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日本企業には影響大!? “スコープ4”といわれる削減貢献量ってどんなもの?

2024.03.29

日本企業には影響大!? “スコープ4”といわれる削減貢献量ってどんなもの?

カーボンニュートラル実現に向けて、世界中でGHG(温室効果ガス)の排出削減 の取り組みが加速する中、新たな鍵を握るとされているのが、“スコープ4” とも称される「削減貢献量」です。国内外で関心が高まる削減貢献量とはどのような考え方なのか、具体例や企業への影響を紹介します。

1. 削減貢献量とは?

2023年5月のG7広島サミット(主要国首脳会議)や、同年冬のCOP28(気候変動枠組条約締約国会議)でも取り上げられた「削減貢献量(Avoided Emissions)」。これは、自社の製品やサービスなどが使用されることで、排出量の削減にどれだけ貢献したかを定量化する考え方です。

削減貢献量のイメージ

削減貢献量のイメージ(資源エネルギー庁「イノベーションを通じた企業の課題解決力を計る、「削減貢献量」とは? 」を参考に作成)

上の図のように、ある製品・サービスが使われなかった場合の社会全体のGHG排出量(水色の破線)を基準にしたとき、その製品・サービスを使うことによって排出量が減少した場合(オレンジの実線)、どれだけの削減効果があったのかを数値化したものが「削減貢献量(緑色の斜線部分)」というわけです。

CO₂排出量に関する情報開示が必要になってきた昨今、その算定・報告には「温室効果ガス(GHG)プロトコル」を用いることが主流になっています。これは、国際的な企業団体「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」が提唱した国際基準で、モノがつくられてから使用、廃棄されるまでのサプライチェーンにおけるGHG排出量を、スコープ1、2、3の3つに分類してとらえるものです。

スコープ1:自社が直接排出するGHG(製品製造や加工に使う熱エネルギーなど)
スコープ2:自社が間接的に排出するGHG(オフィスで使う電気など)
スコープ3:原材料調達や輸送、販売した製品の使用、廃棄などで排出されるGHG

このうちスコープ3は、排出区分が15のカテゴリに分けられています。

スコープ3カテゴリと該当する活動

削減貢献量は、上図のカテゴリ11(販売した製品の使用)と似ていますが、カテゴリ11は製品・サービスの販売先(顧客)が排出するGHGであり、製品・サービスを“置き換えたことによる排出抑制効果”を推定する削減貢献量の考え方とは異なります。つまり、削減貢献量は、スコープ1、2、3では“測れないもの”を測るための新しいものさしなのです。

では、削減貢献量にはどのようなものが含まれるのか、具体例をみてみましょう。

2. 削減貢献量の対象・具体例

削減貢献量の対象・具体例

対象は素材からサービスまで幅広い

削減貢献量の対象には、自社の製品・サービス・技術などが含まれます。最終製品はもちろん、素材、部品、ITサービスなど多岐にわたります。

例えば、家電メーカーが省エネ性能の高い製品を販売した場合、従来品よりもユーザーの排出量を減らすことができます。素材メーカーの超軽量材料を航空機に採用した場合は、航空機の軽量化によって燃費が向上するため、運航に伴う排出量の削減につながります。今ではすっかり普及したリモート会議システムも、電車や自動車での移動にかかる排出量を回避できる点で排出削減に貢献しているといえるでしょう。

これまでの“矛盾”を解消すべく生まれた新しい評価軸

削減貢献量が重視されるようになった背景には、GHGプロトコル(スコープ1、2、3)だけでは企業の取り組みを正しく把握・評価できないという問題意識があります。現状の評価基準では、省エネ性能の高い製品を開発しても、売れれば売れるほどスコープ3の総量が増えてマイナスの評価になってしまうからです。

また、スコープ3の範囲に含まれない削減貢献の例もあります。例えば、建材メーカーA社が従来よりも性能の高い断熱材を開発し、新しい断熱材へとリフォームした住宅の冷暖房使用量が減ったとします。しかし、住宅の排出量削減はA社のスコープ3には含まれないため、断熱材の効果をきちんと評価できないのです。

こうした“矛盾”を解消して、社会全体の脱炭素につながる企業の取り組みを適切に評価すべきという考えから生まれたのが、削減貢献量です。そのため、GHGプロトコルの3つのスコープでは表せない新たな評価軸という意味を込めて“スコープ4”ともいわれています。

3. 削減貢献量をめぐる動き

削減貢献量をめぐる動き

日本発の評価軸として、世界へ

削減貢献量について、日本では以前から議論されており、化学などの業界団体や、学会(日本LCA学会)によるガイドラインはあったものの、国際的な基準はありませんでした。そこで、日本政府は世界に先駆け、2022年からWBCSDとともに具体的な仕組みづくりに取り組み、気候変動に関するさまざまな国際会議の場で削減貢献量を提唱してきました。

このような提唱の結果、2023年3月にはWBCSDが削減貢献量ガイダンス(Guidance on Avoided emissions)を発表。同月、国内ではGXリーグが「気候関連の機会における開示・評価の基本方針」を発表し、削減貢献量の開示・評価の考え方を明らかにしました。その重要性はグローバルに評価されつつあり、2023年5月に開催されたG7広島サミットの首脳宣言には、「脱炭素ソリューションを通じ他の事業者の排出削減に貢献するイノベーションを促すための民間事業者の取り組みを奨励・促進する」と明記されました。

<関連コラム>

削減貢献量を活用する企業が増加中

国内では、削減貢献量を活用する企業も増えています。日本経済新聞社が企業の脱炭素の取り組みをランキングした「GX500」調査(2023年11月発表)によると、有効回答企業の約4社に1社(231社)が活用していると回答しました。

活用の例を挙げると、日立製作所やパナソニック、ダイキンなどは、中・長期環境戦略の中で削減貢献量を自社の脱炭素目標に取り入れています。Daigasグループも2030年までにグループの活動による社会全体へのCO₂排出削減貢献1000万トンを目指しています。

また、サステナビリティレポートなどで説明・開示を行う傾向も強まっており、製品業だけでなく、メルカリなどのサービス業も積極的に発信を行っています。こうした動向にあわせて、金融機関や投資家の間で企業評価に活用する動きも始まっていることから、今後注目度はますます高まっていくといえるでしょう。

4. 削減貢献量のメリットと課題、企業への影響

削減貢献量のメリットと課題、企業への影響

削減貢献量の考え方が広まると、企業にはさまざまなメリットがあります。しかし、普及していくには、解決すべき課題が多いのも現状です。

実際、企業が提供する商品を購入する消費者(生活者)が、脱炭素を自分ごととしてとらえることはまだ多くありません。環境や脱炭素に配慮しているからという理由で商品を購入したり、そうした商品を扱う企業を応援したり、具体的な行動に移している人は少ないのが現状です。そこで、「脱炭素の取り組みに触れて認知を広げ、学びを通して楽しみ、興味をもって自分ごと化する機会を用意し、生活者とともに脱炭素社会の実現に挑戦する」という趣旨のもと、有志企業でチャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(以下、CCNC)といった団体を設立する動きも出てきています。Daigasエナジーもこの活動に脱炭素支援パートナーとして参画しています。

このような動きが広がることの企業にとってのメリット、また広げていくための課題として、以下のようなものが挙げられます。

企業にとってのメリット

① 技術・製品開発の進展
省エネ技術や製品の研究開発が進み、競争力アップにつながります。また、削減貢献量が世界的に評価されるようになることは、技術に長けたものづくり先進国の日本にとっても追い風といえるでしょう。

② 企業評価のひとつになる
製品・サービスを通じた脱炭素への貢献が、取引先はもちろん、投資家や金融機関からの企業評価にもつながります。欧州ではすでに基準を設け、貢献度の高さによって企業の優位づけや選別が始まっています。

③ 生活者にアピールできる
他者や社会への貢献を自社の環境への取り組みとして生活者にアピールできるため、イメージアップにつながります。生活者に“選ばれる”ことで製品・サービスが広く普及すれば、社会全体の脱炭素を加速する好循環も生まれます。

普及に向けた課題とは?

削減貢献量の普及・活用促進に向けて、現在はさまざまな団体が検討を進めているところで、算定方法や範囲、公平な比較方法など、国際的な統一基準はまだ確立されていません。

また、開示についても注意が必要で、製品・サービスがもたらすプラスの側面だけを取り上げて、実際には環境に負の影響を与えていても表向きには “環境にやさしい”とみせかける「グリーンウォッシュ」が疑われる懸念もあります。

統一ルールのない現状では、既出のさまざまなガイドラインに沿って企業がそれぞれ算定を行い、発信を行うことになります。その際に重要なのが、“透明性”と“実効性”です。算定範囲・方法を明確にした上で、環境に対してどれくらいポジティブな影響や効果をもたらしたのかを、外部にもわかりやすい形で開示していくことが大切といえます。

5. おわりに

削減貢献量は、企業の脱炭素・排出削減への貢献を評価する新たなものさしであり、自社の取り組みが社会全体のサステナビリティにつながっていることを広く知ってもらう手段となります。カーボンニュートラルの実現へ確実に近づいていくために、削減貢献量への理解を深め、国内外の動向に注目しながら取り組みを進めていくことが重要です。

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