燃料価格の高騰や調達の不安定化を背景に、企業の物流戦略は見直しを迫られています。同時に、ドライバー不足や長距離輸送の非効率性といった日本の物流が抱える構造的課題からも、モーダルシフトへのニーズはこれまでになく高まっています。その手法は、長距離輸送をトラックから鉄道や船舶へ切り替え、トラックはラストマイルに特化するといった従来型の取り組みにとどまりません。現在では、輸送手段の最適化に加え、物流全体の環境負荷低減や、物流拠点を含めたエネルギー供給構造の再設計といった、より広範な視点での対応が進んでいます。本コラムでは、エネルギー危機を契機とした物流を取り巻く環境変化を整理するとともに、次世代モーダルシフトの動向について解説します。
目次
1. エネルギー危機が変える物流とエネルギーコスト
ウクライナ情勢や中東リスク(イラン情勢)による原油価格の高騰
ロシアによるウクライナ侵攻以降、原油を中心にエネルギー市場が大きく揺らいでいます。さらに中東情勢、とりわけホルムズ海峡を巡る緊張の高まりが、エネルギー供給不安を断続的に増幅させています。これらは単なる一時的な価格上昇にとどまらず、エネルギー調達の不確実性そのものを高める要因となっています。
物流コストに占める「燃料費」の比重が急上昇
エネルギー危機の影響を最も直接的に受けているのが物流コストです。トラック輸送では軽油価格の上昇が即座に運行コストに反映されるため、従来は比較的安定していた輸送単価が大きく変動するようになりました。加えて、海運における重油やLNG燃料の価格上昇や燃料サーチャージの増加が重なり、物流費に占める燃料費の比率は大きく上昇しています。つまり、「どの輸送手段を選ぶか」がそのままエネルギーリスクに直結する構造へと変化しています。
「Scope3排出」にかかわる輸送・配送
「Scope3排出」とは、自社の直接排出(Scope1)や購入電力に伴う間接排出(Scope2)に対し、サプライチェーン全体における間接排出を指します。このうち物流に関連する主な領域は、原材料や製品を調達する際の「上流の輸送(カテゴリ4)」と、製品を顧客に届ける「下流の輸送(カテゴリ9)」です。つまり、自社で輸送手段を保有していない場合でも、委託先による輸送に伴う排出は自社の責任として評価されます。
これまで物流は、「いかにコストを抑えて運ぶか」という観点で最適化されてきましたが、現在は、これに加えてCO₂排出量も重要な指標となり、「物流コスト」と「排出量」の両方を意識した判断が求められています。カーボンプライシングの導入が進めば、排出量の多い輸送は将来的にコスト面でも不利になる可能性があります。
2. 日本の物流の構造的課題
国内貨物輸送の大半をトラックが担う構造
日本の貨物輸送は、長年にわたりトラックが中心的な役割を担ってきました。実際、重量ベースでは国内貨物輸送の9割以上をトラックが占め、活動ベースでも5割を超えるなど、依存度の高い構造となっています。
国内貨物輸送の機関別分担率
| 輸送機関 | トンベース(重量) | トンキロベース(活動量)※ |
|---|---|---|
| 自動車(トラック) | 91.7% | 57.1% |
| 内航海運(船舶) | 7.6% | 38.2% |
| 鉄道 | 0.7% | 4.5% |
※ 距離×重量=トンキロベース
「2024年問題」に象徴されるトラックの輸送能力の低下
いわゆる物流の2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーに対して時間外労働の年間960時間上限規制、および改正改善基準告示が適用されたことにより、労働時間の制約が強まり、ドライバー不足と相まって輸送能力の低下が懸念される問題を指します。
全日本トラック協会の調査(2025年3月発表)によれば、約34%の運送事業者が「受注する仕事を減らした(受注抑制・拒否)」と回答しており、無理な運行が困難になった結果、実際に受注量を抑制する動きが顕在化しています。
長距離輸送の非効率性(エネルギー・人材の両面)
長距離輸送の多くをトラックが担っているため、燃料消費量が増大しやすく、原油価格の高騰がそのままコスト増に直結する構造になっています。また、日本特有の商慣行として、多頻度・小口配送や厳格な時間指定が求められることから、積載率が伸びにくい傾向があります。さらに、往路は満載でも復路が空車となるケースが多く、いわゆる「空気を運ぶ」非効率な輸送が発生しています。
一方、人材面の課題も深刻です。長距離トラック輸送では、運転時間に加えて荷待ちや荷役作業を含む長時間労働が常態化してきました。その結果、若年層の新規参入が進まず、ドライバーの高齢化が急速に進行しています。
(参照)
道路貨物運送業の年齢構成(内閣府)
「物流効率化法」の制定による「特定荷主」への義務化
2026年4月施行の物流効率化法により、荷主および物流事業者には物流効率化に向けた取り組みが義務付けられました。一定規模以上の企業は「特定荷主」として位置付けられ、荷待ち時間の削減や積載率の向上などを計画的に進める必要があります。これらの取り組みが不十分な場合には、勧告や公表の対象となる可能性があります。
また、本法では、複数企業による共同配送や物流拠点の統廃合、モーダルシフトなどの取り組みを「総合効率化計画」として認定し、税制優遇や補助金などによる支援措置も講じられています。
3. モーダルシフトが変える輸送のかたち
日本の物流が抱える構造的課題に加え、脱炭素やカーボン排出管理の要請を背景に、環境負荷の大きいトラック輸送から、鉄道や船舶など環境負荷の低い輸送手段へ転換する「モーダルシフト」が注目されています。なお、物流効率化法の施行以降は、従来の鉄道・船舶に加え、航空機やダブル連結トラック、自動運転トラックなども対象として位置付けられています。
(1)鉄道貨物の活用拡大
長距離輸送の鉄道シフトへの動き
鉄道は、大量かつ長距離輸送に強みを持つ輸送手段です。貨物列車1本(26両)は、10トントラック約65台分に相当する輸送力を有するとされており、エネルギー効率の面でも大きく優位性があります。特に輸送距離が長くなるほどコスト低減効果が高まるため、長距離の幹線輸送をトラックから鉄道へシフトし、トラックは集荷・配送(ラストマイル)に特化する動きが強まっています。
JR貨物によるダイヤ改正・JR東日本による列車荷物輸送拡大
2026年3月、JR貨物が大規模なダイヤ改正を行い、東京〜大阪間の輸送力を大幅に増強するなど、モーダルシフト需要の高まりに対応する体制を強化しました。また、JR東日本は従来の在来線による列車荷物輸送サービス「はこビュン」に加え、同年3月からは荷物専用新幹線の運行も始まりました。さらに、大型トラックと同等の積載が可能な31フィートコンテナの導入拡大など、積載効率の向上に向けた取り組みも進められています。
(2)海運(内航船)の活用拡大
エネルギー効率の優位性
内航海運(国内の船舶輸送)は、トラック輸送と比較してエネルギー消費量およびCO₂排出量が大幅に少なく、約5分の1程度とされるなど、エネルギー効率の高さが大きな特長です。
フェリー・RORO船・コンテナ船の利用
国土交通省は、トラック輸送の一部(約1500万トン規模)を内航海運へ転換する数値目標を掲げ、補助制度やインフラ整備を通じてモーダルシフトを推進しています。
具体的には、フェリー・RORO船(※)、港湾における荷役効率の向上が進められています。
※ RORO(Roll-on Roll-off)船:車両やトレーラーなどをそのまま積み下ろしできる専用の貨物船。クレーンを用いる従来のコンテナ船とは異なり、荷物の積み替えなしで効率よく輸送することが可能。
労働制約への対応
海運の活用は、ドライバーが乗船中に休息を取ることが可能である点や、長距離輸送を代替できる点から、運送事業者にとって労働環境の改善にも寄与します。
(3)ダブル連結トラック
ダブル連結トラックは、1台のトラクターで2台分のトレーラーを牽引する大型車両です。
物流拠点と貨物駅、または港湾との接続を担うフィーダー輸送(中継輸送)として機能し、鉄道や海運と組み合わせた効率的な物流ネットワークの構築に寄与します。
4. 次世代モーダルシフト
(1)自動運転トラック
自動運転トラックは、長距離幹線輸送の省人化や隊列走行による省エネ効果が期待されています。現在は、日本通運など複数企業により、自動運転トラック(レベル2)と貨物鉄道を組み合わせた新しいモーダルシフトの実証実験が行われており、輸送効率と人手不足の同時解決に向けた取り組みが本格化しています。
(2)EVやFCトラックの利用
EVトラックは主に都市内配送を中心に導入が進んでおり、水素を燃料とするFC(燃料電池)トラックは長距離輸送の代替手段として実証および商用化が始まっています。両者は距離や用途に応じて使い分けられ、鉄道や船舶と組み合わせることで、物流全体の脱炭素化と効率化を進めることができます。
(3)AIを使った物流最適化
物流分野においてもAIの導入が急速に進展しています。大手物流企業では、航空・海運・鉄道・トラックといった複数の輸送手段を横断し、通関時間や港湾混雑、さらには地政学リスクまで考慮したうえで、AIが最適な輸送ルートを動的に選択する仕組みが実用化されています。輸送モードの選択や需要予測、リスク回避を統合的に最適化することで、物流は「運び方」にとどまらず、「運ぶ量」や「タイミング」まで含めた設計へと進化しています。
(4)物流拠点のエネルギー供給基地化
冷蔵物流を担う拠点では、太陽光発電を設置し、蓄電池を併設して余剰電力を貯めてピーク時に活用するという取り組みが進んでいます。また、物流拠点が「発電+蓄電」することで、EVトラックへの充電利用なども始まっています。先進的な事例としては、大手自動車メーカーが海外の港湾物流拠点においてバイオマス由来の水素を製造し、電力や燃料として活用することで、ゼロエミッション物流の実現を目指す取り組みがあります。
(5)港湾は「物流×エネルギー」の拠点へ
港湾は従来の物流拠点から、エネルギー供給機能を併せ持つハブへと変化しつつあります。横浜港や神戸港では水素を軸とした供給網の構築が進み、東京港では陸上電源や港湾機能の電動化が進展しています。モーダルシフトは単に輸送手段を船に切り替えるだけでなく、港湾を起点にエネルギーと物流を一体的に再設計する段階に入っています。
国土交通省も、港湾を「カーボンニュートラルポート」として再設計する方針を打ち出しています。
カーボンニュートラルポート(CNP)のイメージ
港湾でのLNG燃料船へのバンカリング
LNG(液化天然ガス)を燃料とする船舶に対し、港で燃料を供給する「バンカリング」が国内外で進んでいます。LNGは従来の重油よりCO₂排出が少なく、海運分野の脱炭素化とモーダルシフトを同時に支えるインフラとしてとらえられています。
今後は、LNGだけでなく、e-メタン(合成メタン)や水素といった次世代燃料への展開も期待されています。
DaigasグループでもLNG燃料船へのバンカリングを実施しています。
5. モーダルシフト実例
| 種類 | 手法 | 実施内容 |
|---|---|---|
| 鉄道へのシフト | 従来トラック依存だった工場間輸送を鉄道へシフト | ・コマツは、石川県の工場〜茨城県の工場(約600km)を鉄道輸送へ転換。 ・専用コンテナを開発し重量物輸送に対応。 |
| ビールメーカー4社の鉄道による「共同モーダルシフト」 | ・アサヒビールとキリンビールなど複数社が共同輸送。 ・北陸向け輸送をトラック→鉄道へ転換。 ・競合企業同士で積載を集約。 ・積載効率を構造的に解決。 |
|
| 青森県新幹線モーダルシフト | ・2025年4月から、新青森・東京間で新幹線の客室を活用した多量輸送を実施。 ・青森県産食材を高鮮度で大消費地である首都圏に運ぶことで地方創生に寄与。 ※国土交通省令和7年度地域連携モーダルシフト等促進事業事例集より |
|
| 船舶へのシフト | 国内輸送距離の約98%を海上輸送にて輸送 | ・島村楽器は、中国から輸入してきた楽器を一旦、福岡に納品、その後東京有明港まで船で輸送。 ※令和7年度 エコシップ・モーダルシフト事業 優良事業者より |
| 電源使用の無人トラックを乗船 | ・ロッテは2007年から、『電源使用の無人トラック』を乗船させる方式を採用。 ・東京港〜博多港を1日3台と乗船台数の増加を図った。 ※令和7年度 エコシップ・モーダルシフト事業 優良事業者より |
|
| フェリーによる海上輸送と積載量の拡大 | ・日本製紙クレシアは、家庭紙を仙台港〜名古屋港のフェリーで輸送。 ・パレットの2段積載を可能とした事で、積載効率向上を実現。 ※令和7年度 エコシップ・モーダルシフト事業 優良事業者より |
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| ダブル連結トラック | 長期的モーダルシフト+ダブル連結トラック | ・味の素は1990年代から鉄道・船へのシフトを推進し、長距離輸送の約85%を鉄道・船で対応。 ・近年は、ダブル連結トラックを導入し、通常の約2.5倍の輸送力を達成。 |
| 菓子メーカー×物流企業のダブル連結トラックによる共同配送 | ・新潟県と埼玉県の間をダブル連結トラックで幹線輸送。 ・ブルボンなど新潟県の菓子メーカーと物流企業が共同で運行。 |
|
| 次世代モーダルシフト | AIで幹線輸送×需要予測・配車最適化 | ・日本通運はAIで輸送需要を予測し、トラック・鉄道・船の最適な組み合わせを設計。 ・幹線輸送の配車を最適化。 ・繁忙期の車両・人員配置を事前最適化。 |
| シンガポール港のエネルギー供給拠点化 | ・2016年以降、LNG燃料船への供給を本格開始。海運のモーダルシフト(低炭素化)を燃料側から支える。 ・停泊中のコンテナ船に対し陸上から電力供給。 ・グリーンメタノールの供給に向けた枠組みを整備。 |
(参照)
令和7年度地域連携モーダルシフト等促進事業事例集(国土交通省)
令和7年度 エコシップ・モーダルシフト事業 優良事業者(エコシップ・モーダルシフト事業実行委員会)
全長25m“ダブル連結トラック”導入!共同配送でドライバー不足解消・物流効率アップへ 1台で2台分の輸送量確保(FNNプライムオンライン)
LNGバンカリング拠点を目指すシンガポール港(日本港湾協)
Singapore to Award Licences for Methanol Bunkering(シンガポール海事港湾庁 MPA)
Komatsu with new intermodal transport in Japan(コマツ)
日本通運×JR貨物が推進する「モーダルシフト」の可能性ーービールメーカー4社が物流で協業を実現(アサヒ・キリン・サッポロ・サントリー)
Modal Shift: a flexible logistics solution that eases truck driver shortages while reducing environmental impacts(味の素)
6. まとめ
燃料調達の不確実性や価格高騰を背景に、モーダルシフトの必要性はこれまでになく高まっています。従来は競合関係にあったトラックと鉄道・船舶も、いまや幹線輸送において相互に補完し合う関係へと移行しつつあります。こうした構造変化の中で企業には、物流コストとCO₂排出量という2つの指標を同時に最適化する物流のベストミックスを構築する視点が求められています。また、AIによる物流最適化や、自動運転・ダブル連結トラックの活用、EV・燃料電池トラックの導入といった技術革新が進むことで、物流の効率化と脱炭素化は同時に実現可能な領域へと入りつつあります。加えて、再生可能エネルギーや水素、e-メタンといった次世代エネルギーの供給インフラ整備が進めば、輸送手段そのものの脱炭素化も加速していきます。モーダルシフトはもはや単なる輸送手段の転換ではなく、エネルギーと物流を一体で捉え直す取り組みへと進化しつつあります。




