2024.07.30
2024年4月にイタリア・トリノで行われた「G7 気候・エネルギー・環境大臣会合」では、温室効果ガス(GHG)の削減対策が取られていない石炭火力発電設備を2030年代前半までに段階的に廃止することで各国が合意しました。同会合では、2030年までに世界全体で再生可能エネルギー容量を3倍にする目標が掲げられ、主要経済国を中心にエネルギーシフトが欠かせない状況になっています。
とはいえ、企業活動を行う限りCO₂排出を完全にゼロにするのは難しく、排出削減の取り組み以外の手段も必要です。そんな中、企業からの注目が高まっているのが「環境証書」です。うまく活用すれば、ネット・ゼロの実現だけでなく、企業価値向上やビジネスの創出にもつながる、脱炭素の“次なる一手”。基本的な仕組みを確認しておきましょう。
目次
環境価値とは、地球環境保全や持続可能な発展に寄与する価値、つまりGHG排出削減や自然エネルギーの持続的利用などを促して、地球環境に与えるポジティブな影響のことをいいます。たとえば、再エネ由来の電力や熱は、エネルギーそのものの価値に加えて「発電時にCO₂を排出しない」という価値を持っています。
こうした環境価値をエネルギー自体の価値とは切り離し、取引できるように証書化したものが「環境証書」です。近年、脱炭素経営の取り組みの一つとしてこうした環境証書を購入する企業が増えているのです。
現在日本において一般企業が脱炭素目標達成のために利用できる環境証書には、グリーン電力証書、非化石証書、J-クレジットの3種類があります。それぞれの特徴や違いについて紹介します。
風力、太陽光、バイオマス(生物資源)などの自然エネルギーによって発電された電力の環境価値を、第三者認証機関の認証を得て証書化したものです。グリーン電力証書を購入すると、再エネ発電設備を持っていない場合や、地理的事情などで再エネ電力を利用できない場合でも、グリーン電力を利用したとみなすことができます。グリーン電力証書の普及は、自然エネルギーによる発電拡大を後押しすることにもつながります。
(参照)
『グリーンエネルギー認証』(JQA)
石油や石炭などの化石燃料を使わずに発電された電力の環境価値を証書化したものです。再生可能エネルギーのほか、原子力によって発電された電力も含まれます。そのため、非化石証書には対象電源によって3つの種類があります(下図)。
非化石証書は日本卸電力取引所(JEPX)でオークション取引され、基本的には電力会社が購入します。電力会社は購入した環境価値を組み込んだ料金プランを提供しており、企業はこうしたプランを選んで契約することで実質的に非化石電力を利用できます。非化石証書は、グリーン電力証書やJ-クレジットと比較して供給量が多く価格も低いため、調達しやすいのが特徴です。2021年11月からは一般企業もFIT非化石証書を直接購入できるようになり、購入代行サービスも増えています。
日本では、電気を使うすべての人が再エネ普及のための「再エネ賦課金」を負担しています。非化石証書の売上の一部は再エネ賦課金の原資となるため、非化石証書の取引が活性化することにより負担軽減が期待できます。
J-クレジット制度は、企業や自治体のGHG排出削減量・吸収量をクレジットとして国が認証するものです。クレジットの創出方法には、再生可能エネルギーによる発電だけでなく、省エネ・再エネ設備の導入や森林整備なども含まれますが、このうち再エネ電力由来のクレジットに限り証書として利用できます。
J-クレジットは、グリーン電力証書や非化石証書と異なり転売(売却)できる点が大きな特徴です。また、クレジットの地産地消を目的として、地方公共団体が運営する「地域版J-クレジット(※)」や、売り手と買い手を独自にマッチングする地域もあり、地域経済の活性化に貢献することも可能です。
※地域版J-クレジット制度は2024年6月時点で新潟県と高知県が運営中。
企業が環境証書を購入し、環境価値を取り入れることには、次のようなメリットが挙げられます。
環境証書は必要な時期に必要な分を購入できます。自社に発電設備がない場合でも再エネ電気を使用したとみなすことができるため、投資対効果の高い手段といえます。
創出した環境証書は自家消費できないという特性があるため、証書を購入することが再エネの普及促進や、他社や自治体の取り組みを援助することにつながります。また、発電地域を選ぶことで地域貢献をPRすることもできます。
証書を活用して「グリーン電力を利用するサービスプラン」や「100%再生可能エネルギーで作った製品」といった商品・サービスを提供できます。こうしたビジネスは、気候変動対策に貢献していることをアピールでき、企業価値向上にもつながります。
温対法、省エネ法で一定規模以上の事業者や工場に義務付けられている排出量報告に利用することが可能です。また、CDP、SBT、RE100といった国際的イニシアティブに対応しているため、目標達成に役立てることができます。国際的イニシアティブとの対応関係については、次の章で詳しく紹介します。
昨今、気候変動対策に関連する情報開示・評価の動きが広まり、脱炭素に関連する国際的イニシアティブに参加する日本企業が増えています。代表的なものとしては、CDP、SBT、RE100などが挙げられます。
イギリスの非営利団体の活動で、企業や自治体が行っている環境対策の取り組みについて情報開示を促し、スコアリング評価を行う。
企業に対し、科学的根拠に基づいて5〜10年の中長期でGHG排出削減目標を設定することを求めるイニシアティブ。
事業活動で使用する電気について、2050年より前の年次を各企業が決め、100%再エネ電力を調達することを宣言するイニシアティブ。
グリーン電力証書、非化石証書(再エネ指定)、再エネ電力由来のJ-クレジットは、いずれも3つのイニシアティブに対応していて(下図)、スコープ2の電気を再エネ扱いとすることが出来ます。
環境省の「カーボン・オフセットガイドライン」では、カーボン・オフセットを実施する上での基本的な考え方として、まず自らの活動に伴い排出する温室効果ガスを認識および削減努力を行った上で、削減しきれない温室効果ガスをカーボンクレジットで埋め合わせ(オフセット)をすることが記載されています。カーボン・オフセットの手段として環境証書をうまく活用することは、カーボンニュートラル化を推し進める上で有効な選択肢になっています。
脱炭素経営をより広い視野でステップアップしていけるよう、3種の環境証書の違いや特徴をふまえた上で、自社の戦略や課題に合った活用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
カーボンニュートラルに関する