コラム

2026.06.10

GX-ETS(排出量取引制度)の本格化で進化するJ-クレジット〜オフセットから価値創出まで〜

GX-ETS(排出量取引制度)の本格化で進化するJ-クレジット〜オフセットから価値創出まで〜

排出量取引制度の本格稼働を背景に、J-クレジットを取引するカーボン・クレジット市場も整備され、温室効果ガスの削減量は取引可能な価値として機能し始めています。現在は単にクレジットを購入してオフセットする段階から、いかにコスト効率よく排出対応を進めるか、あるいは森林保全や農業振興などの地域課題の解決と結びつけて価値を最大化するかという、次の活用フェーズに入りつつあります。本コラムでは、J-クレジットの最新動向を踏まえ、創出と活用の両面から今後注目される手法について紹介します。

1. J-クレジットと環境変化

J-クレジット制度とは

J-クレジット制度とは、温室効果ガスの削減・吸収量を「価値」として見える化し、売買できるようにした国の制度です。前身であるJ-VER制度や国内クレジット制度を統合する形で創設され、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO₂等の排出削減量、植林などによるCO₂の吸収量を「クレジット」として国が認証します。これにより、購入企業は自社だけでは賄いきれない削減分を補完しつつ、環境活動を支援する資金循環が生まれています。


GX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働と「義務化」への移行

・法的義務の発生
2026年度からは、排出量10万トン以上の企業に対し、排出量の算定・報告および排出枠の過不足に対して、保有や償却が義務化される体制へと移行
しています。排出枠が不足する場合は、市場からの調達(排出枠の購入)や事業者間で排出枠を取引することによって対応することが求められます。

・カーボン・クレジット市場の開設
2023年10月から東京証券取引所がJ-クレジットを取引するためのカーボン・クレジット市場を開設。市場開設以来、2025年1月までに、合計72万t-CO₂の売買が成立しています。

(参照)
カーボン・クレジット市場について(株式会社東京証券取引所 カーボン・クレジット市場整備室)

2. 制度の最新状況(2026年3月J-クレジット制度事務局報告より)

(1)認証量と内訳

累計認証量:年々認証数は拡大し、認証量で約1,300万t-CO₂に達しています。
内訳の傾向:J-クレジット制度の約70方法のうち、省エネが42(約6割)、再生可能エネルギーが9(約1割)とエネルギー系の方法論が7割強を占めます。
無効化(使用)状況:全認証量のうち約半分(760万t-CO₂)が既に企業の目標達成やオフセットに使用されています。

Jクレジットの認証量(累計)

J-クレジット認証量(累計)

(参照)
J-クレジット制度について(J-クレジット制度事務局)

(2)クレジット創出量が多いカテゴリー

・再エネ電力(特に太陽光)が最大ボリュームを占めます。これは単一プロジェクトあたりの創出量が圧倒的に多いためです。
・化石燃料を都市ガスや電化に替えたり、重油をバイオマス燃料に転換するバイオマス・燃料転換も産業部門の主力クレジット源となっています。
・高効率空調やボイラー更新、工業炉改善などの省エネ設備更新は、件数は最大ですが、中程度の創出量にとどまっています。

(3)市場価格の二極化

・二極化
J-クレジット制度の市場では、同じ「t-CO₂」でも価格帯は大きく異なります。低価格帯では数百円〜1,000円台/t-CO₂、高価格帯:5,000円〜1万円超/t-CO₂(場合によってはそれ以上)という差が現れています。

・ストーリー性・先進性が高価格に
森林、地域創生、社会貢献型といったストーリー性・共感性のある手法は高価格帯が多く見られます。一方で、工場の省エネ、設備更新も需要が高まっているため、価格は以前より上昇傾向にあります。は比較的低価格帯が多くなっています。また、希少性が高い、新規性が高い、先進的な手法は価格が上昇する傾向にあります。

3. J-クレジット創出手法の分類

分類 主な内容 需要・価格帯
①省エネルギー ボイラー、ヒートポンプ、照明(LED)、空調設備などの更新による排出削減。 価格が比較的安価で流通量が多い。温対法報告・Scope1対策での需要が多い。
②再生可能エネルギー 太陽光、風力、バイオマスなどの再エネ導入による排出削減。 RE100やSBT報告に使えるため高単価だが、人気が高い。
③工業プロセス 製造工程での排出削減や、温室効果ガスの回収。 流通量は限定的。価格帯はプロジェクトごとの差異が大きく、相対取引が中心。
④農業 水田でのメタン発生抑制、家畜排せつ物管理、バイオ炭の利用など。 供給は拡大フェーズ。食品・小売・外食など「サプライチェーン訴求型企業」に強い。
⑤森林 植林、間伐などの適切な森林管理によるCO₂吸収。 「ストーリー性」が高く、企業のブランディング・地域貢献に強い。同じ森林でも場所・管理主体・ストーリーで価格差が大きい。
⑥廃棄物 廃油の燃料化、廃棄物発電、汚泥の削減など。 自治体・インフラ企業による供給が中心。

4. 今後注目される創出方法

全70種類以上の方法論の中でも、2026年現在の政策動向や市場ニーズから、注目度が上がっているものを挙げます。

①省エネルギー

・プログラム型×小規模省エネ
省エネ分野では、小規模設備を束ねるプログラム型の登録が増加しています。中小企業の省エネ設備更新やサプライチェーン型省エネでは業務用空調や給湯、冷凍・冷蔵設備などを集約することでクレジット化を行う傾向が拡大しています。

(参照)
方法論(J-クレジット制度)


・ビル・店舗分野:AI/IoTを活用したBEMS(エネルギー管理システム)
ビル・店舗分野では、AIやIoTを活用したBEMS(エネルギー管理システム)の導入が進んでいます。従来は大規模ビルが中心でしたが、クラウド型の普及により、小売業や飲食チェーンなど多拠点展開企業でも導入が拡大しています。こうした分散型設備は、J-クレジット制度においても、複数拠点を束ねる「プログラム型」への適用が検討・活用されつつあります。

(参照)
エネルギーマネジメントシステムの導入(J-クレジット制度)

②再生可能エネルギー

・自家消費型太陽光発電
これまでの売電目的から、自社で使う電気を自社で創る「自家消費」へのシフトが加速しています。近年は複数拠点を束ねる「プログラム型」での登録も増えており、中小企業の屋根を活用した分散型のクレジット創出が活発です。

(参照)
太陽光発電設備の導入(J-クレジット制度)


・再エネ×地域連携(ローカルクレジット化)
地域と連携したクレジット創出の取り組みが注目されています。地域新電力や農村・自治体によるプロジェクトでは、単なる発電にとどまらず、地域還元やストーリー性を付加することで、付加価値の高いクレジットとして評価されやすくなっています。

③工業プロセス・新分野

・CO₂の回収・利用
CO₂の回収・利用(CCU)は、産業部門の脱炭素化に向けた新たな手法として注目されています。とりわけコンクリートへのCO₂固定は、製造プロセスの中でCO₂を長期的に固定する技術として期待されています。工業プロセス分野における新たなクレジット創出領域として今後の展開が注目されます。

(参照)
CO₂吸収型コンクリートの使用(J-クレジット制度)

④農業

・バイオ炭の農地施用
木材や竹を炭化して土壌に埋設することで炭素を長期的に固定する手法です。排出削減ではなくカーボン除去に分類されるため、永続性の観点から評価が高く、ESGを重視する企業を中心に需要が拡大しています。

(参照)
バイオ炭の農地施用(J-クレジット制度)


・水田における中干し期間の延長
水を抜く期間を調整することでメタン排出を抑制する手法です。設備投資がほぼ不要で農家が取り組みやすく、J-クレジット制度においても方法論が整備されています。近年は自治体や企業と連携した面的な取り組みが広がりつつあり、地域単位でのクレジット創出が進み始めています。

(参照)
水稲栽培における中干し期間の延長(J-クレジット制度)

⑤森林分野

・「植える」から「使う・循環させる」へ
森林分野では、単なる植林から木材利用と再造林を組み合わせた「循環型の森林経営」への転換が進んでいます。特に成長の早い苗木の導入は、将来的な吸収量の確保に寄与する取り組みとして注目されています。

(参照)
植林活動(J-クレジット制度)

⑥廃棄物(制度的には省エネルギーの方法論として分類)

・廃棄物から得られる熱・電力の利用
廃タイヤ、廃プラスチック、廃油などを化石燃料(重油や石炭)の代替燃料として使用する、あるいは廃棄物発電によって得られた電力を利用する手法です。製造業のボイラーやセメント工場などで、化石燃料由来の排出を直接削減できるため、大規模なクレジット創出が期待できます。

(参照)
廃棄物由来燃料による化石燃料又は系統電力の代替(J-クレジット制度)


・バイオコークスの製造と利用
飲料の茶かす、コーヒーかす、木くずなどの植物性廃棄物を高密度に固形燃料化した「バイオコークス」を、石炭コークスの代替として鋳造炉などで使用します。高温が必要な工業プロセスにおいて、化石燃料であるコークスを代替できる数少ない手段として導入が進み始めています。

(参照)
バイオマス固形燃料(廃棄物由来バイオマス)による化石燃料又は系統電力の代替(J-クレジット制度)

5. J-クレジットの活用先

J-クレジット制度の「活用」フェーズも、2026年現在、大きな転換期を迎えています。従来のように不足する排出削減量を補完する手段にとどまらず、企業価値の向上や競争力強化に資する戦略的な活用へとシフトしています。

活用先の主なカテゴリー

活用カテゴリー 主な内容
企業活動・オフィス
  • 自社の事業所や工場における排出量の補完(オフセット)に活用する。
製品・サービス
  • 商品の製造・廃棄プロセスで出るCO₂を補完し、「カーボンニュートラル製品」として展開。消費者の環境意識に直接訴求する。
イベント
  • 展示会、スポーツ大会、コンサートなどの開催に伴う排出を補完。主催企業のESG姿勢を対外的にアピールする手法として活用される。
会議・出張・物流
  • 役員の移動や製品輸送(Scope3)に伴う排出を補完し、サプライチェーン全体での脱炭素対応に活用する。

注目される活用法

①GX-ETS(排出量取引制度)への直接充当
GXリーグに参加する企業が、自社設定目標に届かない場合、その不足分をクレジットでオフセットする動きが広がりつつあります。2026年4月には排出量取引制度の義務化フェーズが開始され、制度はすでに実装段階に入っています。今後は排出枠の割当や取引の本格化を見据えた対応が求められています。


②ストーリー(地域・環境価値)の活用
クレジットの「背景」にある地域性や環境価値を重視する活用も広がっています。例えば、「地元の森林由来クレジットを購入し、その資金を地元の林業振興に還元する」など、単なるCO₂の相殺だけでなく、「地域共創」や「ネイチャーポジティブ」への貢献という文脈をセットにすることで、企業価値の向上につなげる動きが強まっています。

6. J-クレジットの具体的創出事例

創出方法の具体例

分類 手法 内容
①省エネルギー 高効率ガスシステムの導入 飲料製造メーカーでは、灯油ボイラーを高効率な都市ガスボイラーへ転換し、排出削減量をクレジット化。創出されたクレジットは大阪ガスが購入し、地域イベントのカーボン・オフセットなどに活用されている。
照明・空調の高効率化(プログラム型) 日本トイザらスは、自社が管理運営者となり、全国の店舗・倉庫を対象としたプログラム型プロジェクトを展開。照明のLED化や高効率空調への更新を一体的に進め、クレジットを創出している。
②再生可能エネルギー 下水由来バイオガス発電 福岡県宗像市は、「下水道の見える化」を掲げ、浄水場で発生するバイオガスを活用した発電を実施。創出されたクレジットを地元企業が優先的に購入する地域循環モデルを構築している。
分散型太陽光の集約(プログラム型) 長谷川電気工業所は、全国の事業所に設置された自家消費型太陽光発電設備を集約し、プログラム型プロジェクトとしてクレジット化。中小規模の分散電源を束ねるモデルである。
廃棄物由来燃料の活用 TOAシブルは廃棄物由来の再生燃料を使用し、化石燃料の代替による排出削減をクレジット化。コンソーシアム型のプロジェクトとして展開している。
③工業プロセス 低炭素コンクリートの利用 大林組は、セメント使用量を削減した低炭素コンクリートを採用し、製造時のCO₂排出を削減。これによりクレジット創出を実現している。
④農業 バイオ炭の農地施用 クルベジ(福知山市など)は、未利用の竹や剪定枝をバイオ炭化し農地に施用。炭素を長期固定するとともに、「カーボンマイナス野菜」としてブランド化。企業によるクレジットの指名買いも見られる。
水田における中干し延長(付加価値型) 水田の中干し期間を延長することでメタン排出を抑制する手法に、生物多様性の観点を付加したクレジットの開発も進んでいる。大阪ガスは環境DNAを活用し、生態系への影響評価を組み合わせた取り組みを展開している。「生物多様性への影響がない」と証明されたクレジットは、TNFD開示を急ぐ企業からも注目される。
⑤森林 森林管理と多様な創出者が参加できる仕組みづくり 住友林業や三井物産は、人工林の適切な管理を支えることに加え、天然林が持つ地域の貴重な環境資源を守る仕組みを創出。住友林業は、森林クレジットを創出する林業事業者をサポートしつつ、クレジットを購入したい企業・団体とのマッチングを行うプラットフォームサービス「森かち」をリリース。
自社管理森林の間伐とその活用 東急不動産は自社管理森林の間伐を実施し、木材を建材や家具として活用。未利用材はバイオマス燃料として利用することで、資源循環と排出削減を両立している。
⑥廃棄物 食品廃棄物の堆肥化 北海道士別市は、食品廃棄物処理を埋立から堆肥化へ転換。埋立時に発生するメタンを回避し、排出削減をクレジット化している。

(参照)
①省エネルギー
高効率ガスシステムの導入によって創出されたクレジットを地域イベントへのカーボン・オフセットで活用 菊正宗(J-クレジット制度)
J-クレジット制度 プロジェクト計画書 日本トイザらス(J-クレジット制度)
分類S(省エネ設備の導入)-購入先設定なし(J-クレジット制度)

②再生可能エネルギー
福岡県宗像市 J-クレジット創出・活用事例集(経済産業省 九州経済産業局)
J-クレジット制度 プロジェクト計画書 長谷川電機工業(J-クレジット制度)
廃棄物由来燃料によるGHG削減で国内初のJ-クレジット承認(TOAシブル)

③工業プロセス
分類S(省エネ設備の導入)-購入先設定なし 大林組(経済産業省 九州経済産業局)

④農業
J-クレジット制度 プロジェクト計画書 クルベジ(J-クレジット制度)
水田の中干し期間延長による生物多様性への影響を可視化〜国内初となる生物多様性に関する価値を付加した水田J-クレジット創出に貢献〜(大阪ガス)

⑤森林
GXの出遅れが命取り。創出量15倍に拡大の「森林クレジット」が今注目されるワケ(住友林業)
山梨県と三井物産 森林由来J-クレジット創出へ連携 FSC認証林由来として国内最大の128万t-CO₂を創出(三井物産)
森林吸収系Jークレジットの非炭素プレミアム価値を訴求するための手引き 東急不動産(林野庁)

⑥廃棄物
J-クレジット制度 プロジェクト計画書 北海道士別市(経済産業省 北海道経済産業局)

7. まとめ

J-クレジット制度は、従来の「排出削減量の補完手段」から、「環境価値を選び、活用する戦略ツール」へと位置づけが変わりつつあります。再生可能エネルギーや省エネによるクレジットは引き続き供給の中心である一方、森林やバイオ炭、地域連携型プロジェクトなど、ストーリー性や環境価値の高いクレジットへの需要が高まり、市場は二極化の様相を見せています。また、小規模・分散型の取り組みを束ねるプログラム型の拡大により、サプライチェーン全体での活用も進み始めています。企業にとっては、単に不足分を補う手段としてではなく、目的に応じてクレジットを使い分ける視点が重要です。コスト最適化を重視する場合は汎用的なクレジットを活用し、ブランド価値やESG評価を高めたい場合は、地域性や環境貢献が明確なクレジットを選択するなど、戦略的な組み合わせが求められます。さらに、自社やサプライチェーンでクレジットを創出する側に回ることで、コスト削減と価値創出の両立を図る動きも今後一層重要になっていくと考えられます。

箕輪 弥生(みのわ やよい)
このコラムの著者

箕輪 弥生(みのわ やよい)

環境ライター・ジャーナリスト
NPO法人「そらべあ基金」理事

環境教育から企業の脱炭素、循環型ライフスタイルまで幅広いテーマで環境分野の記事や書籍の執筆・編集を行う。NPO法人「そらべあ基金」では子供たちへの環境教育や自然エネルギーの普及啓発活動に関わる。個人的にも太陽熱や雨水を使ったエコハウスに住む。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」文化出版局、「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」・「環境生活のススメ」飛鳥新社 他。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)会員。また、2015年〜2018年「マイ大阪ガス」で「世界の省エネ」コラムも連載。

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