると分析されています。このほか海洋の酸性化、サンゴの白化など海洋への影響も深刻です。

(2)野生生物、農作物への影響

地球温暖化は、気候変動を起こすため生物、農作物、自然環境にも多大な影響があります。

●野生生物への影響

国際自然保護連合(IUCN)によると地球温暖化によって、鳥類の35%、両生類の52%、サンゴの71%、計7000種以上の生物が、生息地を失うなどの悪影響を受け、絶滅の危機に瀕していると報告しています。

世界自然保護基金(WWF)は過去50年で世界の生物多様性が平均73%減少したと報告しました。

地球温暖化が、絶滅機器の要因の一つとなっている絶滅機器種の種数

地球温暖化が、絶滅機器の要因の一つとなっている絶滅機器種の種数

出典:WWF「生きている地球レポート」2024

●2050年コーヒーが飲めなくなる?

地球温暖化による気候変動の影響で、コーヒーの栽培に適した土地が2050年までに半減する可能性がある(※)と分析されています。さらに気温上昇により、コーヒーの木への病害虫の増加も懸念されています。

※国際調査機関ワールド・コーヒー・リサーチ

●お寿司のネタの8割が消える?

海水温の上昇や海水の酸性化などにより2070年にはおなじみの寿司ネタの8割が消滅する(※)のではと危惧されています。たとえば、海水温の上昇により回遊ルートが変わり日本近海ではサケ(イクラ)、サバ、イカなどの漁獲量が激減しています。さらに、ヒラメ、あわび、ウニ、ホタテ、かに、シャコなども大きな影響を受けるとされています。

※東京大学大気海洋研究所ヒアリングによるNHK報道

日本近海の100年あたりの海面水温の上昇

日本近海の100年あたりの海面水温の上昇

出典:気象庁

(3)人体への影響

気候変動に伴う健康被害や、気候難民が数多く発生する可能性も指摘されています。

WHO(世界保健機関)は、世界で36億人が気候変動の影響を受けやすい地域に住み、2030-2050年の間に、気候変動関連死(気候変動に伴う栄養失調、マラリア、下痢、熱中症等)により死亡者が約25万人に上る試算を報告しています。

日本でも猛暑により熱中症が急増しています。厚生労働省によると、2023年は熱中症による死者は1,651人にのぼり、2023年、2024年はともに9万人以上の人が救急搬送されました。

3. 世界的な気候変動対策の必要性

(1)世界平均気温

●世界の平均気温の変化

2011~2020年の世界平均気温は、1850~1900年よりも1.09度前後上昇しました。IPCC第6次報告書では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と初めて断定しています。

観測された地球の平均気温の変化(1850-1900年との比較)

観測された地球の平均気温の変化(1850-1900年との比較)

出典:IPCC6次報告書

(2)気候変動対策のための国際的な取り組み

●パリ協定-平均気温を+1.5℃までに抑える

地球温暖化に歯止めをかけるための国際的な枠組みとして、2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されました。2024年現在では190か国以上が参加しています。

気候変動による深刻な影響を避けるために、産業革命前と比べて地球の気温上昇を1.5℃未満に抑えることを目指しています。この目標を達成するためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする(カーボンニュートラル)が掲げられています。

●IPCCと日本政府の温室効果ガス削減目標

パリ協定のもとで、各国はそれぞれの国別削減目標(NDC: Nationally Determined Contributions)を設定し、5年ごとに更新することを義務づけられています。しかし、現状の排出削減ペースは目標に追いついていないため、各国の更なる野心的なNDCの提出が2025年2月までに求められています。

真夏日 熱帯夜
IPCC1.5℃目標 政府指針 世界全体目標から日本が
果たす1.5℃目標整合
2030年削減
(2019年比)
43% 35%
(2013年比46%)
59%
(2013年比66%)
2035年削減
(2019年比)
60% 2025年2月までに提出 73%
2050年削減
(2019年比)
84% 100% 97%
出典:IPCC、環境省、New climate Institute

4. 気候変動対策としての緩和と適応

気候変動対策には、大きく分けて温室効果ガスの排出量を削減する(または植林などによって吸収量を増加させる)「緩和」と、気候変化に対して自然生態系や社会・経済システムを調整することにより気候変動の悪影響を減らす「適応」の二つの施策があります。

(1)事業活動における緩和策(国内)

地球沸騰化の原因となっている温室効果ガスの8割を占めるエネルギーについて、再生可能エネルギーへの転換、エネルギー効率の向上、水素の活用などを推進するとともに、CO₂の回収、カーボンプライシング(※)などが世界各国で検討されています。事業活動においても、それぞれの企業においてカーボンニュートラルへの試みが活発化しています。
※カーボンプライシング:企業などの排出するCO₂に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法

(2)事業活動における適応策(国内)

気候変動は、原材料の収量や品質の低下、設備の維持管理にかかるコストの増加、自然災害を想定したBCP(事業継続計画)対応、市場ニーズの変化、労働環境の変化などの形で、既に企業の事業活動に様々な影響をもたらしています。

一方で、気候変動を事業の持続的発展のための新たなチャンスととらえ、戦略的に気候変動適応に取組む企業もあります。
気候変動の影響をいち早くとらえ、将来的な予測を行い、適応策を講じると共に、気候変動問題への適応ビジネスが自社のシーズにないか、また開発できないか考えることも重要です。

気候変動による企業の事業活動への影響

気候変動による企業の事業活動への影響

出典:環境省

<企業による気候リスク適応策の事例>
業種 適応策例
食品メーカー 気候変動に適応した品種への転換と新品種の開発
産地の分散化、保存に適した品種の開発など
生産者の労働負荷を軽減する栽培・収穫サポートの推進
住宅メーカー 熱中症による従業員や協力会社の作業員の健康を確保するため、日射を避ける休憩場所の設置や水分等の常備。環境センサーによって熱中症リスクを把握し、警告や注意喚起を行う
コーヒー関連企業 世界各地から選抜されたコーヒーの優良品種を各国の生産地で栽培試験し、気候変動や病害虫への耐性をもちながら、豊かな味わいも兼ね備えた最適品種を発掘する
<企業による適応ビジネスの例>
業種 適応する気候変動 適応策例
石けん製造企業 森林火災 東南アジアの泥炭地向けの石けん系消火剤の研究開発・実証事業を実施。森林火災で生じる泥炭からの煙害の減少や、消火による森林保護により、動植物の生息域の保全等に貢献
住宅メーカー 豪雨や洪水 世界初となる水害に耐える住まい「耐水害住宅」を開発
化学製品メーカー 蚊が媒体する感染症の増加 工場の虫除けの網戸として使われていた技術を活用してマラリア防除用蚊帳を開発
ガラスメーカー 干ばつ・水不足 イオン交換膜と電気の働きで、イオン性物質を分離し、脱塩することにより、生活用途に適した安心な農業用水や飲料水を提供
気候情報提供企業 北極海の海氷の減少 独自衛星をベンチャー企業と共同で開発・打ち上げ、北極圏の海氷を常時観測し、北極海の航路支援サービスを提供する 

まとめ

「地球沸騰化」と言われるように、気候変動は科学者らの予測より早く進み、加速化しています。日本はもともと自然災害の多い国ですが、それに加えて気候変動による豪雨や巨大台風、高温などの異常気象による被害が加わり、日常化する傾向にあります。こうした災害に備えると共に、事業活動での取り組みを緩和と適応の両方で考えてみることが重要です。

箕輪 弥生(みのわ やよい) 箕輪 弥生(みのわ やよい)
環境ライター・ジャーナリスト
NPO法人「そらべあ基金」理事

環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年~2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。

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