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米国のパリ協定復帰

2020年11月に行われた米国大統領選挙で勝利したバイデン大統領は、就任後ただちにパリ協定に復帰。2035年までに発電部門のCO2排出を、2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにすることを目指した。石油・石炭等の化石燃料が排出するCO2について、CCS*を行うとしている。
米国のパリ協定復帰は、世界のエネルギー・環境政策に大きな影響を与える。先進国と途上国が一体となった地球温暖化対策の取り組みが、本格化することが見込まれるからである。
米国のエクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップスをはじめとした石油企業は、石油の開発時に排出されるCO2を2050年までに実質ゼロとすることを求められている。欧州の石油メジャーのBP(British Petroleum)、ロイヤル・ダッチ・シェル等は、開発時のCO2排出実質ゼロを目標に掲げ、石油・天然ガスのみならず、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの開発を含めた総合エネルギー企業に脱皮することを表明している。
米国のテスラをはじめとしたEV(電気自動車)開発企業、風力発電に注力するGE(ゼネラル・エレクトリック)等にとっては、バイデン政権のエネルギー政策は追い風となる。世界的に自動車の環境規制が厳しくなることから、水素を燃料とした燃料電池車の普及が期待される。日本も欧州諸国に遅れて、2050年に温暖化ガス排出量実質ゼロを表明したが、バイデン政権誕生を見据えたエネルギー・環境政策といえる。

ブルー・ステートとレッド・ステート

しかし、バイデン大統領の誕生で原油価格は逆に上昇している。一つの理由として挙げられるのは、トランプ候補の予想を超えた善戦と上院・下院選挙で共和党が劣勢を覆したことである。石油・天然ガス生産が多い、テキサス州、ルイジアナ州、オクラホマ州、ノースダコタ州等は全てトランプ候補が勝利している。
米国といっても、一つの国としてのまとまりはない。2035年までにガソリン車、ディーゼル車の販売禁止を決めたカリフォルニア州等の民主党支持のブルー・ステートと、テキサス州のようなレッド・ステート(共和党支持州)間の意見の隔たりは大きい。米国の分断から修復を訴えるバイデン新大統領にとっても、国民の半分近くを占める石炭産業、石油産業支持の声を無視することはできない。

グリーン・リカバリーの選択

自動車の燃費規制、排ガス規制を強化するとしても、カリフォルニア州のような厳しい環境規制を全ての州に求めることは難しい。共和党を支持した州においては、引き続き大型のガソリン車が人気を集めることとなろう。
シェール・ガスを原料としたLNG(液化天然ガス)の輸出拡大による米国の貿易収支改善効果は、バイデン大統領も理解している。単位熱量当りのCO2排出量が石炭の半分程度のLNG輸出拡大戦略は、今後も続けられるものと考えられる。米国のシェール・ガスの生産量は史上最高を更新し、米国国民は安価な天然ガスの恩恵を受け、米国のLNG輸出は増加を続けていて、2022年にはカタールを抜いて、世界最大の年間8,000万トンの輸出能力を持つことが見込まれている。
もちろん、バイデン新大統領の勝利の一因となった民主党環境保護派が、より極端な脱化石燃料政策を求めてくる可能性は考えられる。しかし、上院の過半数を共和党が掌握すると、環境規制を強化する法律が通らず、再生可能エネルギー普及のための予算が可決しない。過度なCO2排出規制を行うと、2年後の中間選挙において民主党は劣勢を強いられる…。バイデン政権のもとで世界は低炭素社会構築への足がかりを得たものの、今後4年間のエネルギー政策は、石油、天然ガスの長所を活かしながら、再生可能エネルギーの普及、水素関連技術の磨き上げにより、漸進的なCO2の排出削減によるグリーン・リカバリー(新型コロナウイルスの感染拡大防止、地球環境保護と経済成長の両立)をはかる可能性が強いのである。

*Carbon Capture and Storageの略で、石炭・石油の燃焼時に排出する炭酸ガスを分離・回収して、地下に貯留し、大気にCO2を放出しない技術のこと。CCSが低コストで実現できるならば、地球温暖化対策をはかりながら、今後も石炭・石油の利用を続けることが可能となる。

エネルギー
よもやま話

新型コロナウイルスと原油価格の行方

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)宣言が、2020年3月にWHOから出されて1年が経過する。2020年は現代文明にとって、未曾有ともいえる感染症との戦いの1年で、世界経済は戦後最悪の景気停滞に見舞われている。AI(人工知能)、IT(情報通信技術)が進歩しているとはいえ、未知のウイルスと戦うにあたって実効性のある手段は、ヒトとヒトが接触しないようにするという極めて前近代的な方法しかない。
ヒトの動きを止めることは、経済活動に甚大な打撃を与える。特に、自動車用ガソリン、航空機用ジェット燃料をはじめとした輸送用燃料が用途の6割を占める石油需要は、人々の移動の禁止などにともない激減。2020年4月にWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油価格が歴史上初めてのマイナス価格(最安値1バレル当りマイナス40.32ドル)を記録するなど、想像を絶する暴落をみせた。しかし、5月以降はOPEC加盟国と非OPEC加盟国によるOPECプラスが、日量970万バレルに達する過去最大の協調減産を実施したことから、WTI原油価格は6月以降低位安定し、12月上旬にはWTI原油価格1バレル45ドル、北海ブレント同49ドル程度と上昇基調に移った。
2021年の原油価格を見通すと、新型コロナウイルスの感染拡大が続いているものの、WTI原油価格は1バレル40〜50ドルと堅調な動きをすることが見込まれる。その要因としては、OPECプラスの12月会合でロシア、UAE(アラブ首長国連邦)等が協調減産で合意したこと。新型コロナウイルスのワクチンの承認・接種の動きが欧米先進国で始まり、景気回復による石油需要増加が期待されること。感染拡大対策として各国が強力な金融緩和政策を実施したことで溢れたマネーが、原油先物市場に流れ込んでいること。金融緩和政策が2021年を通じて続けられることから、ニューヨークのダウ平均株価が史上最高値を更新し、商品市況は強気の動きを見せていること。当初、石油業界に対して厳しいといわれた米国のバイデン新大統領の環境政策が緩かったこと。世界各国が〝Withコロナ〟のもと、経済活動と感染拡大防止の両立の動きを強めていること等が挙げられる。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が収束したとしても、ニューノーマルな生活様式(リモートワークや不要不急の外出・移動の自粛、オンラインショッピング等)が部分的に定着することから、航空機用ジェット燃料の需要が戻るには2〜3年程度は必要となるだろうといわれている。
反対にワクチンに効果が認められず新型コロナウイルスの感染がさらに拡大し、再び世界的規模のロックダウンが余儀なくされた場合には、原油価格暴落も起こりうる。産油国においても、国営石油企業サウジアラムコの海外上場を視野に入れて原油価格を高値に維持したいサウジアラビアと、減産に我慢できず原油増産を行いたいイラク、ロシア、UAEとの間には温度差がある。OPECプラスの側には協調減産によって犠牲を強いられているという不満が燻っている。2021年に入ってから毎月開催されるOPECプラスの会合は、新型コロナウイルスの感染状況による世界経済の動きと協調減産幅縮小の両睨みとなっている。
ただ、「協調減産交渉決裂→原油価格暴落」という状況は避けたいという立場は一致していて、2021年を通じてWTI原油価格が1バレル40〜50ドル、原油価格連動LNG価格が百万Btu(ブリティッシュ熱量単位)当り6ドル〜8ドルというレンジとなると見込まれる。