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2024.03.04

脱炭素を加速する
COP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の動き

COP28 UAE

1. 大きな飛躍を見たCOP28

 2023年11月30日から12月13日にかけて、OPEC(石油輸出国機構)の有力加盟国UAE(アラブ首長国連邦)のドバイにおいて、COP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が開催された。当初は、原油生産、天然ガス生産を国家発展の根幹とする産油国において開催され、しかもUAEの国営石油企業ADNOC(アブダビ国営石油会社)のCEO(最高経営責任者)であり、同時に産業・先端技術大臣のスルタン・ジャベル氏が会議の議長であることから、石油産業に不利な、脱炭素への深まった議論は行われないのではないかという懸念があった。しかし、COP28においては、炭酸ガス排出削減を目指して、歴史上初めて、「化石燃料脱却」、英文においては、”Transition Away from Fossil Fuel”という、石油をはじめとした化石燃料(Fossil Fuel)という表現が明記されるという、画期的な成果を挙げた。同時に、過渡的な燃料”Transitional Fuel”という用語も用いられ、単位熱量当たりの炭酸ガス排出量が石炭の半分程度の天然ガスを念頭に、過渡的燃料の役割を再認識するという文言も盛り込まれた。これまでのCOP26、COP27においては、議長国だった英国が、化石燃料の文言も盛り込もうとしたものの、サウジアラビアをはじめとした産油国の抵抗にあい、石炭の段階的な削減(Phase Down)という用語にとどまり、化石燃料という用語を使うことはできなかった。しかし、スルタン・ジャベル議長も、「歴史的な合意となり、合意文書に初めて、化石燃料という言葉をいれることができた」と、歓迎の表明を行った。
 今回の画期的な合意は、2023年夏に見られるように、炭酸ガス濃度の上昇により、地球の気温が上昇して、猛暑、干ばつ、洪水が頻発するようになったという危機感が背景として挙げられる。

2. COP28の最終合意文書

 COP28の最終合意は、①グローバル・ストックテイク(パリ協定の1.5度目標に対する現状と課題の棚卸し)、②ロス&ダメージ(気候変動の悪影響による損失と損害)等、が盛り込まれている。グローバル・ストックテイクについては、5年ごとに結果を踏まえて、各国の温室効果ガスの排出削減目標を見直していくこととしている。重要なポイントとしては、ロス&ダメージの基金については、米国、日本、ドイツ、UAEが拠出を行うことを表明し、会議の初期に合意が成立した。基金については、気候変動の影響を受ける途上国への支援を対象とし、世界銀行の下に設置し、先進国が立ち上げ経費の供出を主導すること等、が決定された。そして、気温上昇を1.5度以内とするための具体的な対策への議論に集中した(図表1)。そして、最終的には8つの合意が全会一致でなされた。

(図表1)COP28の合意内容概略 2023年12月

この10年間で化石燃料からの脱却を加速
温室効果ガスを2035年までに2019年比60%削減
対策のない石炭火力の削減を加速
ゼロエミッション自動車の導入を加速
再生可能エネルギーを現在の3倍とする

出所:各種新聞報道

 第1に炭酸ガスをはじめとした温室効果ガスの排出量を、気温上昇を1.5度以内に抑えるために、2025年までにピークアウトし、2030年までに43%、2035年までに2019年比60%削減する。第2に石油、石炭をはじめとする化石燃料からの脱却を2023年からの10年間に加速する。第3に2030年までに再生可能エネルギーの発電能力を現在の3倍に相当する110億キロワットとする。第4に省エネルギーの改善率を世界平均で2倍とする。第5に炭酸ガス排出削減が講じられていない石炭火力発電の段階的な削減(Phase Down)を加速する。第6に自動車について、ゼロエミッション(温室効果ガス排出ゼロ)車、低排出車の迅速な導入により、陸運部門の温室効果ガス排出削減を加速する。第7に2050年のカーボンニュートラルを実現するための技術として原子力発電も必要であるという文言を加えた。第8に温室効果ガス排出削減のために、CCUS(炭酸ガス回収・利用・地下貯留技術)の必要性も認識する。等である。
 日本も、COP28の会場内に設けられたジャパンパビリオンにおいて、脱炭素への取り組み、炭酸ガスの有効活用への活発な広報活動を展開し、2023年12月2日には、岸田文雄首相が、①産業の脱炭素化、②成長を続けるアジアの脱炭素化に挑戦する方針、等を表明した。さらに、12月9日には、1.5度目標実現に向けて、世界全体でパリ協定の目標に取り組むための日本政府の投資促進支援パッケージを公表した。日本ガス協会も、12月4日にジャパンパビリオンにおいてe-メタン※1への取り組みについて紹介を行った。e-メタンは、導管、ガス器具をはじめとした都市ガスの既存インフラストラクチャーが利用でき、都市ガスへの混合率を上げていくことで、徐々に脱炭素へ移行できる水素キャリアであると、世界に発信している。日本のガス業界は、2030年に都市ガス販売量の1%に相当するe-メタンの導管注入を目指している。ジャパンパビリオンにおいては、大阪ガスが開発した、低炭素に貢献する放射冷却素材(SPACECOOL※2)の展示も行われた。

  • ※1 e-メタン:CO₂と再生可能エネルギー由来の水素を原料として製造されたメタンのこと。⼤気中に放出されるCO₂をリサイクルするため、e-メタンを燃焼しても大気中のCO₂の量は実質増加しない。
  • ※2 SPACECOOL:直射日光下において、太陽光と大気からの熱をブロックし熱吸収を抑えるだけではなく、放射冷却技術の原理により、宇宙に熱を逃がすことで、エネルギーを用いずに外気温よりも温度低下する放射冷却素材。WiL,LLCと大阪ガスの共同出資事業であり、ゼロエネルギーでの冷却による温室効果ガスの排出抑制、環境性向上の価値提供を目指す。

3. 脱炭素へ議論が白熱したCOP28

 UAEという石油の生産国における会議において、歴史的ともいえる化石燃料脱却の加速への合意であったものの、脱炭素への道筋は難航を極めた。当初の案は、「化石燃料の段階的廃止」という文言であり、カーボンニュートラルを主導してきた欧米諸国が強く求めていた。しかし、サウジアラビアをはじめとした産油国が強硬に反対し、OPEC(石油輸出国機構)も加盟国に、「化石燃料廃止」の文言に反対するよう働きかけを行った。COPは、全会一致の原則があり、産油国が反対するとCOPの合意が成立しない。これまでのCOP26、COP27においては、サウジアラビアを中心に産油国は、「化石燃料(Fossil Fuel)」という言葉さえも公式文書に記述することに強硬に反対してきた。それだけに、「化石燃料」という言葉が文書に記載されただけでも、「画期的な」成功といえる。ただし、脱却を加速するといっても、2025年、2030年という具体的な数値目標があるわけではなく、一つの努力目標であって、極端にいえば、自動車、航空機等の石油需要があれば、脱炭素に努力しつつ石油の生産は続けることが可能となる。サウジアラビアを例にとれば、ビジョン2030によって脱石油への産業構造の高度化を行っているものの、現在も財政収入の8割を石油に依存しており、国家の近代化のためにも簡単に脱石油には合意できない。こうした妥協的な表現に対して、地球温暖化により水没の危機に直面する島嶼国、旱魃により難民が増加するアフリカ諸国からは、「化石燃料からの脱却を加速する」という文言では問題の根本的な解決にはならないという反発もある。
 石炭についても、引き続き炭酸ガス排出削減を行っていない石炭火力発電の段階的な削減(Phase Down)という表現が用いられ、「廃止」という文言は用いられていない。化石燃料のなかでも、石炭は炭酸ガスに加えて、大気汚染の原因となる硫黄酸化物、窒素酸化物の排出、健康被害をもたらす微粒子の排出等により、化石燃料のなかでも、一番廃止への要求が強い。米国も、シェール・ガス革命、シェール・オイル革命により、世界最大の天然ガス生産国、原油生産国となったことから、化石燃料のなかでも石炭からの脱却に力点をおき、PPCA(脱石炭国際連盟)に参加することを表明している。産油国にとっても、石油に依存する経済構造からも、石炭からの脱却は、合意しやすい内容であり、UAEも、PPCAへの参加を行っている。しかし、世界全体を見渡すと、特にアジア諸国は、単位熱量当たりの価格が石油と比較して5分の1程度である、安価な石炭火力発電は重要な電源であり、2023年の世界の石炭消費量は、脱石炭の流れにもかかわらず、過去最高を記録している。中国、インドをはじめとした新興国も、石炭火力発電の比率は逆に上昇しており(図表2)、COPの会議においても、石炭火力発電の廃止という文言を簡単に用いることはできない現実がある。日本もエネルギー自給率が11.3%(2020年IEA統計)にとどまる現状において、電気料金の上昇を抑えるためにも、石炭火力発電の廃止には容易には同調できない。

(図表2)世界の石炭火力発電の割合(%)
IEA統計2021年

(図表2)世界の石炭火力発電の割合(%)

出所:IEA(国際エネルギー機関)統計

 COPの会議においては、脱炭素の道筋が、太陽光発電、風力発電だけでは実現できないことから、原子力発電、CCUSという技術も、炭酸ガス排出削減への重要な技術と位置づけた。また、サウジアラビア、UAEをはじめとした産油国は、脱石油が現実のものとなった場合を考え、原油、天然ガスから、アンモニア、水素を生産し、排出される炭酸ガスを回収して地下に貯留する、ブルー・アンモニア、ブルー水素の技術開発に注力している。特に、中東の場合には、老朽化した油田、天然ガス田に炭酸ガスを封じ込めることが安価なコストでできることから、ブルー・アンモニア、ブルー水素への期待は強い。また、豊富な日照を利用して、発電コストの割安な太陽光発電から水の電気分解により、グリーン・アンモニア、グリーン水素を作り出すことも実証されている。

4. 未来への課題と期待

 世界の200の国と地域は、石油をはじめとした化石燃料からの脱却の加速という前進を始めた。しかし、COP28はいくつかの課題を残した。まず第1に、現時点の目標だけでは、1.5度目標を実現できず、2030年を前にして地球の気温上昇が1.5度を超える局面が考えられる。国連も、現状のままでは、地球温暖化が地球の沸騰につながると懸念している。IEA(国際エネルギー機関)も、COP28の約束が実行されても、1.5度目標は達成できないと予測している。そのため、5年ごとの達成状況の見直しにおいては、さらなる目標の積み上げが避けられないものと考えられる。第2に、途上国、島嶼国への資金支援の原資をどうするかという課題もある。各国の財政状況が逼迫し、金利も上昇するなか、今後のCOPの会議においても、先進国が、どのように、どの規模の資金支援を行うかが議論されることとなる。
 しかし、未来への新たな期待としては、第1に、COPの会議そのものが、一部の環境保護団体だけの会合から、世界中の政府と企業を巻き込んだものに発展していることが挙げられる。2050年のカーボンニュートラル実現という目標がはっきりし、世界中の企業、技術者が、脱炭素への研究開発に取り組み、グリーンなアンモニアと水素、水素と炭酸ガスを反応させてメタンを生産するメタネーションの実用化に力を入れ、世界が一つになってきたことである。第2に、脱炭素という理念に向けて、エネルギー安全保障を維持しつつ、脱炭素へと向かう過渡的な燃料(transitional fuel)として、クリーンな天然ガスの重要性を再認識するという現実的な脱炭素への道筋を考慮したということが挙げられる。世界の天然ガス需要は2050年に向けて堅調に増加することが見込まれている(図表3)。

(図表3)世界の天然ガス需要見通し(単位:10億立方メートル)
IEA見通し公表政策シナリオ 2023年10月24日

(図表3)世界の天然ガス需要見通し(単位:10億立方メートル)

出所:IEA(国際エネルギー機関)世界エネルギー見通し

 第3に、脱炭素の実現に向けて、それぞれの国の実情にあった道筋への考慮が生まれてきたことが挙げられる。グローバルサウス(南半球の新興国、途上国の総称)の世界経済における台頭により、欧米先進国の価値観だけで、カーボンニュートラルを語ることができなくなった国際情勢の変化がある。
 COP28により、世界は脱炭素に向けて、一段と力強い一歩を踏み出した。日本の都市ガス企業にとっても、メタネーションの技術開発と経済的商用化、ブルーとグリーンのアンモニア、水素をどのように経済的に活用していくのか、新たな発展へのフロンティアが開けてきた。

岩間 剛一 Kouichi Iwama
岩間 剛一Kouichi Iwama
和光大学経済経営学部教授(資源エネルギー論、マクロ経済学、ミクロ経済学)
東京大学工学部非常勤講師(金融工学、資源開発プロジェクト・ファイナンス論)
三菱UFJリサーチ・コンサルティング客員主任研究員
石油技術協会資源経済委員会委員長
【略歴】
1981年東京大学法学部卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、東京銀行本店営業第2部部長代理(エネルギー融資、経済産業省担当)、東京三菱銀行本店産業調査部部長代理(エネルギー調査担当)
出向:石油公団企画調査部:現在は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト)
出向:日本格付研究所(チーフ・アナリスト:ソブリン、資源エネルギー担当)
2003年から現職

ENERGY BUSINESS PRESSのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。(2017年2月より掲載しています)

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