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コロナ禍後の原油価格高騰

世界はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けて動き出している。国際社会が脱炭素への動きを加速する状況において、炭酸ガスを排出する化石燃料の代表といえる原油価格が、2021年秋以降高騰。2022年に入っても、米国の指標原油WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は高値が続いている。
原油価格高騰の要因は大きくつぎの4つが挙げられる。①コロナウイルス感染収束の兆しに応じた経済活動の再開。②世界的な寒波、猛暑による暖・冷房用の需要の増加。③景気回復を抑制する「OPECプラス」の小幅な協調減産緩和(増産)。④米国のシェール・オイル生産企業の、新規油田開発投資に対する慎重策。などがある。

原油価格、LNG価格は脱炭素政策のもと大きく変動する

先の原油価格を見通すと、原油価格高騰と原油価格暴落の両方の可能性が考えられる。暴落の要因として挙げられるのは3点。①オミクロン株の感染拡大に伴う、ロックダウン・行動制限等による石油需要の減少。②資源エネルギー・インフレーション対策から、各国が金融引き締め政策を行い原油先物市場にマネーが流れ込まなくなる。③「OPECプラス」の原油生産量の引き上げで、世界の石油需給が供給過剰となる等である。
高騰する可能性としては、①ワクチンの接種・治療薬の開発等により、新型コロナウイルスの感染拡大が収束し世界経済が順調に拡大した場合。②「OPECプラス」が協調減産緩和を続けて原油生産量を引き上げても、米国をはじめとした石油消費国の追加増産要請に応えられず、原油が国際石油市場に溢れかえる可能性が小さいこと。③脱炭素の加速で、石油メジャーによる新規油田の開発投資が、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーへの投資を下回った場合である。
多くの石油企業は、洋上風力発電の強化等、石油以外の総合エネルギー企業に変貌しようとしている。しかし、2022年時点において、自動車用ガソリン、航空機用ジェット燃料、石油化学原料として、石油よりも、量的・経済的に優れたエネルギーはない。脱炭素の流れのなか、石油が優れたエネルギーであるという現実こそが、脱炭素時代の原油価格高騰の深い意味といえる。世界の自動車保有台数15億台のうち電気自動車(EV)は1,000万台と1%に満たない。景気回復により、自動車の動きが活発になれば、石油需要は瞬く間に増加する。新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、世界の石油需要が増加する状況において、米国のシェール・オイルの生産量が伸び悩めば、原油価格は1バレル100ドルを超える可能性もある。
一方、LNGは炭酸ガスの排出量が石炭の半分程度であるクリーンなエネルギーであることから、石炭火力発電から天然ガス火力発電への切り替えが行われ、2030年までLNG需要は年率5%以上の伸びが見込まれている。2021年に中国は日本を抜いて、世界最大のLNG輸入国となった。冬季オリンピックを控え、地球温暖化対策、大気汚染防止策として、LNG輸入を増加させる姿勢を見せている。中国のLNG輸入量増加は、国際LNG市場の需給を逼迫させ、LNGスポット価格にも影響を与える。
ラニーニャ現象による寒波の来襲で、2022年冬も暖房用の天然ガス火力発電の増加により、スポットLNG争奪戦が起こり、北東アジアのLNGスポット価格に影響を与える可能性もあると考えられる。真夏の昼間の電力需要時には、太陽光発電がフル稼働して電力不足を補うことができるが、冬の寒波来襲時には太陽光発電が稼働せず、天然ガス火力発電に負荷がかかる。再生可能エネルギーの割合を引き上げれば、天候で出力が変動する太陽光発電、風力発電の調整用電源としてクリーンな天然ガス火力発電への期待が増す。
この2年間、日本および世界は新型コロナウイルスに振り回されてきた。2022年は脱炭素の動きによる化石燃料への投資抑制と、石油・LNG需要の現実的な増加という状況のもと、原油、LNG価格の動きに注視したい。

エネルギー
よもやま話

COP26が残した成果と課題
−石炭火力発電の扱いの難しさ

約200の国・地域が話し合うCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が、2021年10月に英国グラスゴーで開催された。コロナ禍を経て、近年の異常気象もあって、世界各国、環境保護団体の気候変動対策、脱炭素への関心が一段と強まるなか、会議は熱気を帯びた2週間となった。しかし、世界全体が一つとなって気候変動対策に取り組む努力を表明した意味は大きいが、同会議が残した課題は多い。地球環境保護という総論に反対する国はないが、具体的な対策となると各国の利害対立が先鋭化した。
 人類の経済活動によって、地球の気温は産業革命期から既に1.1度上昇しており、COP26が目標とする気温上昇を1.5度以内とするためには、世界の炭酸ガス排出量を2030年までに2010年比45%削減し、21世紀半ばまでに実質ゼロとする必要がある。しかし、現時点の各国の目標では2030年の温室効果ガス排出量は逆に13.7%増加してしまう。
 中国、インドは、先進国と比較して一人当たりのエネルギー消費量が少なく、さらなる経済発展と国民生活の向上を望んでいる。米国には気候変動対策に消極的で、脱炭素政策より経済成長を優先する共和党の反対論が存在する。サウジアラビアをはじめとした産油国は、石炭をはじめとした化石燃料の早急な消費抑制を求める先進国の姿勢に不満を持っていて、石炭、石油をはじめとした化石燃料にも一定の投資を促す配慮を求めている。はっきりとしたロード・マップがない脱炭素政策は、原油価格の高騰を招くと警鐘を鳴らす。日本、米国をはじめとした先進国は、首相、大統領が会議に参加したものの、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領は会議に出席しなかった。
 議長国英国がこだわった「石炭火力発電の廃止」については、インド、中国が強硬な反対姿勢を示した。両国にとって石炭火力発電の比率は極めて高く、重要な電源である。経済成長にともなう電力需要の増加を考えると、安価で発電容量が大きい石炭火力発電の廃止には合意できない。途上国に対する資金支援の不足への不満も露呈した。途上国から見れば、先進国が途上国に炭酸ガス排出削減を迫るならば、まず先進国が資金と技術を提供すべきという本音がある。
 全会一致の原則があるCOPにおいて、地球温暖化に危機感を抱く欧州諸国、島嶼国と、経済成長を優先させたい途上国、石炭火力発電、ガソリン車を一定程度維持したい日本、米国の利害が対立。英国が一部の賛成する国だけと、「石炭火力発電廃止」、「脱ガソリン車」の変則的な合意を行ったが、米国、日本、中国はその合意に参加しなかった。
 豊かな生活を送る先進国が、脱石炭、再生可能エネルギー重視ということは易しいが、今後も年率5〜10%の電力需要の伸びが見込まれ、エアコン、パソコン等を利用して快適な生活を送りたいと考えるアジアの人々に、安価で大量に賦存する石炭を禁止することは難しい。人口が多く、電力需要が伸びる国々においては、石炭火力発電は超超臨界圧石炭火力発電等の効率を向上させて、一定程度残ることは間違いない。
 日本も再生可能エネルギーに適した平地が少なく、原子力発電の新設も難しい状況で、炭酸ガスの排出量が少ない高効率なIGCC(石炭ガス化複合発電)、アンモニアの混焼という石炭火力発電の利用と、現実的なエネルギー政策として炭酸ガスの排出量が石炭の半分程度に過ぎないLNG火力発電の利用を促すことが、2030年に向けての炭酸ガス排出削減に有効であると考えられる。脱炭素という理想と現実の利害対立をどのように調整するのか。これからも、私たちは2030年の中間目標に向けて悪戦苦闘が続くものと思われる。

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ENERGY BUSINESS PRESS vol37(PDF)