EVというと乗用車に目が向きがちですが、世界では今、物流車両や配送車、バスなどの商用車の電動化が着実に進んでいます。その背景には、脱炭素経営への対応に加え、燃料価格の高騰やエネルギー安全保障への関心の高まりがあります。日本でもGX政策の一環として商用車の電動化を後押しする支援制度が拡充されており、物流分野の脱炭素化に向けた取り組みが進みつつあります。さらに商用EVは、太陽光発電や充放電システムと組み合わせることで、「走る蓄電池」として電力需給の調整や、災害時の非常用電源を担う分散型エネルギー資源としても期待されています。商用EVは、単なる環境対応車ではなく、物流とエネルギーをつなぐ新たなインフラへと進化しつつあります。
目次
1. なぜ今、商用EVが注目されるのか
①脱炭素経営
商用EVが注目される背景には、物流を含む運輸部門の脱炭素化が企業経営の重要課題となっていることがあります。
国土交通省によると、2024年度の日本の温室効果ガス排出量のうち、運輸部門は約2割を占めています。そのうち約38%は貨物自動車によるものです。このため、物流分野の排出削減は、2050年カーボンニュートラルやGXの実現に向けた重要な取り組みと位置づけられています。加えて、多くの企業がScope1(自社からの直接排出)やScope3(サプライチェーン全体の排出)の削減目標を掲げています。荷主企業は、自社のScope3の排出量削減に向けて、物流事業者と連携し、輸送時のCO₂排出量の算定・可視化や低炭素輸送の採用を進める動きを強めており、商用EVは脱炭素経営を進める有効な選択肢の一つとなっています。
②経済合理性
商用車は、車両価格だけでなく燃料費や保守費などを含めた総保有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)で評価されます。IEA(国際エネルギー機関)によると、電動トラックは購入価格こそ高いものの、年間走行距離が長いほど燃料費削減の効果が大きく、一部の用途ではすでにディーゼルトラックと同等、あるいはそれを下回るTCOを実現しています。欧州では2030年前後にディーゼルトラックと同等のTCOになるとの予測もあります。そのため、世界では物流事業者や配送事業者を中心に、商用EVの導入が進んでいます。
③エネルギー安全保障
日本はエネルギー自給率が約15%(2023年度)と主要国の中でも低く、原油輸入の約95%を中東地域に依存しています。国際情勢の変化による燃料価格の高騰は物流コストにも大きな影響を与えます。一方、商用EVは電力をエネルギー源とするため、再生可能エネルギーの活用や国内電源の多様化と組み合わせることで、化石燃料への依存低減にもつながると期待されています。
④エネルギーマネジメントへの期待
商用EVは移動手段としてだけでなく、蓄電池として電力をため、建物や電力系統に電力を供給する「分散型エネルギー資源」としても有効な手段の一つとみられています。再生可能エネルギーや蓄電池と組み合わせることで、企業のエネルギーマネジメントや災害時のレジリエンス向上にも貢献する可能性があります。
2. 世界で進む商用電動化
1)世界のEV全体傾向
- ●世界でのEVの販売傾向――世界ではEVは拡大傾向
- 2025年世界のEV販売台数は前年比約2割増の2000万台を超え、新車全体の25%を占めています(IEA2026)。特に中国と欧州で販売が伸びています。
中でもノルウェーでは2025年、新車販売台数のうちEVの割合が95%前後まで到達しています。
■世界のEVの販売数2020-2026

中国(オレンジ)、欧州(青)、アメリカ(緑)、その他の地域(灰)
(参照)IEA (2026), Global electric car sales, 2020-2026, IEA, Paris
https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/global-electric-car-sales-2020-2026, Licence: CC BY 4.0
- ●世界で進む商用電動化
■世界の商用EVトラック販売台数(2020〜2025)IEA

中国(オレンジ)、欧州(青)、北米(緑)、その他の地域(灰)
(参照)IEA (2026), Electric truck sales by region, 2020-2025, IEA, Paris
https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/electric-truck-sales-by-region-2020-2025, Licence: CC BY 4.0
商用EVを取り巻く環境は、日本よりも海外で大きく変化しています。IEAによると、2025年の世界の電動トラック販売は大きく前年を上回り、中国、欧州を中心に市場が拡大しています。特に中国ではランニングコストの低さとバッテリーコストの低下により、その勢いは拡大し続けています。
世界で商用EVが重視される背景には、企業の脱炭素経営だけでなく、エネルギー安全保障や産業競争力の強化があります。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化を受け、多くの国では輸入化石燃料への依存低減が重要な政策課題となりました。また、欧州では大型車のCO₂規制が強化されたことも商用EVを後押ししています。
2)世界で進む物流電動化事例
世界の物流企業では、商用EVの導入が着実に進んでいます。また、物流向けEVを供給するメーカーも開発が活発になっています。
- Amazon
- 2040年までのネットゼロ達成を目指す「The Climate Pledge」の一環として、配送車の電動化を進めています。電動配送車は米国EVメーカーのリビアン(Rivian)と共同開発し、米国を中心にすでに数万台規模を導入しています。また、物流拠点では太陽光発電や充電設備の整備も進めており、配送の脱炭素化を図っています。
- DHL Group
- 「Strategy 2030」のもと、配送車両の電動化を積極的に推進しています。ラストワンマイル配送では電動バンや電動自転車を導入するとともに、物流施設への太陽光発電設備やEV充電インフラの整備を進めています。2030年までにラストワンマイル配送車の66%を電動化する目標を掲げています。
- テスラ(Tesla)
- 大型EVトラック「Tesla Semi」を開発・実用化しています。航続距離最大約500マイル(約800km)仕様を展開しており、現在はペプシコなどで実証・運用が進められています。物流業界のCO₂排出削減と輸送コスト低減を目指し、長距離輸送の電動化に挑戦しています。
3)世界で整備される商用EVの充電環境
世界では車両の電動化だけでなく、充電インフラを含めた物流システム全体の設計が勧められています。
■欧州
- 大型トラック向け急速充電網の整備
- 欧州では、大型商用EVの普及を見据え、高速道路沿いを中心に高出力充電網の整備が急速に進められています。2024年に発効した代替燃料インフラ規則AFIR(Alternative Fuels Infrastructure Regulation)では、欧州広域輸送ネットワークの主要道路において、大型車向けの150kW以上の急速充電設備を概ね60km間隔で整備することを加盟国に求めています。
- 大型トラック専用の充電ネットワークを「Milence」が整備
- トラックメーカー3社が共同で設立した、合弁会社「Milence」(ミレンス)は、欧州主要物流ルートへ2026年4月時点で34カ所・221基の充電設備を運営しており、2026年末までに50か所、2028年までに90カ所へ拡大する計画です。
■中国
- 国家充電施設監測服務平台によると、中国の充電インフラは前年比47%近いペースで増え、2026年3月までに充電インフラの総数は2,100万基を超えました。
3. 日本のGX政策と商用EV支援制度
日本政府はGXを推進する中で、運輸部門の脱炭素化を重要な政策の一つに位置づけています。GX実現に向けた基本方針では、自動車分野についてEV(電気自動車)だけでなく、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)を含め、多様な電動車両を活用しながら脱炭素化を進める方針が示されています。
近年の支援策は、車両購入への補助だけではなく、充電インフラや再生可能エネルギーとの連携など、エネルギーシステム全体を視野に入れた支援へと広がっています。
- 商用車等の電動化促進事業
- GX経済移行債を活用した支援制度です。商用EVやEVトラック、充電設備に加え、水素を利用するFCトラックや建設機械などの導入を支援し、物流分野などの脱炭素化を後押ししています。
- 充電設備補助金の導入補助金
- 一般社団法人次世代自動車振興センターでは、EV・PHEVの普及に向け、急速・普通充電設備の設置を支援する「充電インフラ補助金」を実施しています。
- CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)
- 電気自動車やプラグインハイブリッド車、燃料電池車などの導入を支援する制度です。商用車も対象となっており、車種や用途に応じて補助額が設定されています。
- 物流脱炭素化促進事業
- 輸送の効率化と物流施設の脱炭素化を一体的に進めるための支援制度です。トラックやフォークリフトなどの車両の電動化に加え、物流拠点への太陽光発電、蓄電池の設置への補助を対象としています。
- 自治体独自の補助制度
- 国の制度に加え、自治体でも商用EVや充電設備の導入を支援する独自の補助制度が設けられています。関西では、大阪府をはじめ、中小事業者を対象にゼロエミッション車と急速充電設備などの導入を支援し、兵庫県でも市町と連携したEV・FCVの導入支援が行われています。国と自治体の補助制度を組み合わせることで、事業者の導入負担を軽減できる場合があります。
- 税制優遇
- EVなどの電動車には環境性能に応じた税制優遇も設けられています。自動車重量税の免税・減税や、自動車税(環境性能割)の軽減措置などが導入されており、車両導入時の負担軽減につながっています。
- 物流脱炭素化促進事業(国土交通省)
- トラックの配送拠点や倉庫に太陽光発電を設置、蓄電池の設置、電気トラックや電気フォークリフト、EV充電設備の導入を支援しています。
4. 国内で進む商用EVと充電インフラの整備
1)国内企業の商用EV導入事例
| 企業 | 取り組み | ポイント | 出典 |
|---|---|---|---|
| 佐川急便 | EV集配車を順次導入。ラストワンマイル配送に向け配送車の電動化を推進。 | 都市部の集配車を中心に電動化を進める。 | SGホールディングス統合報告書、サステナビリティレポート |
| 日本郵政 | 配達用軽EVを全国へ導入。2030年度までに四輪、二輪、三輪合わせて約3万台規模へ更新する計画。 | 国内最大級の商用EV導入計画。 | 統合報告書 |
| セイノーホールディングス | 商用EVの導入を進めるとともに、共同輸送や混載輸送を推進。 | Green Logisticsの実現に向け、商用EV・FCVや物流効率化を組み合わせた脱炭素物流を推進。 | バリューレポート2025 |
| イオン | ネットスーパーや店舗配送でEV配送車の導入を進めるとともに、店舗へのEV充電設備の整備を推進。 | 物流の脱炭素化と地域のEV充電インフラ整備を一体的に推進。 | イオン「脱炭素ビジョン」、イオン環境・社会報告書 |
(参照)
脱炭素社会の実現に向けて(佐川急便株式会社)
TCFD提言への対応(郵便・物流事業及び郵便局窓口事業)(日本郵政株式会社)
バリューレポート(セイノーホールディングス株式会社)
SUBARUと自動車部品輸送における協業を開始(セイノーホールディングス株式会社)
電気自動車充電ステーション(イオン株式会社)
2)国内の充電インフラの整備
国内ではEVの普及に合わせ、充電インフラの整備も進んでいます。経済産業省によると、2025年の充電器は約6.8万口に達し、政府は2030年までに30万口、うち公共用急速充電器3万口の整備を目指しています。
一方、商用EVでは、一般の公共充電網だけでなく、車両が日常的に戻る物流拠点や営業所で充電する「基礎充電(デポ充電)」が重要です。さらに長距離輸送では、物流施設や幹線道路沿いで充電できる「経路充電」も必要になります。こうした背景から、国内でも車両の導入と充電インフラを一体で整備する取り組みが始まっています。
■国内充電インフラ整備の状況
Daigasエナジーでは、 EV充電ソリューションサービス「D-Charge」をご提供しています。
D-Chargeは、普通充電器や急速充電器の設置に加え、ご要望に合わせてエネルギーマネジメントを初期投資を抑えつつご提案します。基礎充電から目的地充電まで、お客さまの利用シーンや課題に応じた最適なソリューションをワンストップでサポートします 。
5. 国内 商用EV普及への課題
商用EVの普及にはコストや充電インフラなどの課題が残されています。しかし、こうした課題を解決するため、国内外では政策支援や技術開発が進められています。
- 車両価格
- 商用EVは、車両価格がディーゼルトラックなどより高く、充電設備の設置費用も必要になります。燃料費や維持管理費は抑えられる可能性がありますが、初期投資が大きいことが普及の大きな課題となっています。
- 航続距離
- 都市内配送では商用EVの活用が進みやすい一方、長距離輸送では航続距離が課題となります。また、バッテリーの重量が積載量に与える影響も無視できない問題です。
- 充電時間
- 商用EVは営業車として稼働するため、充電時間が事業効率に直結します。車庫や物流拠点でのデポ充電に加え、長距離輸送では高速道路などへの高出力充電設備の整備も必要になります。車両の導入だけでなく、充電インフラを一体的に整備することが求められています。
6. エネルギーインフラとしてのEVの可能性
①商用EVは「走る蓄電池」になる
EVは電気で走る自動車であるだけでなく、蓄電池としての役割にも期待が高まっています。これまで自動車は電力を消費する設備でしたが、EVは蓄えた電気を建物や電力系統へ供給できるため、エネルギーリソースとしても活用できる可能性があります。特に商用EVは、業務用車両が決まった時間に事業所へ戻ることから、充放電の管理がしやすいという特徴があります。
②再エネとの連動
物流施設や事業所、カーポートの屋根に設置した太陽光発電で昼間に発電した電力をEVへ充電し、夕方の電力需要が高まる時間帯には建物に電力を供給するV2B(Vehicle to Building)が期待されています。また、電力需給に応じて電力系統へ放電するV2G(Vehicle to Grid)も分散型エネルギー資源として期待されています。災害が起きた時にも非常用電源として機能するレジリエンス機能にも注目が集まっています。
事例
●大阪市 V2X(ブイツーエックス)普及実証事業
大阪市は「おおさかスマートエネルギープラン」に基づき、災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの実現に向け、電力需給調整力としてEVなどと建物の間で充放電すること(V2H 、V2B)や、災害停電時にEVから放電することができるV2Xを普及促進する取組みを推進しています。
●Honda・住友電工など4社によるV2G(Vehicle to Grid)実証
2025年12月、本田技研工業、住友電気工業などの4社は、複数台のEVを束ねて電力市場で需給調整を行うV2G実証を開始しました。この実証では、個人所有のEVを蓄電池として活用し、電力が余る時間帯には充電し、電力需要が高まる時間帯には電気を系統へ供給します。地域全体の電力系統の安定化や再生可能エネルギーの有効活用を目的としている点が特徴です。
(参照)
個人所有のEVを活用したV2G実証を開始 〜複数台同時制御で地域電力ネットワークの安定へ貢献〜(本田技研工業株式会社)
個人所有のEVを活用したV2G実証を開始 〜複数台同時制御で地域電力ネットワークの安定へ貢献〜(住友電気工業株式会社)
●国土交通省 EVをレジリエンスに活用する仕組みづくり
国土交通省は、EVを災害時の移動式電源として活用する取り組みを進めています。自治体と自動車メーカーなどが災害時の電力供給に関する協定を締結する動きが広がっており、令和6年能登半島地震でも、EVの外部給電機能を活用した電力供給支援が行われました。
7. まとめ
世界では経済合理性やエネルギー安全保障の面からも、商用EVの導入が着実に拡大しています。これは車両だけでなく、充電施設の拡充も合わせて進められていることが特徴です。国内でもEV普及への課題はあるものの、物流企業を中心に商用EVの導入が加速しており、政府もGX政策での支援を本格化させています。また、商用EVは単なる輸送手段としてだけでなく、蓄電池としての機能が期待されており、電力需給調整力として「V2X」の活用が注目されるようになっています。これにより、災害時は蓄電池としてレジリエンスにも寄与し、自社の太陽光発電施設と連携することで、自立・分散型エネルギーシステムを構築するなど、エネルギーシステムの中核を担う存在となる可能性があります。





