コラム

2026.07.01

米国とイランの停戦合意と今後のホルムズ海峡開放の見通し

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米国とイランの停戦合意と今後のホルムズ海峡開放の見通し

1. やっと40回目の合意成立

2026年2月28日の米国とイスラエルによるイランへの空爆に端を発したホルムズ海峡の事実上の封鎖は、2026年4月の停戦に向けての協議が長引いた。トランプ米国大統領が、合意は近いとのコメントをSNSに出しては、ダウ平均株価が上昇し、再攻撃するといっては株価が下落することを続けて、100日以上が経過した。しかし、2026年6月14日に、トランプ大統領は40回目の合意間近の表明後、ようやく米国のトランプ大統領とイランのペゼシュキアン大統領の間に「一応」の合意が成立し、2026年6月17日に電子署名を行った。「一応」の合意と表現したのは、正式にはイランによる核開発等を含めて、60日間の協議において、両国の考えの溝を解決したうえで、正式な戦闘終結となるからである。両国から発表された覚書の内容は、ホルムズ海峡は60日間無料通航できることとし、30日以内にホルムズ海峡の機雷を取り除き、米国はイランへの海上封鎖を30日以内に解除する、等の内容であり、国際エネルギー市場、日本への石油の安定供給を震撼させたホルムズ海峡の封鎖が解除されることとなった。覚書の概要は以下の通りである(図表1)。

(図表1)米国とイランの覚書の概要 2026年6月17日署名

概要
レバノンを含む全戦域で軍事作戦を即時・恒久的に終結
双方の主権と領土保全を尊重
最終合意に向けた交渉を60日間実施
米国は海上封鎖の解除を始める
イランは商船の無料・安全航行を60日間保証
イランは30日以内に機雷を除去
米国と地域のパートナー国は3,000億ドルのイラン復興計画
イランは核兵器を開発しない
イランは濃縮ウランを国内で希釈
米国はイランの石油輸出を容認
米国はイランの凍結資産の利用を全面解除
最終合意は国連安全保障理事会で承認

出所:各種新聞報道

世界の石油情勢を揺るがしたホルムズ海峡封鎖が、当面解除されたことは、極めて喜ばしいことである。既に、ペルシャ湾内にあった石油タンカー、LNG(液化天然ガス)輸送船の数隻は、ホルムズ海峡を通航している。しかし、覚書の内容はイランの全面的な勝利といえ、ガソリン価格の高騰を理由とした2026年11月3日の中間選挙への負のインパクトを懸念するトランプ大統領の苦渋の妥協といえる。

2. 停戦合意に至った背景

米国とイスラエルによる奇襲攻撃に始まった戦闘は、報復としてのイランによる石油輸送要衝のホルムズ海峡における事実上の封鎖に発展し、100日以上が経過した。筆者は、ホルムズ海峡封鎖後の見通しとして、3つのシナリオを挙げていたが、③のハイ・ケース・シナリオとしての、イランの体制崩壊を目指した地上戦は、泥沼化し、米軍に多数の死傷者がでることから、米国国内世論の反発を招き、米国はイランの体制破壊政策を放棄した。当初は、イスラエルの提案により、ベネズエラの成功例から、ハメネイ師の殺害により、イラン国内の親米政権樹立の期待もあったが、その目論見ははずれ、むしろ米国に敵対するイランの国内勢力がより強固なものとなった。そのため、②のミドル・ケース・シナリオの、米国とイランが散発的な攻撃と応酬を続け、原油価格は1バレル80ドルから1バレル100ドルを乱高下する状況が続いた。しかし、本音をいえば、米国は戦争目的がはっきりしなくなった戦闘をだらだらと続けて、高額なミサイルを多用し、巨額の戦費を浪費し、ガソリン価格は1ガロン5ドルを超え、米国国民に厭戦気分が強まるなか、中間選挙を控えて、戦闘を早期に終結したいと考えていた。イランも、予想以上にホルムズ海峡封鎖の効果があがり、米国との交渉を有利に進められるうちに合意を成立させれば、イランの石油を自由に輸出でき、石油収入を取り戻せると考えていた。イランの核開発の完全排除、イランの体制崩壊を目指したイスラエルを除けば、米国とイランの利害は一致した。イランは、この数年、原油生産量を増加させ、中国、インド等への石油輸出を増加させている(図表2)。

(図表2)イランの原油生産量推移(単位:千バレル/日)

イランの原油生産量推移(単位:千バレル/日)

出所:世界エネルギー統計レビュー2025年6月

3. 不透明な60日間の交渉

米国とイランの停戦合意を受けて、2026年6月19日時点において、ダウ平均株価は51,000ドル超と史上最高値を更新し、日経平均株価も71,000円を超え、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油価格も1バレル77.54ドルと、株価は高騰し、原油価格は下落して、金融市場、商品市場は絶好調となっている。しかし、市場はかなり楽観をし過ぎており、米国とイランの交渉は難航が予想される。すでに、2026年6月20日時点において、イスラエルがレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラへの軍事攻撃を続け、イランはホルムズ海峡の再封鎖を表明している。そもそも、イランの核開発計画の完全排除、濃縮ウランの海外における廃棄、イランの弾道ミサイル排除は、米国の当初の目的であり、こうした交渉上の難題を60日間の交渉に先送りして、停戦合意を優先させた。ここには、解決しなければならない難問が数多くある。
第1にホルムズ海峡の完全開放といっても、米国は無料・安全通航を主張しているものの、イランはオマーンとの共同管理によるサービス料を表明しており、米国とイランの協議は難航する。実際にホルムズ海峡には機雷が残っており、民間の石油タンカーは、安全に通航できない。機雷の除去には1ヵ月から2ヵ月は必要となる。また、イランの体制が残っている以上、ホルムズ海峡は再び封鎖される可能性がある。石油タンカーにおける保険料の値上がりの問題もある。現時点において中東の石油供給が全面回復したわけではない。第2にイランによる核開発計画の完全放棄、濃縮ウランの国外における廃棄が、米国の戦闘目的であったものの、覚書にも明記されておらず、具体的な交渉では紆余曲折が予想される。イランは、あくまでに核の平和利用を主張するものと思われる。第3にイランに対する最低3,000億ドル(約48兆円)もの復興・発展支援は、米国の保守強硬派の反発を招き、トランプ大統領も交渉に苦慮するものと考えられる。第4に覚書の内容では、イスラエルの目指した目的は何一つ達成できておらず、イスラエルの国内世論は、強硬論に傾き、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラへの攻撃、イランの軍事施設への攻撃を続ける可能性があり、交渉の撹乱要因となる。トランプ大統領は、米国保守派とイスラエルのネタニヤフ首相の説得に注力する必要がある。第5にホルムズ海峡の通航が自由になったとしても、イランのドローン等の攻撃により、サウジアラビア、クウェート、UAE等の油田、石油精製設備が損傷を受けており、完全な復旧には半年以上の時間がかかる。クウェートの国営石油企業も、生産量が回復するまで3ヵ月以上必要となると表明している。カタールのLNG液化プラントも17%の生産能力が損害を受け、修復には3年以上かかるとされている。中東湾岸産油国の原油、石油製品、LNGの輸出が100%回復するには2026年秋以降を待たなければならない。

4. 原油価格・LNG価格の今後の見通し

ホルムズ海峡の開放への一歩が踏み出されたことにより、筆者の①ロー・ケース・シナリオが現実味を帯びることとなり、原油価格は1バレル60ドルから1バレル80ドルに下落する。米国のトランプ大統領、イランのペゼシュキアン大統領ともに、戦争に勝利したと喧伝し、お互いの顔が立つ方向となった。極東LNGスポット(随時契約)価格も、百万Btu(ブリティッシュ熱量単位)当たり10ドル程度に収まる可能性もでている。既に、北海ブレント原油価格、WTI原油価格、中東ドバイ原油価格は、1バレル80ドルを割り込んでいる。原油価格、LNG価格の下落は、電気料金、都市ガス料金の値下げにとって朗報となる。しかし、上述にように、イスラエルという撹乱要因が存在する。イスラエルが米国の静止を振り切ってイランと、イランの支援組織への攻撃を続けると、イランは再びホルムズ海峡を封鎖する。実際に、イスラエルの保守強硬派は、「イスラエルには自国を守るために報復する権利がある」と主張している。米国とイランとの交渉途上においても、交渉が決裂し、イランが再びホルムズ海峡の事実上の封鎖を行った場合には、原油価格は1バレル100ドルに近づく可能性がある。これまでも、イランとの交渉が頓挫し、トランプ大統領が、イランへの再攻撃を表明するたびに原油価格は乱高下している(図表3)。

(図表3)主要原油価格推移(単位:ドル/バレル)

主要原油価格推移(単位:ドル/バレル)

出所:NYMEX(ニューヨーク商業取引所)統計

上述したように、株式市場、原油先物市場ともに、ホルムズ海峡開放への期待感が先行し、60日間の交渉が順調に進むと考えている。しかし、イスラエルの単独軍事行動、イランと米国とのボタンの掛け違いによる原油価格高騰の可能性を慎重に考慮する必要性がある。

5. 世界は脱石油に向かうのか

これまで、イランがホルムズ海峡封鎖をちらつかせても、本気で封鎖することはないと、多くのエネルギー専門家は考えていた。①ホルムズ海峡を封鎖すると、イラン自身が、石油を輸出できなくなり、石油収入を絶たれる。②サウジアラビア、カタールをはじめとした中東湾岸産油国との関係を悪化させる。という理由が挙げられていた。しかし、イランの革命防衛隊は、実際にホルムズ海峡を封鎖し、予想以上に米国経済をがたつかせ、世界経済を震撼させた。イランは、ホルムズ海峡封鎖の大きな効果を実感した。イランの体制が存続する限り、ホルムズ海峡封鎖の可能性は残る。日量2,000万バレルという世界の石油生産の2割が通航するホルムズ海峡封鎖により、石油のもつ地政学リスクが意識され、世界は、脱石油に向かう可能性が考えられる。既に、中東の石油に依存していたアジア諸国は、割高な石油の輸入を抑制し、石炭火力発電を増強して、そのために豪州の一般炭の価格が上昇している。単位熱量当たりでは、石油と比較して、石炭は圧倒的な価格競争力をもっている(図表4)。

(図表4)炭化水素別価格比較(単位:円/千キロカロリー)

炭化水素別価格比較(単位:円/千キロカロリー)

出所:財務省貿易統計

ホルムズ海峡封鎖以前においては、世界の石油需要は、現状政策シナリオにおいて、2050年まで増加すると、IEA(国際エネルギー機関)は予想していた(図表5)。脱炭素の流れがあるとしても、輸送・貯蔵等の取り扱いの容易さ、生産コストの安さ、自動車、航空機等の輸送用燃料としての優位性、石油化学原料としてのメリットから、今後も石油は利用されると考えられてきた。アジアをはじめとして、石油の需要は今後も堅調に増加すると見込まれていた。しかし、ホルムズ海峡の封鎖が現実に発生すると、石油に過度に依存することへのリスクが顕在化する。新型コロナウイルスの感染拡大収束を経て、世界の石油需要は、再び増加を続けてきたものの、2026年の世界の石油需要は、2025年比日量100万バレル以上減少すると、IEAは予測している。

(図表5)世界の石油需要見通し(単位:百万バレル/日)

世界の石油需要見通し(単位:百万バレル/日)

出所:IEA(国際エネルギー機関)世界エネルギー見通し2025年11月

アジアをはじめとした世界は、再び石油消費を抑制し始める可能性が考えられる。

6. これからも中東の石油に依存する必要性

これからも、日本、韓国をはじめとしたアジア諸国は、サウジアラビアの石油、カタールのLNGに依存する必要はあるのであろうか。ホルムズ海峡は、世界の石油生産量の2割、LNG輸出量の2割が通航している。前にも述べたように、日本はカタールのLNGへの依存度は低く、電力、都市ガスの原燃料としては、ホルムズ海峡封鎖のリスクは極めて小さい。ロシアのサハリン2におけるLNGの輸入も特例として2026年12月まで延長されている。しかし、日本以外のアジア諸国は、カタールのLNGに大きく依存している(図表6)。そのため、アジア諸国は、スポットLNGの調達に苦慮し、石炭火力発電の増強を行っている。日本は、LNG輸入に関しては、豪州、マレーシア、米国等、調達の多角化を続け、LNGの安定供給に努力する必要があり、ホルムズ海峡開放を見据えて、カタールとのLNG輸入交渉を進めることも大切である。同時に、他のアジア諸国は、石炭火力発電とLNG火力発電のバランスをはかることが求められる。

(図表6)カタールの国別LNG輸出先(単位:万トン)

カタールの国別LNG輸出先(単位:万トン)

出所:GIIGNL(国際LNG輸入者協会)統計

石油については、日本はこれまで原油輸入の94%を中東産油国に依存し、93%はホルムズ海峡を通航していた。そのため、ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、日本の4月における原油輸入は、前年同月比63%も減少している(図表7)。

(図表7)日本の2026年4月における化石燃料輸入量
原油輸入2026年4月

輸入量 前年同月比(%)
原油輸入量(千kl) 4,480 -63.7
揮発油輸入量(千kl) 1,528 -37.7
液化天然ガス(千トン) 4,269 -20.6
石炭(千トン) 12,118 0.8

出所:財務省貿易統計

日本は、中東からの原油輸入の減少に対応して、254日分の石油備蓄のうち50日分以上を放出している。それと同時、米国のシェール・オイル、中南米、中央アジア、アフリカ等から、原油のスポット調達を行っており、石油備蓄の放出を最小限に抑えている。今後も、中東産原油からの多角化を進めていく必要があるものの、量的、コスト的、輸送日数的には、中東産原油に依存することも不可欠である。中東産原油のメリットは、①原油埋蔵量が豊富であり、②日本までの航海日数が短いことが挙げられる。中東から日本までの航海日数は、ホルムズ海峡を通航すると21日程度であるのに対して、米国の場合は、VLCC(超巨大石油輸送タンカー)がパナマ運河を通過できないことから、アフリカの喜望峰経由となって50日程度が必要となる(図表8)。

(図表8)石油輸送日数

石油輸送日数

出所:EIA(米国エネルギー情報局)資料

さらに、中東以外から原油をスポット調達すると、中東産原油と比較して割高な価格となる。そのため、量的、コスト的に安定した中東産原油と、その他の国の原油とのバランスをとる必要がある。既に、コスモ石油は、ホルムズ海峡開放を視野に入れて、中東における油田開発の強化を表明している。2030年までを見据えた場合、自動車用燃料、石油化学原料として石油は必要であり、ホルムズ海峡封鎖リスクとのバランスを考えながら、中東産油国との友好関係を強化し、日本のエネルギー安全保障、エネルギーの安定供給、エネルギー・コストの低減をはかる必要がある。

【本記事に関するご注意】
本記事は、外部有識者による執筆時点(2026年6月21日)の分析に基づいた寄稿記事であり、当社の公式な見解を示すものではありません。また、中東情勢は極めて流動的であり、掲載後の状況変化により内容と事実が異なる可能性がある点をご留意ください。

岩間 剛一(いわま こういち)
このコラムの著者

岩間 剛一(いわま こういち)

和光大学経済経営学部教授(資源エネルギー論、マクロ経済学、ミクロ経済学)
東京大学工学部非常勤講師(金融工学、資源開発プロジェクト・ファイナンス論)
三菱UFJリサーチ・コンサルティング客員主任研究員
石油技術協会資源経済委員会委員長

【略歴】
1981年東京大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、東京銀行本店営業第2部部長代理(エネルギー融資、経済産業省担当)、東京三菱銀行本店産業調査部部長代理(エネルギー調査担当)
出向:石油公団企画調査部:現在は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト)
出向:日本格付研究所(チーフ・アナリスト:ソブリン、資源エネルギー担当)
2003年から現職

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