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第5次エネルギー基本計画の課題

企業と国民生活にとって極めて重要なエネルギー政策の骨格を決めるエネルギー基本計画(第5次)が、今年7月、4年ぶりに閣議決定された。エネルギーを巡る国内外の情勢変化を踏まえて、2030年、更に2050年を見据えた新たなエネルギー政策の方向性を示すものである。意欲的な目標、政策が述べられているものの、いくつか気になる課題も見えている。
まず第1に、2030年度における電源構成について、従来の政策を変えなかったことである。原子力発電20〜22%、再生可能エネルギー22〜24%、石炭火力発電26%、LNG火力発電27%という電源構成は、2015年に決めた第4次エネルギー基本計画を踏襲したに過ぎない。なかでも原子力発電の新増設に対する考え方に注目が集まったが、世論でも賛否が割れていることから、踏み込んだ検討を行うことなく課題が先送りされた感がする。
第2に、再生可能エネルギーを主力電源化すると初めて明記したものの、出力変動が不安定で発電コストが割高な再生可能エネルギーを、どう国民生活の発展に活かすかが明確になっていない。2012年の固定価格買取制度の導入で太陽光発電の普及に成果が見られたものの、建設コストや発電コストがEU諸国の2倍に達する状況への具体的な対応策の検討が今後も求められる。
第3に、炭酸ガス排出量が多い石炭火力発電の取り扱いである。エネルギー基本計画では超々臨界圧石炭火力発電、石炭ガス化複合発電といった高効率石炭発電の最先端技術の開発と、石炭火力発電への依存度が高い途上国へのインフラストラクチャー輸出を構想している。しかし、世界有数の金融グループ等が発電効率の高低に関わらず石炭火力発電プロジェクト自体への融資を禁止する動きもあり、日本の石炭火力発電政策の逆風となる要素も考慮に入れる必要があると思われる。

機動性のあるエネルギー政策を

日本のエネルギー情勢の現状を考慮すると、今回のエネルギー基本計画は、いくつかの点において、近い将来に、見直しを行う必要が考えられる。
まずは日本における電力需要が伸び悩み、一次エネルギー消費量も減少基調にある点。福島第1原子力発電所事故(2011年)を契機とした電力不足による節電意識の強まりから、日本国内の電力需要は産業用をはじめとして伸び悩んでいる。また、人口減少、若年層のクルマ離れ、エコカーの普及などにより、ガソリン販売は毎年2〜3%の割合で減少している。
次に、原子力発電所の再稼働状況が、一段と不透明となっている点。エネルギー基本計画が謳う原子力発電の電源比率(20〜22%)を目指すためには、2030年度までに再稼働、新設合わせて30基の原子力発電を動かさなければならないが、9月に発生した最大震度7の北海道胆振東部地震により、地震国日本における原子力発電所再稼働への懸念は一段と強まっている。原子力発電の稼働が見通せなければ、LNG火力発電でバック・アップすることになるが、どれだけの量のLNGを、何年にわたって長期契約すればいいのかなど、LNGの効率的かつ経済的な購入に難しい舵取りを迫られることになる。
さらに、日本がエネルギー政策の見直しに手間取る間に、中国やEUなどは再生可能エネルギーの普及と環境関連産業育成を着々と進めている点。中国は都市部の大気汚染対策のために国家政策としてLNG輸入を増加させ、EUは諸国間の送電系統整備による電力の相互融通策により、再生可能エネルギーの普及とエネルギーの安定供給の両立を実現しようとしている。
日本は低炭素社会に向けて、燃料電池車、燃料電池(エネファーム)、水素液化をはじめとした水素技術、リチウム・イオン電池に係わる世界最先端の技術を誇っているものの、2050年に向けた温室効果ガス80%削減への具体的政策を描けない状況にある。日本のエネルギー政策は原子力発電の割合を決めて、他の火力発電、再生可能エネルギーが補完するという方針をとってきた。しかし、電力、石油製品をはじめとしたエネルギー需要が伸び悩む状況下においては、エネルギー政策の見直しを機動的に行っていかなければならない時期に来ているのではないだろうか。世界の潮流が、地球温暖化対策の枠組みとしてのパリ協定目標達成に動き出すなか、日本の優れた環境技術を活かした、より有効性のあるエネルギー政策が待たれている。

エネルギー
よもやま話

トランプ大統領のツイッターに踊らされる
日本のエネルギー事情

春以降の原油価格は、歴史上例を見ない展開となっている。
今年4月、米国はシリア空爆を実施。5月にはイランとの核合意を破棄して、イラン原油輸入停止を各国に求めた。トランプ大統領はツイッター等を使って、マッチ・ポンプのように原油価格上昇要因と下落要因を作り出し、国際原油先物市場に介入している。
この状況を作り出したのは、トランプ大統領自身である。にもかかわらず、11月の中間選挙を前に国民の批判が強まることを恐れ、「OPECが減産して原油価格を吊り上げている。OPECのせいだ」等とツイッターで発言し、イランからの供給減少分をOPECによる増産により補うよう働きかけた。しかし、中間選挙を睨んだトランプ大統領の様々な対応も「原油価格引き下げには力不足」という見方が多数を占め、原油価格は依然として高値を維持している。11月4日にはイラン原油輸出に対する制裁が始まる。原油輸入量の5.5%(前年度実績)を輸入し、イランと歴史的友好関係がある日本は対応に苦慮している。
これまでは原油価格が上昇すると米国のシェール・オイルの生産量が増加し、結果として原油価格の上値を抑える役割を果したが、イランからの原油供給の減少分を補うほど、短期間のうちにシェール・オイルの生産量を増加させることは難しい。
さらに、米中の貿易戦争の激化で、世界的な保護貿易による縮小均衡から世界経済の成長率が鈍化する可能性も看過できなくなっている。米国の政策金利引き上げに起因する新興国通貨の下落に伴う景気停滞で、銅、金、アルミニウム等の一次産品の価格も下落している。石油消費の牽引役だった中国、インドの石油需要を低迷させる可能性も強まっている。
"米国第一主義"を唱えるトランプ大統領が、選挙対策として共和党保守派の支持層重視の政策を掲げる限り中東地域との緊張関係が続き、北海ブレント原油価格は1バレル70〜80ドル超の高値となる可能性も出てきている。そうなれば、原油価格連動分のLNG価格上昇要因にもつながり、日本の企業、国民に大きな影響を与えるものとなるであろう。