コラム

2026.08.19

石油化学製品不足に対するナフサ(粗製ガソリン)の安定供給の今後

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油化学製品不足に対するナフサ(粗製ガソリン)の安定供給の今後

1. 石油化学とナフサとの関係

2026年春のホルムズ海峡封鎖により、インク、シンナーをはじめとした石油化学製品の不足のニュースを耳にして、初めてナフサ(粗製ガソリン)という言葉を知った読者も多いだろう。もともとの油田から生産される原油(Crude Oil)とは、黒くドロドロとした液体で、これ自体は揮発性も爆発性もほとんどない。この原油を常圧蒸留装置(トッパー)で加熱して蒸留すると、沸点の低い(軽い)順にガソリン、ナフサ、ジェット燃料、灯油、軽油、重油という順番で石油製品が生まれてくる(図表1)。

(図表1)常圧蒸留装置の石油製品蒸留温度

温度 石油製品
35度〜180度 LPガス、ガソリン、ナフサ
170度〜250度 ジェット燃料、灯油
240度〜350度 軽油、A重油
350度〜 BC重油

出所:各種新聞報道

こうして蒸留された石油製品の割合を製品得率とよび、日本の製油所から生産される製品得率は以下のとおりとなっている(図表2)。

(図表2)石油精製による製品得率(%)

石油精製による製品得率(%)資源エネルギー庁統計2024年度

出所:資源エネルギー庁統計2024年度

原油といっても生産地域により、軽い製品が多く生産できる米国のシェール・オイルのような軽質原油や、重い製品が多く生産される中東の重質原油等、様々な原油がある。原油が軽質か重質かで生産される石油製品の割合が決まるが、日本国内で消費される製品ごとの割合は、輸入する原油の性質に関係なく決まっている。1970年代の2度にわたる石油ショック以降、ガソリンのような軽い石油製品の需要が増加し、発電用の重油のような重い製品の需要は減少している。そのため、日本の石油会社は二次装置で重い重油を軽いガソリンに改質し、ガソリンの得率を上げ、重油の得率を下げる努力をしてきた。しかし、石油製品は連産品といって、ガソリンやナフサだけを生産することはできず、必ず軽油や重油等の中間製品、重い石油製品も連鎖的にできるという特性がある。

そのうち、二番目に軽い石油製品、ナフサ(粗製ガソリン)が、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によって話題となっている石油化学製品の主要原料である。1859年に世界最初の商業油田ドレーク油田が米国で開発され石油産業が生まれた当時は、ランプの灯油利用が中心であり、ガソリンとナフサは爆発性があって取り扱いに困る厄介者だった。しかしその後、1886年のガソリン・エンジンの発明と石油化学産業の発展により、軽く揮発性のあるガソリンとナフサは、現代文明に不可欠なエネルギーとなった。現在は、このナフサと高温の水蒸気を反応させ、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の基礎化学品が生産される。スーパーのレジ袋から、使い捨て医療器具、塗料、接着剤、衣料品の繊維、家電製品と自動車内装の合成樹脂まで、私たちの身の回りにあるモノのほとんどはこれら石油化学製品から作られているといって間違いない。

だからといって、石油化学の原料としてナフサだけが必要なわけではない。日本の場合はナフサを分解するナフサ・クラッカーが中心だが、米国は天然ガス成分のエタンを原料とするエタン・クラッカーが中心である。米国は2010年頃からのシェール・ガス革命により天然ガス生産量が増加し、世界最大の生産国となっている(図表3)。米国はこの安価かつ大量の天然ガスを原料に、安価なエチレンを生産し、レジ袋のポリエチレンや建築資材の塩化ビニール等を作っている。

(図表3)米国の天然ガス生産量推移(単位:10億立方メートル)

米国の天然ガス生産量推移(単位:10億立方メートル)

出所:世界エネルギー統計レビュー2026年6月

他方、中国の場合は国内の石炭生産が世界最大であり、豊富な石炭をもとに石炭化学が発展し、エチレン、プロピレン等を生産している。中国は、インド、インドネシア、豪州等の有力石炭生産国を抑えて、世界最大の石炭生産国となっている(図表4)。

(図表4)国別石炭生産量(単位:石油換算百万トン)
2025年世界生産量4,317百万トン石油換算新BP統計

国別石炭生産量(単位:石油換算百万トン) 2025年世界生産量4,317百万トン石油換算新BP統計

出所:世界エネルギー統計レビュー2026年6月

このため、割高な原油を原料とするナフサによる日本の石油化学と比較して、米国、中国の化学産業は割安な原料を用いており、日本ほどホルムズ海峡封鎖のダメージを受けないという特徴をもっている。

2. ナフサの重要性とナフサ危機の理由

米国は天然ガス、中国は石炭という炭化水素を豊富にもっており、その資源的優位性を生かして化学産業を発展させている。それに対して資源に乏しい日本は中東の原油を輸入し、ナフサ原料の石油化学を発展させた。もともと石油は天然ガスや石炭に比べて単位熱量当たりの価格が割高なため、原料をナフサ以外にすべきとの議論もある。事実、シェール・ガス革命時、日本の化学企業は米国の安価なエチレン生産に市場を席捲されると危惧したが、これは杞憂に終わった。その理由は石油化学の基礎化学品エチレンの生産技術にある。エタン・クラッカーは炭素が2のエタンからエチレンを生産得率7割程度と効率よく生産できるが、炭素数が多いプロピレンやブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を大量生産するにはナフサ・クラッカーが有利である。技術的に炭素数を増やすよりも減らす方が簡単だからだ。ナフサ・クラッカーはエチレン得率が2〜3割程度だが、芳香族を1割程度と幅広い基礎化学品を生産できる。そのため、タイヤ原料のブタジエンやナイロン原料のベンゼン、塗料原料のトルエン等はナフサ原料の方が得率が高く、高付加価値製品の生産にはナフサに優位性がある。そこでナフサ危機として問題となるのは、日本の石油化学産業が主に中東からナフサを輸入している点にある(図表5)。

日本は石油化学原料となるナフサの6割を輸入し、4割を国内の原油精製から調達している。輸入分の7割はUAE、クウェート、カタール、サウジアラビアというホルムズ海峡を通航する中東産油国に依存している。そのため、2026年3月のホルムズ海峡封鎖によりナフサの供給不安が発生し、塗料やインク等の供給網が混乱し、ポテトチップの包装材インクが白黒となったり、建設工事が遅延するなどの事態となった。

(図表5)日本の国別ナフサ輸入割合(%)2024年輸入量20,560千キロリットル

日本の国別ナフサ輸入割合(%)2024年輸入量20,560千キロリットル

出所:資源エネルギー庁統計

封鎖が懸念されていたならば中東から輸入しなければよいと思われるかもしれないが、理由は3つある。第1に石油製品は連産品であり、原油からナフサだけを作れない。日本に254日分の石油備蓄があっても、ナフサ生産のために不要な重油まで生産されれば石油会社は取り扱いに困る。第2に、1970年代の石油ショック時は原油輸出のみだった中東産油国が、産業高度化により製油所建設を積極化し、現在は付加価値の高いナフサ輸出に注力している。彼らには豊富な埋蔵量と生産コストの安さという利点がある。第3にナフサはガソリンと同じく揮発性があり長期保存が難しく、原油と異なり法的な備蓄制度がないためである。

3. 複雑な石油化学製品の供給網(サプライチェーン)

原油を精製してナフサをつくり多様な化学製品を作るサプライチェーンは、ガソリンを消費者に販売するのとは大きく異なる。ガソリンがおおざっぱにいえば単一商品であるのに対し、ナフサからは多様な基礎化学品が生産され、そこからスーパーのレジ袋、家電の合成樹脂、タイヤのゴム、接着剤、塗料など数千種類もの化学製品がつくられる。これらは川上部門、中間部門、川下部門の多くの製造企業があり、中間にも多数の問屋が存在する。その複雑な生産プロセスにおいて、どこか1ヵ所が供給懸念や価格高騰への備えから買いだめを行うと、一部製品に供給不安が発生する。しかも口紅や塗料のように、複数素材を混ぜて作る製品は一つの部材が不足するだけで完成しない。こうしたことが重なり、ナフサの供給懸念が起因となり最終製品の供給プロセス全体が不安定となる。この生産プロセスは以下のように複雑である(図表6)。

(図表6)複雑な生産プロセス

複雑な生産プロセス

出所:石油化学工業協会資料

4. 重要なナフサの安定調達に向けて

このように複雑な生産プロセスのもと、私たちの身の回りのあらゆる部分が石油化学製品からできている。1973年の石油ショック以降、発電や都市ガス、熱エネルギー分野ではLNGや石炭等に代替する脱石油政策が行われてきた。しかし世界全体では、自動車の増加や技術革新により石油の重要性はむしろ高まっている。昔はガラス製だったメガネがプラスチックレンズになったり、医療器具も使い捨てのプラスチック製が中心となっている。世界の石油消費量は、輸送用燃料や石油化学原料として2050年に向けて増加が見込まれている(図表7)。

(図表7)世界の石油需要見通し(単位:日量100万バレル)
IEA2025年11月12日現状政策シナリオ

世界の石油需要見通し(単位:日量100万バレル) IEA2025年11月12日現状政策シナリオ

出所:IEA(国際エネルギー機関)世界エネルギー見通し

これまで日本は国内精製のナフサだけでは足りなかった。脱石油政策で重油需要が減少し原油輸入が減る一方、ガソリンやナフサ需要は増加し、石油製品が連産品である以上、必要なナフサを中東からの輸入に依存してきた。そのためホルムズ海峡の封鎖により原油とナフサの輸入が大幅に減少した(図表8)。ホルムズ海峡からの航海日数は約21日で、2026年5月以降に輸入減少が本格化した。

(図表8)日本のエネルギー輸入量2026年5月

輸入量 前年同月比(%)
原油輸入量(千kl) 4,727 -57.3
揮発油輸入量(千kl) 1,825 -13.7
液化天然ガス(千トン) 3,960 -15.1
石炭(千トン) 11,541 11.8

出所:財務省貿易統計

ナフサ輸入減少を受け、石油化学企業はナフサ在庫を取り崩した。ナフサ・クラッカーは完全に止めると再稼働に時間がかかるため稼働率を下げて操業を続けている。エチレン・プラントの稼働率は2026年5月に68.1%、6月に66.5%と好不況の目安の90%を大幅に下回り、エチレン生産量は減少している。政府・企業ともにホルムズ海峡以外のナフサ調達に全力を挙げ、同海峡を通過しない中東からの輸入や、米国、アルジェリア、中南米からの輸入を急増させ、2026年度中の代替調達のメドは立ちつつある。

今後の見通しとしては、第1に2026年7月に入り米国とイランが再び戦闘を始め、ホルムズ海峡再封鎖の危機感が高まっている。7月17日時点で原油価格は1バレル90ドルに迫り、ナフサのスポット価格も上昇している。しかし、日本はエチレン換算で年間600万トンの製品を生産し、うち400万トンを国内消費、200万トンを輸出していたため(図表9)、輸入ナフサが3割程度減少しても国内消費には対応できる。

(図表9)日本のエチレン換算輸出入バランス(単位:千トン)

日本のエチレン換算輸出入バランス(単位:千トン)

出所:石油化学工業協会統計

第2に政府がナフサの備蓄・支援制度の検討を行う。ナフサもかつては備蓄制度があったが、石油ショックが忘れられた1993年に備蓄義務対象外となっていた。今回の封鎖により、戦略物資として再評価されている。
しかし、代替調達のメドが立ったからと安心はできない。第1に中東以外からの調達は航海日数が長く割高となり、製品価格の上昇につながる。第2に日本が資金力にモノをいわせて買い集めると、アジアの貧しい国が必要な製品を手に入れられなくなる。アジアのリーダーとして日本だけが安定調達できれば良いわけではない。脱炭素の流れにあっても、石油化学製品は不可欠である。ホルムズ海峡の完全開放に向けて、石油輸入国の一員として中東産油国との友好関係強化を含めた世界全体のナフサ安定供給に目配りする必要がある。

岩間 剛一(いわま こういち)
このコラムの著者

岩間 剛一(いわま こういち)

和光大学経済経営学部教授(資源エネルギー論、マクロ経済学、ミクロ経済学)
東京大学工学部非常勤講師(金融工学、資源開発プロジェクト・ファイナンス論)
三菱UFJリサーチ・コンサルティング客員主任研究員
石油技術協会資源経済委員会委員長

【略歴】
1981年東京大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、東京銀行本店営業第2部部長代理(エネルギー融資、経済産業省担当)、東京三菱銀行本店産業調査部部長代理(エネルギー調査担当)
出向:石油公団企画調査部:現在は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト)
出向:日本格付研究所(チーフ・アナリスト:ソブリン、資源エネルギー担当)
2003年から現職

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