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オバマ前大統領による制裁解除

世界の原油埋蔵量の3分の2を占める大国といえば、イランとサウジアラビアである。イランはサウジアラビアに次ぐ原油生産量400万b/d を誇る大産油国で、原油埋蔵量は世界第4位、天然ガス埋蔵量は世界第1位である。同国は保守強硬派のアハマドネジャド前大統領の進めた核兵器開発とウラン濃縮によって欧米諸国から制裁を受け、原油生産量が100万b/d以上減少したことで経済が立ち行かなくなっていた。
しかし、2013年に穏健派のロウハニ大統領に代わってからは欧米諸国との対話が進展、中東和平を掲げるオバマ前大統領の主導で、2015年7月に、米国、英国、フランス、ロシア、中国の国連安全保障理事会常任理事国とドイツを加えた6ヵ国が制裁解除に合意した。ウラン濃縮を制限することを条件に、2016年から世界各国への原油輸出再開への道が聞かれ、原油生産量を急速に増加させている。

イランを取り巻く情勢変化と原油価格に与える影響

オバマ前大統領の制裁解除に、トランプ新大統領は選挙中から強く反発してきた。大統領に就任するや、ただちに米国にとってテロの危険があるとして イランをはじめイスラム教7ヵ国出身者の米国入国禁止を行うなど、イランに対する敵愾心をあらわにした。今年1月29日にイランが弾道ミサイル発射実験を行うと、ミサイル開発、テロ支援に関係した個人、団体への追加制裁を行うとした。
さらに、トランプ政権の親イスラエル政策を後ろ盾に イスラエルのネタニヤフ首相がエルサレムのパレスチナ自治区への入植を進めている。トランプ大統領は米国大使館をイスラエル最大の都市テルアビブからエルサレムへ移転することに前向きで、それもイランを刺激している。
国連に加盟する多数の国家が中東和平に配慮して、大使館をテルアビブに設置している中、もし米国がエルサレムへの大使館設置を強行すれば、イランのみならずサウジアラビアをはじめとしたアラブ諸国、さらにはイスラム諸国全体が反米運動を強め、アラブの民衆による抗議運動やテロを誘発し、イスラム国(IS)台頭の隙を与え、中東地域は制御不可能な混乱に陥る可能性が考えられる。
今年5月にイランは大統領選挙を行う予定である。現状では穏健派のロウハニ大統領が優勢であるものの、米国の強硬姿勢に反発する保守強硬派が勢いを増すと、米国のイランへの強硬外交への報復としてホルムズ海峡封鎖という対抗手段に出る可能性がある。世界の石油消費量の2割が通過するホルムズ海峡の封鎖は、日本をはじめアジア大洋州への原油供給途絶を引き起こし、原油価格が1バレル80ドル以上に高騰する可能性も考えられる。
日本は米国の政策に従って、親日的なイランからの原油輸入を削減することを余儀なくされてきたものの、依然として輸入する原油の8割、LNGの2割は中東産油国からホルムズ海峡を通過している。米国のイランに対する外交方針の強硬姿勢への転換は、日本にとって決して他人事ではない。

エネルギー
よもやま話

トランプ政権閣僚人事の功罪!

1月、トランプ米国大統領の新政権が発足した。閣僚の多くが政治・外交経験のない実業家、軍人OBが占める異色の人事である。中でも閣僚の筆頭であり、米国外交の顔ともいえる国務長官にエクソンモービルのCEOであるレックス・ティラーソン氏を指名した。北極海をはじめとしたロシアにおける油田開発の実績により、世界最大のメジャーのトップに登りつめた人物である。
また、トランプ大統領は側近の一人に、シェール・オイル企業大手であるコンチネンタル・リソーシズの経営者ハロルド・ハム氏を登用。国土の2割以上を占める政府所有地におけるシェール・ガス、シェール・オイル開発に積極的な姿勢を示し、ガス田・油田開発の規制緩和によって雇用の創出と炭酸ガス排出削減の一石二鳥を目指している。その意味において、両氏の登用は石油・天然ガス業界にとって追い風といえる。
とはいえ別の一面もある。ティラーソン氏は先述したロシアでの油田開発の実績に加え、プーチン大統領とも親しい関係にある親ロシア派の人物である。ロシアの一方的なクリミア半島編入に対抗する欧米諸国による経済制裁の解除を主張したこともある。国務長官は米国外交の司令塔であり、世界の安全保障、エネルギ一政策にも重大な影響を与える立場にある。ロシアに対する警戒感が米国内には根強くあることから、ティラーソン氏の国務長官就任は民主党のみならず、与党である共和党内部からも警戒視されている。
現在、エクソンモービルはロシアにおける油田開発を中止しているが、経済制裁が解除され油田開発が再開されると、エクソンモービルとトランプ政権の癒着という批判を浴びる可能性もある。
大統領就任後の100日間はハネムーンと呼ばれ、支持率も高く、世論、マスメディアも、新大統領に寛大であることが通例であるが、国内の支持率は50%を割り込む状況が続いている。政権発足後50日経過時点でも、4閣僚ポストが承認されておらず、トランプ政権は多難な船出となっている。